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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第4章 王立魔術師学校マギア 前編
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「世間は狭い」

アランたちは、昼食を取るためにレストランへ来ていた。

「ここよ。ちまたでは隠れた名店って言われているらしいわ」

「そうなんだ。確かに良い匂いがしてくるね」

アランたちが入店すると、そこには見覚えのある少女が居た。

「あ!さっきのお姉ちゃん!」

「メル!どうしてここに?」

「ここ、メルたちのお店!」

すると、厨房の奥からメルの母親が出てきた。

「れ、レベッカさん!もしかして、私たちのレストランにいらっしゃってくださってんですか?」

「そうです。ここは美味しい料理があると評判なので」

「そんな大層なものではないですよ。とりあえず、空いてる席にお好き座ってください」

アランたちは席に座ると、皆はメルがおすすめした特製カレーを注文した。

料理が出てくる間、アランたちは修学旅行の予定について話していた。

少し時間が経つと、厨房から食欲をそそる匂いが漂ってきた。

お昼時になり、かなり客が入ってきたところで、メルがカレーを運んできた。

特製カレーの見た目は、カレーにしてはサラサラしていた。

アランが一口、口に入れると、頬がとろけるような美味しさであった。

皆が食べ始めたところで、メルが焼きたてのパンを持ってきてくれた。

アランはパンをカレーにつけて食べた。

またこれも絶品で、アランはこれを冷凍保存して持って帰りたいと思ったほどだ。

皆が食べ終えて一息ついていると、1人の男が入店してきた。

「お!ファルクスじゃねぇか!今日もあんがとな!」

「流石ファルクスだな!あんな工事も簡単にこなすなんて!」

「いえいえ、私はただ自分の得意な事をしただけですよ」

入店した客は、この周辺の街では有名なのだろう。

歩くたびに話しかけられていた。

その様子に、アランたちもその男の方に注目した。

その時だった。

店内の中で、風が吹きあられ、机は粉砕され、料理は宙を舞った。

「なぜ、魔族がここにいる?」

男には、魔族特有の角が生えていた。

アランは男の首にセシルを突きつけていた。

「これは失礼。私は...」

「お父さん!お帰り!」

「え?」

あまりの衝撃に、アランは硬直し、その間にメルは男に抱きついた。

「ただいま、メル。ちゃんとお母さんの手伝いできたか?」

「うん!」

「ん?お父さん?え、ん?」

「すまないね。少し私の話をしようか」

 * * *

「えっと、つまりは奥さんは人間で、メルはハーフで、ファルクスさんは魔族...でも、人間に育てられてほぼ人間って...わけわかんないよ!」

「確かに、殺気は感じられない。先程はすみませんでした...お店もこんなにしちゃって...」

「いえ、初めて会う人は警戒して当然ですからね。それより、かなりの実力者のようですが...」

ファルクスが、アランに何かを聞こうとしたが、アランの顔を見て、すぐにそれをやめた。

まるで、ファルクスはこの世界にある一つの禁忌に踏み込むような感覚であった。

「人様の領域に踏み込むのはやめておこう。それより、この惨状をどうしようか...」

「うぅ...すみません...」

「じゃあ、みんなで片付けましょ!」

その後、アランたちは仲良く店内を綺麗にした。

その間に聞いた話によると、ファルクスは魔族の特徴である力の強さを活かし、建設業をやっているそうだ。

最近では、ミオラからの難民が大勢来ているため、仮設住宅を作るので忙しそうだ。

「皆さんは、もしかして修学旅行でこちらに?」

「え、ええ。でも、私たちがよく修学旅行生だと分かりましたね」

「なんとなくですよ。皆さんお若いし、何より皆さんのような美貌の持ち主はこの街には居ませんからね」

