「南部最大都市メリダス」
南部最大都市メリダス、ラファエル王国とミオラ王国の国境沿いであり、最大の貿易都市である。
現在では、ミオラ王国が滅んだため、避難してきた者たちが大勢居た。
「後少しで着くんだよね」
「そうね。私も久しぶりにメリダスに来たわ。それにしても、人が多いわね?」
レベッカはアランを覗き込んだ。
「うっ...すみません...」
「そういえば、ビクトリアとアリシアは連れて来なかったの?」
「2人なら下処理をしているよ」
「下処理?」
* * *
「これで3匹目じゃな。まだまだいそうじゃが...」
アリシアの背には、3人の男たちが倒れていた。
すると、目の前から血で汚れたメイド服を着たビクトリアがやって来た。
「まだまだ居そうですね。アラン様たちがこちらに来る前に、ゴミを処理しておきましょう」
「全く、やめて欲しいものじゃな。これに加えて、あっちには裏切り者もいるらしいな」
「ほんと、困ったものですね」
2人が話をしていると、馬車の音が近づいて来た。
「一度引き上げましょうか」
「そうじゃな」
* * *
メリダスの街道には、馬車による長蛇の列ができていた。
その中には、アランとレベッカの馬車や、アーサーの乗っている馬車が並んでいた。
その終着点には、ひときわ大きな屋敷がそびえ立っていた。
馬車は順番に入っていき、アランたちも屋敷に入っていった。
皆は、自分の部屋へと荷物を運ぶと、広場へ集まった。
「今回は、1週間の予定です。1日目の今日と、明日の2日間はメリダスの街の観光を楽しんでくれ。それでは解散!」
「じゃあ、行こう、アラン!」
アランたちの班は、レベッカ、へルック、マリア、ベルージュ、そしてアランの5人であった。
「アーサーさん、残念でしたね...」
「まあ、しゃあねぇな。王子様はいつ狙われるかわからねぇから、街を勝手に出歩いたら困るんだろう」
アーサーは、安全上の問題で、今回の観光は見送りとなった。
だか、それ以外の5日間は生徒たちと共に修学旅行を楽しむ予定である。
今日は日差しが強いが、そこまで気温が高いという訳ではなかった。
今回の修学旅行は皆制服ではなく、私服である。
国の重要人物もこの修学旅行に参加しているため、少しでもその者たちを隠したいのだろう。
「その服似合ってるぜ!俺たちが頑張って選んだ甲斐があったな!」
「ほんと!アランは何を着ても似合うけど、これは本当にセンスが良い!額縁にこの光景を飾りたいわ!」
「ブラコンって怖いな」
「そうだね...街中なんだからもうちょっと控えてくれると良いんだけど...」
「あ」
その言葉を聞いて、マリアはすぐに態度を改めた。
「でも、少しやりすぎじゃない?色んな人から視線を集めてるわよ。私のアランなのに...」
レベッカが少しいじけながら話した。
「レベッカのアランちゃんじゃないわよ。それより、聞こえてこない?」
ベルージュがそう言うと、皆は話をやめて耳をすませた。
すると、何やら子供の泣いている声が聞こえてきた。
その声の方向へと進むと、露店の前で泣き叫ぶ少女と、その母親がその子を慰めていた。
すると、へルックが2人に話を聞きに行った。
どうやら2人の話によると、2人はここの露店でゲームをしていたそうだ。
「それで、何度やっても当たらないと。そりゃあ、インチキかなんかやってんじゃねぇか?」
「おいおい、店の前でそんな事を言われたら、こっちも困るんだよ」
露店の店主は、豪華なネックレスに、何個もの指輪をつけていた。
店主の服装を見ると、かなり儲かっていそうだ。
「では、一度お願いします」
そう言ったのはレベッカであった。
レベッカは、手に持っている銀貨を一枚渡すと、店主はにこやかにこのゲームのルールを話し始めた。
「このゲームはいたって簡単だ。この3つのコップの中に一つだけ、この赤いボールが入ってる。俺がこの3つのコップを混ぜる」
