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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第4章 王立魔術師学校マギア 前編
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「本当の覚悟」

修学旅行が始まってから3日が経った。

今日からは、アーサーも本格的に修学旅行に入れるようになっている。

「今日は、グループ対抗の模擬戦をやってもらう。今回のフィールドは、メリダスの近くにある、大森林だ。グループはすでにこちらで組んである。優勝チームには豪華景品も用意してある。では、頑張ってくれ」

生徒たちは、先生の決めたグループを確認し、喜ぶ者もいれば、悲しむ者も居た。

(グループに分けられると、レベッカを守りづらいね。それなら、こうしよう)

「先生、僕、少し体調が良くないので、今回は見学でもよろしいですか?」

「そうか、体調が悪いのか。なら、仕方がない。すまないが、オブリのグループは一人抜けることになる。そこは、どうにか頑張ってくれ」

先生がそう言うと、グループの者たちは落胆した。

なぜなら、一応はアランは1組に所属しているため、この魔術戦の要となる人物であったからだ。

その人物が居なくなるとすると、かなりの影響が出かねない。

「ごめんね、みんな...僕もみんなと一緒に出たかったんだけど...」

アランがそう言って、悲しそうな目をすると、皆はすぐにアランを励まし、何事もなかったかのように準備をし始めた。

皆が準備をし始めてから数分が経ち、先生から指示が出た。

「これより、模擬戦を開始する。ルールは基本的な魔術戦と変わらない。怪我をさせるのは良いが、重症や、死に至らしめる魔術は基本的に禁止だ。また、結界の中から出た者は即失格とみなす。開始の合図は、私が打ち上げた火の魔術によるものとする。では、皆位置につけ」