「あははは...」

レベッカは苦笑いをすることしか出来なかった。

「ねぇ、お兄ちゃんは、なんでこんなダボダボな服を着てるの?」

「えっと、なんでだろうね...」

「最近のトレンドなのよ!メルもいつかオシャレする時が来たらわかるわ」

片付けが終わったところで、アランは持ち帰り用の食事を頼んだ。

「それは、ビクトリアたちの?」

「そうだよ。あと、アーサーさんのもね。1人で可哀想だからね」

「あの男にはそれぐらいが丁度良いのよ」

「お姉ちゃんはいつも当たり強いね...」

「確かに。マリアはなんでそんなに殿下を嫌うのかしら」

「色々あったのよ。それより、もうすぐ出ないと次間に合わないんじゃない?」

レベッカが懐から懐中時計を出すと、レベッカの予定していた時刻と、全く同じ時刻を指していた。

「予想通りね。旅行はトラブルがつきものだから、時間には余裕をもっているわ」

「次は...あぁ、あの筋肉だるまが行きたいって言ってたところね」

「早く行こうぜ!俺は待ちきれないぞ!」

 * * *

アランたちが、レストランから出て十分ほどが経った。

「来たぜ、猫カフェ!」

「想像と180度違った...」

中に入ると、早速名前の通り猫が出迎えてくれた。

「猫はやっぱり可愛いな!」

「ここは、確か元祖猫カフェだっけ」

「そうなんだぜ!ここは猫好き界隈では、聖地とされている場所なんだ!こんなの、行くしかないだろう!ここは天国だ!」

へルックはそう言うと、猫の集団へと走って行った。

「へルックが猫好きだとは知らなかったよ。それにしても、猫ってこんなに人を嫌うの?」

アランの周りに居た猫は、毛を逆立て警戒心丸出しであった。

アランが近づこうとすると、猫の警戒心は更に強まった。

「私たちのところには来てくれるのに、なんでアランちゃんには近寄らないんだろう...」

アランは猫に懐いてもらうために、色々なことをした。

猫の餌を持ってみたり、猫じゃらしを持ってみたりしたが、どれも効果がなかった。

「うぅ、なんで僕だけ...みんなばっかりずるい!」

「拗ねいでよアラン!ほら、こんなに可愛いんだよ?」

レベッカはそう言うと、抱いていた猫をアランに近づけたが、猫はあからさまにアランを警戒して、レベッカのことを引っ掻いた。

「イタ!ごめんね、無理して。ほら、お詫びにこれあげるから許して?」

レベッカが持っていた餌をあげると、その猫はレベッカの懐へと入って行った。

その頃、ベルージュはその隣でメニュー表を見ていた。

「ここにいる猫はみんな保護された猫なんだね。でも、今はみんな人懐っこいって書いてあるわね。ますますアランちゃんが嫌われる理由がわからないわ...」

「なんでだろう...僕、前世でなにか悪いことでもしたのかな...」

そんな話をしていると、1匹の猫がアランに近づいて来た。

「な、なんか、神々しい...」

その猫は、光をすべて跳ね返すほどの白い毛並みであり、他の猫を一切近づけさせない、異質感があった。

その猫は、アランにゆっくり近づいて行くと、アランの膝へゆっくりと上り、尻尾をゆっくひとふりながらあくびをした。

「すごい!アラン良かったじゃない!懐いてくれる猫もいるじゃない!」

「う、うん...」

(この子、すごく冷たい...今日はそんなに寒い日じゃないと思うんだけど...僕があっためてあげよう)

アランがそんな事を考えていると、急に眠気が襲ってきた。

「今日は、少し疲れたな...ちょっと、眠たく...なって...き...」

アランは、猫を抱えたまま眠りについてしまった。

「おやすみ、アラン。時間になったら、お姉ちゃんが起こしてあげるわ」

アランは体勢を崩し、マリアにもたれかかるような姿勢になっていた。

「あ!私のポジションが!」

「うるさいわよ。アランが起きるでしょ。アランは今日一日、レベッカを守るために気を張ってたのよ。これくらい許してあげなさい」

「はぁ...少しだけだからね!」

数時間後...