用意されていたコップは紙製のようで、どこかはどう見ても仕掛けはされていなかった。
ボールも同様、そこらへんの店で買えるものと大して変わりなかった。
(このボール...うちの商品ね。それなら小細工はできない。そうなると、この机に仕掛けがあるのかしら)
「俺が、この3つのコップを混ぜる。それを、嬢ちゃんは赤いボールがどこに入ってるか当てる。もし当たったら、払った金額の2倍を俺が嬢ちゃんに払う。簡単だろう?」
「そうですね」
「じゃあ、早速始めるぞ!」
男は3つのコップを混ぜ始めた。
最初の方はゆっくりであったが、段々と早さが増していった。
(確かに速いわね。でも、これなら目で追えるわね)
店主が手を止めると、レベッカはすぐに一つのコップを指差した。
「これね」
「じゃ、開けるぞ!」
店主がコップを開けると、そこには、何もなかった。
レベッカは無表情であったが、アランやへルック、マリアにベルージュは困惑していた。
「あれ?絶対にあれだと思ったんだけどな...」
「同意見だ」
すると、レベッカは持っていた袋から銀貨を取り出した。
「もう一度お願いします」
「はいよ」
それから、レベッカは何度も挑戦したが、ことごとく失敗した。
その様子を見ていた子供の母親が、流石に止めに入った。
「あ、あの、私たちのことなら大丈夫ですから、その、もう諦めた方が...」
「では、これで最後にいたしますわ」
レベッカがそう言うと、袋から数枚のきらびやかな硬貨を出した。
「へぇ、嬢ちゃんはどっかの貴族様かなにかかい?」
「そんなところです」
レベッカが取り出したのは金貨10枚。
これまで使った金額の合計を、ゆうに超える金額であった。
「ま、待ってください!ほ、本当にそこまでしなくて大丈夫ですから!」
「落ち着いてください。私は一度たりとも負けていませんから」
男が慣れた手つきでコップを混ぜ始めた。
(どっかの貴族か知らんが、本当にバカだなムキになって金貨を出すなんて、商売は楽で良いな!)
男が手を止めると、レベッカは最初と同じように指差した。
(この金でなにをしようか。考えるだけで楽しいな!)
だか、その時男の表情が一変した。
レベッカは指を差したかと思うと、その手でコップを開けた。
「あ、ちょ、待っ...」
アランの目にはレベッカの顔が映り込んでいた。
いや、反射したと言った方が正しいだろう。
そこには、赤く、鮮やかなボールが立ち尽くしていた。
「ぼ、ボールが!」
すると、レベッカはさらに手を動かした。
右、左とコップを開けると、更に赤いボールが2つ現れた。
「ボールが3つ!?どういうことだよ!?」
へルックたちは男の進路を塞いだ。
「あなたに、一つアドバイスを差し上げましょう」
「あ、アドバイス?」
「商売は、正直にやりなさい」
男はその言葉を聞いて、震えながら、慌てて逃げだして。
「あっ、ちょ!」
へルックはすぐに追いかけようとしたが、レベッカがそれを止めた。
「大丈夫よ。それより、はい、これ」
レベッカは机の下にあった袋を、女の子に渡した。
その女の子が袋を開けると、そこには大量の金貨が入っていた。
「すごい!お母さん!沢山あるよ!」
「こ、こんなに...これは受け取れません!」
「では、一つ教えてください。君の名前は?」
「私はメル!お姉ちゃんは?」
「私はレベッカよ。メルが名前を教えてくれたから、それあげるわ」
「そ、そんなの理由になりません!」
「じゃあ、一つだけ言っときますよ。私は月に40万枚、金貨を稼いでいます。つまり、そんなはした金、私は必要ないのですよ。だから、それはメルのために使ってあげてください」
「そ、そ、そうですか...な、なら、これは、大切に、使わせてもらいます!このご恩は、一生忘れません!」