数秒が経つと、空に巨大な火が打ち上げられた。

それが開始の狼煙となり、一斉に生徒たちが動き始めた。

「先生の魔術はすごいですね」

「ただのファイアーボールだ」

「それでもですよ。あんなに大きいファイアーボールは僕も出せませんから」

「そうか。それより、良かったのか?この結界内はかなり危険だぞ。体調不良なら部屋で休むべきだ」

「僕もそうしたいですが、グループの皆さんに迷惑をかけているので、少しでも応援をしないといけないですよね」

「それは、良い心意気だな」

アランと先生が話していると、早速巨大な火の球と、巨大な光の矢が現れた。

「確か、君はこの学校でまだ、一度も二人の戦いを見ていないだろう。よく目に焼き付けておくと良い。この国最高峰の魔術師の戦いを」

アランが目を凝らすと、そこには赤髪の女と金髪の男が戦っていた。

そう、マリアとアーサーである。

二人の戦いは、周りを寄せ付けないほど、高レベルな戦いをしていた。

マリアの炎は、アーサーの魔術を飲み込むほど強力だった。

だが、アーサーはそれを知っているため、わざわざ正面から戦おうとせず、地道にマリアの魔力を削っていく戦法をとった。

「そういえば、あの二人はなぜ杖を使っていないのですか?」

「あの二人の魔力量が高いことは知っているな?」

アランがコクリと頷くと、先生はアランの質問に簡単に答えた。

「あの二人の魔力量に耐えれる杖が今現在、見つかっていないのだよ。だから、あの二人は杖を使っていないんだ」

「そうなんですね」

アランが二人の戦いを観察していると、続々と他のところでも戦いが勃発していた。

この魔術戦の勝敗を分けるのは、どうやってあの二人を潰し合わせるかにかかっている。

炎帝と第一王子。

どちらも、この国の魔術師としてトップの実力を持つ。

宮廷魔術師を何百人も連れてくれば、あの二人を止められるだろうが、この学園にそれほどの実力を持った者はそういない。

へルックやベルージュあたりでは、二人に傷一つつけることはできないだろう。

なので、皆はどうやって、あの二人と戦わずに倒すかを考える。

そうすると、やはりこの結論にたどり着く。

「二人で潰し合わせる、か。確かにその戦法が最適解でしょうね」

二人の魔術戦は激化していたが、他の生徒たちも負けず劣らず、素晴らしい戦いを見せてくれた。

アランに一番近いところではへルックが、大暴れし、他グループをなぎ倒していった。

一方ベルージュはへルックとは反対側に位置し、皆に雷を浴びせて戦闘不能まで追い込んでいた。

「そういえば、ターナー嬢の姿が見えないな。彼女は隠れる戦法を取ったようだな」

そんな話をしていると、アランの耳飾りが黄色く光った。

「すみません、少し席を外しますね」

「これは、独り言だ。人殺しは立派な犯罪だ。それだけは覚えておけ」

「...いつから?」

「これは、私の推測でしかない。この数年間このクラスを担当してきたが、ターナー嬢はかなり用心深い。簡単に、心を許すとは思えない。更に、あの第一王子が簡単に心を許した。第一王子は何年もかけて相手を判断する。そんな男が簡単に気を許すはずがない。この時期に合わせて転入するということは...選択肢が限られてくる」

「そうですか。これを誰かに言うつもりは?」

「ないよ。もともと私は第一王子派だからね」

アランはその言葉を聞くと、どこかに去って行った。

 * * *

(なにか変ね。妙に静かだわ)

レベッカが周囲を警戒していると、木の陰から数人の男たちが現れた。

「やあ、レベッカ」

「あなた達、なにかしたわね」

「すごいね。御名答だよ。ここには簡易結界を張った。今ここにいるのは、君と俺達だけだ」

レベッカが周囲を確認すると、確かに結界が張ってあった。

この結界は外部から張られたもので、レベッカの実力では壊せそうにないものであった。

「それで?私は一人にしてどうするつもり?」

「君を拘束して、俺達の玩具にするんだよ」

「ゲスね。そにれ、それは不可能よ。あなた達じゃ、私には勝てない」

レベッカがそう言うと、男たちは懐から何かを取り出した。

よく見ると、それは小瓶に入った液体であった。

色は黒紫で、邪悪なオーラが溢れ出ていた。

「高濃度の魔流...でも、それは禁制品よ。持っているだけで、即処刑台行きのものよ」

「知ってるさ。じゃあ君に一つ問題を出そう。この魔流は確かに禁制品だ。だが、それはなぜだ?」

「それは...違法薬物と同じ理由よ。魔流は私達にとって危険な薬物よ。確かに魔力は向上するわ。でも、副作用が強すぎ...あなた達、まさか!」

「そう、そのまさかさ」

男たちは小瓶の蓋を開けると、魔流を一気に飲み干した。

魔流を飲んだ男たちは、魔力が普段の十倍以上になり、身体能力も著しく向上した。

だが、副作用も少し出始めていた。

男たちの思考力が低下し、体からは血管が浮き出ていた。

「さ、流石にきついな。でも、これさえあれば...」

一人の男が、近くの木にファイアーボールを放った。

初級魔術であり、普段なら少しへこむ程度であるが、今回は違った。

「嘘でしょ...」

樹木をへこませるどころか、その周辺を焼失させていた。

あまりの威力に、レベッカも流石に気が引けていた。

(こ、こんなの、私一人じゃ相手できない!どうしよう...結界を解析して破壊する?でも、それには時間がかかる。その前に私がやられる...お願い...助けて、アラン!)

レベッカは、最後の願いに望みをかけた。

どうにか時間を稼ごうと、魔術を使って相手の進路を妨害していた。

そこへ、最後の望みであり、最高の望みが到着した。

「人?結界があるはずだが...どういうことだ?」

そこには、ローブを被った一人の魔法使いが居た。

男は問いかけたが、沈黙を貫いた。

すると、魔法使いはレベッカの方に振り向き、一言放った。

「殺しても良い?」

レベッカは、その言葉に初めて、自分が今、人を殺そうとしていることに気がついた。

(私がもしアランに返答をしたら、この人たちは死んでしまう...いくら私を狙ったからといえど、所詮は人間...一度きりの人生...私は、どうするべきなの?)