「んん...あれ、少し寝ちゃってた...」

「起きたのね。丁度良かったわ。そろそろ行くわよ、アラン」

「...わかった。あれ?さっきの子、どこ行っちゃったんだろ...」

「そういえば確かにいなくなってるわね。あの子の名前はなんだったのかしら」

マリアは、メニュー表を確認したが、あの猫はどこにも載っていなかった。

「あれ?どこにも載ってない...まぁ良いわ。それより、今日最後の場所へ行くわよ!」

「そうだね。でも、その前にへルックをあそこから引き剥がさないと...」

へルックを見ると、床にしがみついており、それをベルージュが引き剥がそうとしていた。

どうやら、へルックはここから離れたくないらしい。

頭に来たベルージュは、へルックの体に電流を流して無理やり引き剥がした。

「じゃあ、ラスト、行くわよ!」

 * * *

「綺麗...」

アランたちは街から近い丘に立っていた。

集合時間まで残り30分を切った。

アランたちは、猫カフェから数十分かけてここまで来た。

その頃には、夕日は落ちかけていた。

夕日の暖かい光が、街やアランたちを照らし、とても幻想的な風景であった。

「一日の最後に、一番良いでしょう?前来た時にここを見つけたの」

「すごいよお姉ちゃん!本当に綺麗だよ!」

「そうでしょう、そうでしょう!もっとお姉ちゃんを褒めても良いのよ?」

「まったく、ひどいな君は。私を仲間はずれにするつもりかい?」

皆はその声を聞くと、すぐに振り返った。

そこには、長身で、金髪、そして整った顔つきの、一人の成年が立っていた。

「アーサーさん!」

「本当に来たのね」

「いやぁ、今回"は"マリアに感謝だね。この景色を、みんなと見られて私は嬉しいよ」

「あれ?あんなに嫌いって言ってる割には、マリアってば、殿下のことちゃんと気遣ってんじゃん」

ベルージュがそう言ってマリアを煽ると、マリアは冷酷ない顔で話し出した。

「ここにアーサーを呼んだのは、アランが可哀想だと思ったからよ」

「可哀想?」

「アランは、昔から周りの人間たちに恵まれてこなかった。友人もいなかった。本当の家族と言える者もいなかった。だから、こんな時だけでも、アランには友人との、楽しい思い出を作って欲しい。それだけよ」

「お姉ちゃん、そこまで...でも、一つ、間違ってるよ」

「間違ってる?」

「僕には家族がいる。僕の目の前に、ずっと。これまでも、これからも」

「エディ...」

マリアはその場でアランを強く抱きしめた。

「やばい...涙が...」

レベッカやベルージュの目からは夕日に反射するものが、出ていた。

「ハンカチ、いるか?」

「...いらないわよ...あんたのなんか!」

ベルージュはへルックの手を振り払った。

アーサーは、その間に何かを準備をしているようであった。

「では、撮ろうか」

「ほんと、手際が良いわよね、あんたって...」

「そりゃあ、王子だからね」

「それは...カメラ?」

アーサーの手にはカメラが握られていた。

三脚にカメラを装着すると、このカメラの仕様について話しだした。

「これはね、魔力を送ると自動で写真を撮ってくれる優れ物なんだ。夕日が沈む前に撮ろうか」

夕日を背に、皆はアランを中心として集まった。

「はい、みんな笑って!」

その写真は、沈みかけている鮮やかな夕日に照らされる、6人を映したものとなった。

アランはこの写真を見て、一つの感情が湧いた。

(今まで見て来た景色での中で、一番綺麗...)

 * * *

夕日が沈み、月明かりが照らす、真夜中...

そこに3人の人影が見えた。

「これは絶品じゃ!」

「そうですね。さすがアラン様が絶賛していただけありますね」

「アラン様、というのは、海のように透き通る目をした子ですか?」

「...なぜ、あなたがそれを?」

「今日、その子がうちの妻のレストランに来ましてね。それに、そのカレーはうちの看板商品ですよ。お口にあったようでなによりです」

「そういえば、あなた結婚したそうですね。どうやら子供いるとか、なんとか」

「さすが、耳が早いですね。うちの子は今年で4歳になりました。とても可愛いですよ」

その男は、娘のことを大層可愛がっているようで、先程までの冷静さが、どこか欠けていた。

「魔族と人間が結婚か...千年前では考えられない時代じゃな」

「"今も"ですよ。私が皆様に良くしてもらっているだけですから。それより、頼まれていた件ですが...あなたの読み通り、生徒が実行犯のようです。今日あなた方が処理した者たちはその監視役のようですね」

「それで、黒幕は?」

「私の情報網を駆使しましたが、分かりませんでした。どうやら、情報統制がされているようで」

「そうですか。でも、それだけでも、充分な収穫です。代金は、後ほど支払いましょう。では、これにて」

メイドの服装をした銀髪の女と、桃色の髪を持った少女は、カレーを食べながら去って行った。

「恩人であるあなたに、ご武運を」

男は二人の背中に向かってそう言うと、路地裏から大通りへと向かって行った。

 

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