「忘れません!お姉ちゃん、またね!」
メルと、その母親はレベッカに向けて、深々と礼をして、去って行った。
ここで、露店で行われたイカサマを解説しよう。
今回使われた道具は、紙コップと赤いボール。
このボールは、紙コップの直径と極めて等しい大きさである。
そこで店主はこの特徴と、紙コップの柔らかさを利用した。
仕組みはこうだ。
まず店主は、全ての紙コップにボールを入れた。
そして客が決めた紙コップを、力を入れて上げる。
そうすると、直径が等しいのでボールは紙コップと一緒に持ち上がる。
仕組みはいたって簡単であるが、賢いものならその下にある机などを観察するだろう。
男はその先入観を利用して、客を騙していたのだ。
レベッカは、一番最初の段階でイカサマに気づいていた。
だか、レベッカはそれを指摘するのではなく、あえて店主を泳がせたのだ。
そして、店主の気が緩んだところで、レベッカがこのイカサマを明るみに出した。
店主の男は、客の先入観を手玉に取り、イカサマをして荒儲けをしていたが、今回はレベッカが男の先入観を手玉に取ったというわけだ。
「そこまで考えていたんだね」
「まあ、そりゃあね。これでも商人だからね」
「商売は正直にって、レベッカにそのまま返してあげたい言葉だわ」
マリアが皮肉を言うと、レベッカは冷たい目つきで言った。
「商売は、相手を騙してなんぼだから」
「そうですか...天才がそう言うなら、そうなんでしょうね。そういえば、あの男は大丈夫かしら。なんなら、今からしばきに行く?」
「大丈夫でしょ。それじゃ、みんな、行こっか!」
* * *
路地裏に、息を切らしな1人の男が立ちつくしていた。
(はめられた!しかも、急いで逃げてきたから金を置いてきちまったじゃねぇか!残っているのは、さっきのクソガキが持っていた金貨10枚...まあ、これで新しい商売でもするか!そうだ、金貨が10枚もありゃ、もっとましなイカサマができるだろ!)
男は気を取り直し、愉快に歩いていると、前から数人の若い男たちが現れた。
「お!おっさん良いもん持ってんじゃん!」
「あぁ?なんだお前たち?」
「そんな事はどうでも良いんだよ。それより、お前たち、誰も見てないな?」
「見てないぜ。それにしても、俺たちついてるよな。明後日には、あの女を何しても良いんだろう?」
「ああ!あの女をめちゃくちゃにして、依頼料も貰って、この世は最高だな!」
「な、なにを言って...」
「ああ、もうあんたに用はないから。お前たち、やるぞ」
そう言うと、男たちは露店の店主を袋叩きにした。
店主は泣き叫び、気絶するまで殴られ、蹴られ、体も心もずたぼろであった。
「いやぁ、助かったよ!俺たち今旅行中だからよ、こういうアクセサリーがちょうど欲しかったんだよ!ありがとな、おっさん!てっ、聞いてないか」
数人の男たちは、店主のつけていたアクセサリーや、金貨を全てかっさらい、その場を去って行った。
「良かったのか?」
男たちが去った後、そこに2人の人影が現れた。
「なにがですか?」
「妾は助けなくて良かったのかと聞いておる」
「この男は、アラン様を騙して、金品を巻き上げようとした、ゴミ未満のクズ人間です。これが、当然の報いでなくて、なんと言うのですか?」
ビクトリアの目は、とてもメイドがして良い目ではなかった。
「そうか...過保護な事じゃな、ビクトリアは」
「私のアラン様に何かあったら困るので」
「そうじゃな。それより、妾は腹が減った。食事をとるぞ!」
「ダメですよ。人目についてしまいますよ?」
「確かに...」
アリシアはとても悲しそうな声で言った。
アリシアの気持ちに気づいたのか、ビクトリアはアリシアに一言付け足した。
「この任務が終わったら、この街のグルメ料理を食べまわりましょうね。もちろん、アラン様と3人で」
「...そうじゃな!」