レベッカが考えていると、戦闘が始まってしまった。

男は、アランに勝てると判断したらしい。

男はアランとの距離を詰め、殴り飛ばそうとしたが、その拳は、届かなかった。

「う、動かねぇ!」

アランは、左手の人差し指で男の拳を防いでいた。

「どうするの?この人、こないだの店主も襲ってるよ」

「え?」

レベッカが男の服装をよく見ると、店主が身につけていたネックレス等を、身につけていた。

そこで、レベッカは気づいた。

(まさか...私だけでなく、他の人にも手を出しているの?)

決断の時が迫ってきた。

(私は...どちらかを選ばないといけない...罪人を、生かすか、殺すか...私は、どうすれば良いの...)

レベッカが苦悩していると、アランはそれを察し、レベッカの手を握った。

「大丈夫、僕がついてる」

「アラン...わかったわ...これは、相手への、見せしめよ。ターナー家を敵に回すと、どうなるか。アラン、殺して」

レベッカがその言葉を発したときには、男たちの首は宙を舞っていた。

その様子に、アランはレベッカの言葉を待っていたように見えた。

アランは、もとからこの男たちを生かすなど考えていなかったのだ。

「じゃあ、帰ろっか」

「...うん」

アランは死体を引きずりながらレベッカと一緒に結界の外へと出ていった。

帰り道、レベッカはあまり元気が無さそうに見えた。

レベッカは、人を殺してしまった自責の念に駆られているのだ。

「...私、もう、人殺しの罪人だわ...」

「...」

「覚悟をしていたのに...アランにあんなひどいことをさせて...私ってば、恋人失格よね...」

以前のレベッカよりも更に暗く、今にも泣き出しそうな雰囲気であった。

それに気付いたアランは、話しだした。

「レベッカ。もし、君が居なくなったら、この国の経済は衰退する。君が居なくなったら、何千人もの人たちが飢餓に苦しむ。わかる?それを起こそうとしてきたのは、あの男たちだ。レベッカは、相手を殺すぐらいなら、自分が死んだほうがマシだと思ってるでしょ。でも、そうすると、レベッカを育ててきた人たちはどう感じる?君の命は、君だけのものじゃないんだよ」

「アラン...ごめん、私の覚悟が 足りてなかったわ。アランにこんなことを言わせるなんて、私ったら何してるんだろう。ごめんね、アラン。私も覚悟を決めたわ」

「そう。なら、帰ろう」

覚悟を決めた者たちの影は、とても子供には見えないほど、大きかった。

 * * *

「今回の優勝チームはBチームだ」

優勝チームが表彰台に乗ると、大きな拍手が舞い上がった。

優勝メンバーの中には、ベルージュもいた。

今回の模擬戦は、皆の思惑通り、マリアとアーサーが潰し合ってくれた。

その結果、二人は相打ちとなり、残る優勝者候補はレベッカ、ベルージュ、へルックのチームとなった。

レベッカは、事件に巻き込まれたため、棄権。

残る二人であるが、へルックは最初の方に飛ばしすぎたので、ベルージュと戦闘している際に魔力が底をついてしまった。

こうして、優勝チームが決まったわけだが、豪華景品はというと...

