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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第4章 王立魔術師学校マギア 前編
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「南部最大都市メリダス」

南部最大都市メリダス、ラファエル王国とミオラ王国の国境沿いであり、最大の貿易都市である。

現在では、ミオラ王国が滅んだため、避難してきた者たちが大勢居た。

「後少しで着くんだよね」

「そうね。私も久しぶりにメリダスに来たわ。それにしても、人が多いわね?」

レベッカはアランを覗き込んだ。

「うっ...すみません...」

「そういえば、ビクトリアとアリシアは連れて来なかったの?」

「2人なら下処理をしているよ」

「下処理?」

 * * *

「これで3匹目じゃな。まだまだいそうじゃが...」

アリシアの背には、3人の男たちが倒れていた。

すると、目の前から血で汚れたメイド服を着たビクトリアがやって来た。

「まだまだ居そうですね。アラン様たちがこちらに来る前に、ゴミを処理しておきましょう」

「全く、やめて欲しいものじゃな。これに加えて、あっちには裏切り者もいるらしいな」

「ほんと、困ったものですね」

2人が話をしていると、馬車の音が近づいて来た。

「一度引き上げましょうか」

「そうじゃな」

 * * *

メリダスの街道には、馬車による長蛇の列ができていた。

その中には、アランとレベッカの馬車や、アーサーの乗っている馬車が並んでいた。

その終着点には、ひときわ大きな屋敷がそびえ立っていた。

馬車は順番に入っていき、アランたちも屋敷に入っていった。

皆は、自分の部屋へと荷物を運ぶと、広場へ集まった。

「今回は、1週間の予定です。1日目の今日と、明日の2日間はメリダスの街の観光を楽しんでくれ。それでは解散!」

「じゃあ、行こう、アラン!」

アランたちの班は、レベッカ、へルック、マリア、ベルージュ、そしてアランの5人であった。

「アーサーさん、残念でしたね...」

「まあ、しゃあねぇな。王子様はいつ狙われるかわからねぇから、街を勝手に出歩いたら困るんだろう」

アーサーは、安全上の問題で、今回の観光は見送りとなった。

だか、それ以外の5日間は生徒たちと共に修学旅行を楽しむ予定である。

今日は日差しが強いが、そこまで気温が高いという訳ではなかった。

今回の修学旅行は皆制服ではなく、私服である。

国の重要人物もこの修学旅行に参加しているため、少しでもその者たちを隠したいのだろう。

「その服似合ってるぜ!俺たちが頑張って選んだ甲斐があったな!」

「ほんと!アランは何を着ても似合うけど、これは本当にセンスが良い!額縁にこの光景を飾りたいわ!」

「ブラコンって怖いな」

「そうだね...街中なんだからもうちょっと控えてくれると良いんだけど...」

「あ」

その言葉を聞いて、マリアはすぐに態度を改めた。

「でも、少しやりすぎじゃない?色んな人から視線を集めてるわよ。私のアランなのに...」

レベッカが少しいじけながら話した。

「レベッカのアランちゃんじゃないわよ。それより、聞こえてこない?」

ベルージュがそう言うと、皆は話をやめて耳をすませた。

すると、何やら子供の泣いている声が聞こえてきた。

その声の方向へと進むと、露店の前で泣き叫ぶ少女と、その母親がその子を慰めていた。

すると、へルックが2人に話を聞きに行った。

どうやら2人の話によると、2人はここの露店でゲームをしていたそうだ。

「それで、何度やっても当たらないと。そりゃあ、インチキかなんかやってんじゃねぇか?」

「おいおい、店の前でそんな事を言われたら、こっちも困るんだよ」

露店の店主は、豪華なネックレスに、何個もの指輪をつけていた。

店主の服装を見ると、かなり儲かっていそうだ。

「では、一度お願いします」

そう言ったのはレベッカであった。

レベッカは、手に持っている銀貨を一枚渡すと、店主はにこやかにこのゲームのルールを話し始めた。

「このゲームはいたって簡単だ。この3つのコップの中に一つだけ、この赤いボールが入ってる。俺がこの3つのコップを混ぜる」

用意されていたコップは紙製のようで、どこかはどう見ても仕掛けはされていなかった。

ボールも同様、そこらへんの店で買えるものと大して変わりなかった。

(このボール...うちの商品ね。それなら小細工はできない。そうなると、この机に仕掛けがあるのかしら)

「俺が、この3つのコップを混ぜる。それを、嬢ちゃんは赤いボールがどこに入ってるか当てる。もし当たったら、払った金額の2倍を俺が嬢ちゃんに払う。簡単だろう?」

「そうですね」

「じゃあ、早速始めるぞ!」

男は3つのコップを混ぜ始めた。

最初の方はゆっくりであったが、段々と早さが増していった。

(確かに速いわね。でも、これなら目で追えるわね)