「君たちには、これを...」

先生が、生徒たちに一つの箱を渡した。

箱を開けると、中には装飾の凝った懐中時計が入っていた。

どうやら純金が使われているようで、かなり重かった。

装飾には、最初に使われた魔術式が掘られていた。

この懐中時計には表蓋があり、それを開くと、文字盤が見えた。

文字盤は一般的なものと違い、なかのゼンマイ仕掛けが見えるようになっていた。

さらに、文字盤にはかなり小さいが、宝石などが散りばめられていた。

この懐中時計は、いくら成人しているとはいえ、学生が持って良いような代物ではなかった。

「これ、モルフォルナの時計じゃない?」

レベッカがベルージュの持っている時計をよく観察すると、紋章が入っていた。

隣国のミオラを越えたその先にある小国、モルフォルナ。

モルフォルナは技術の国と言われている。

モルフォルナで作られるマスケット銃は、魔術に匹敵するほど強力、と言われているほど、技術力の高さが評価されている。

その中の一つとして、時計が話題に出る。

モルフォルナの時計は、千年は持つと言われており、その品質の高さから高額で取引されることが多々ある。

「これ、本当に良いのですか?下手したら家が買えてしまう程のものでは...」

「それは、管理人からの贈り物だと聞いている。確かに一学生には過ぎた代物だ。だか、この学園にいる時間も残り限られている。管理人は君たちに感謝を伝えるため、このような代物を用意しているのだろう」

「そうですか...なら、ありがたく、受け取っておきます」

 * * *

模擬戦は、丸一日使うため、もう日が暮れていた。

「そういえば、今日の模擬戦、一度もレベッカを見てないんだけど...何かあったの?」

「まあ、色々とね」

レベッカは、何事もなかったように話した。

そんな様子に、ベルージュは少し安心したような様子を見せた。

「そう...まあ、それは良いとして、アランちゃんは明日、空いてる?」

「明日は...確か祭りだっけ?明日と明後日の2日間あるんだよね」

「そうよ。誰かと周る予定はある?」

「明日はちょっと空いてないかな。少しやることがあるからね」

その言葉を聞くと、ベルージュは落胆した。

そこへ、夕食が運ばれてきた。

皆は一日中気を張っていたため、かなり疲弊していた。

そのため、夕食を見ると、すぐに手を付け始めた。

皆の手が止まり始めていた頃に、再びベルージュが話しかけてきた。

「明後日は空いてるの?」

「うーん...まあ?レベッカが良いって言うならだけど...」

アランがレベッカの方を見ると、見るからに嫌そうな顔をした。

すると、レベッカが口を開いた。

「デートの邪魔をしないでくれる?前から約束してたんだけど。アランはもちろん私と”二人”で行くわよね?」

「ま、まあ?」

「はい。じゃあ、そういうことだから、マリアも聞いていたわね?」

「え?何か言った?」

マリアはさっきまで食いつくように聞いていたはずなのに、何も聞いていなかったようにとぼけた。

「ベル、君は人の恋路を邪魔する人だったかい?」

「殿下...”今回”は二人で楽しんできなさい。でも、次はないと思いなさい」

マリアもなにか言おうとしたが、突然何かを思いついたような顔をして、言葉を飲み込んだ。

皆が一息していると、一人が居ないことに気づいた。

「へルックは?」

「へルックなら、あそこにいるよ」

アーサーが指したところを見ると、へルックはテーブル一杯の料理を、次々に食べていた。

屋敷の執事たちが一生懸命に料理を運んできているが、その速さを超えるほどの速さで、へルックは食事をしていた。

「なんか、ご飯が消えてくんだけど...」

「ほんと、あんなに食べてたら食費がいくらになるのかしら」

「私はへルックとは親友だが、食事にはあまり誘いたくないね。私の給料が一瞬で消えるからね」

「アーサーさんの給料が消えるって...」

皆がへルックを見つめていると、その視線に気付いたのか、料理からアランたちへと目線を変えた。

すると、へルックは片手に料理のよそわれた皿を持ち、こちらに向かってアイコンタクトをとってきた。

(いる?)

(いや、流石に食べれないって...)

アランもかなりの食事量だが、流石に皿一杯に盛り付けられた料理は、食べれる想像がつかなかった。

その後、へルックはさらに1時間ほど料理を食べ続け、やっと満腹になったようだ。

「いやぁ、良いね。ここは何回料理を頼んでも無限に出てくるよ」

「料理人さんの顔は真っ青だったけどね...」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、なんでもない」

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