店主が手を止めると、レベッカはすぐに一つのコップを指差した。

「これね」

「じゃ、開けるぞ!」

店主がコップを開けると、そこには、何もなかった。

レベッカは無表情であったが、アランやへルック、マリアにベルージュは困惑していた。

「あれ?絶対にあれだと思ったんだけどな...」

「同意見だ」

すると、レベッカは持っていた袋から銀貨を取り出した。

「もう一度お願いします」

「はいよ」

それから、レベッカは何度も挑戦したが、ことごとく失敗した。

その様子を見ていた子供の母親が、流石に止めに入った。

「あ、あの、私たちのことなら大丈夫ですから、その、もう諦めた方が...」

「では、これで最後にいたしますわ」

レベッカがそう言うと、袋から数枚のきらびやかな硬貨を出した。

「へぇ、嬢ちゃんはどっかの貴族様かなにかかい?」

「そんなところです」

レベッカが取り出したのは金貨10枚。

これまで使った金額の合計を、ゆうに超える金額であった。

「ま、待ってください!ほ、本当にそこまでしなくて大丈夫ですから!」

「落ち着いてください。私は一度たりとも負けていませんから」

男が慣れた手つきでコップを混ぜ始めた。

(どっかの貴族か知らんが、本当にバカだなムキになって金貨を出すなんて、商売は楽で良いな!)

男が手を止めると、レベッカは最初と同じように指差した。

(この金でなにをしようか。考えるだけで楽しいな!)

だか、その時男の表情が一変した。

レベッカは指を差したかと思うと、その手でコップを開けた。

「あ、ちょ、待っ...」

アランの目にはレベッカの顔が映り込んでいた。

いや、反射したと言った方が正しいだろう。

そこには、赤く、鮮やかなボールが立ち尽くしていた。

「ぼ、ボールが!」

すると、レベッカはさらに手を動かした。

右、左とコップを開けると、更に赤いボールが2つ現れた。

「ボールが3つ!?どういうことだよ!?」

へルックたちは男の進路を塞いだ。

「あなたに、一つアドバイスを差し上げましょう」

「あ、アドバイス?」

「商売は、正直にやりなさい」

男はその言葉を聞いて、震えながら、慌てて逃げだして。

「あっ、ちょ!」

へルックはすぐに追いかけようとしたが、レベッカがそれを止めた。

「大丈夫よ。それより、はい、これ」

レベッカは机の下にあった袋を、女の子に渡した。

その女の子が袋を開けると、そこには大量の金貨が入っていた。

「すごい!お母さん!沢山あるよ!」

「こ、こんなに...これは受け取れません!」

「では、一つ教えてください。君の名前は?」

「私はメル!お姉ちゃんは?」

「私はレベッカよ。メルが名前を教えてくれたから、それあげるわ」

「そ、そんなの理由になりません!」

「じゃあ、一つだけ言っときますよ。私は月に40万枚、金貨を稼いでいます。つまり、そんなはした金、私は必要ないのですよ。だから、それはメルのために使ってあげてください」

「そ、そ、そうですか...な、なら、これは、大切に、使わせてもらいます!このご恩は、一生忘れません!」

「忘れません!お姉ちゃん、またね!」

メルと、その母親はレベッカに向けて、深々と礼をして、去って行った。

ここで、露店で行われたイカサマを解説しよう。

今回使われた道具は、紙コップと赤いボール。

このボールは、紙コップの直径と極めて等しい大きさである。

そこで店主はこの特徴と、紙コップの柔らかさを利用した。

仕組みはこうだ。

まず店主は、全ての紙コップにボールを入れた。

そして客が決めた紙コップを、力を入れて上げる。

そうすると、直径が等しいのでボールは紙コップと一緒に持ち上がる。

仕組みはいたって簡単であるが、賢いものならその下にある机などを観察するだろう。

男はその先入観を利用して、客を騙していたのだ。

レベッカは、一番最初の段階でイカサマに気づいていた。

だか、レベッカはそれを指摘するのではなく、あえて店主を泳がせたのだ。

そして、店主の気が緩んだところで、レベッカがこのイカサマを明るみに出した。

店主の男は、客の先入観を手玉に取り、イカサマをして荒儲けをしていたが、今回はレベッカが男の先入観を手玉に取ったというわけだ。

「そこまで考えていたんだね」

「まあ、そりゃあね。これでも商人だからね」

「商売は正直にって、レベッカにそのまま返してあげたい言葉だわ」

マリアが皮肉を言うと、レベッカは冷たい目つきで言った。

「商売は、相手を騙してなんぼだから」

「そうですか...天才がそう言うなら、そうなんでしょうね。そういえば、あの男は大丈夫かしら。なんなら、今からしばきに行く?」

「大丈夫でしょ。それじゃ、みんな、行こっか!」

 * * *

路地裏に、息を切らしな1人の男が立ちつくしていた。

(はめられた!しかも、急いで逃げてきたから金を置いてきちまったじゃねぇか!残っているのは、さっきのクソガキが持っていた金貨10枚...まあ、これで新しい商売でもするか!そうだ、金貨が10枚もありゃ、もっとましなイカサマができるだろ!)

男は気を取り直し、愉快に歩いていると、前から数人の若い男たちが現れた。

「お!おっさん良いもん持ってんじゃん!」

「あぁ?なんだお前たち?」

「そんな事はどうでも良いんだよ。それより、お前たち、誰も見てないな?」

「見てないぜ。それにしても、俺たちついてるよな。明後日には、あの女を何しても良いんだろう?」

「ああ!あの女をめちゃくちゃにして、依頼料も貰って、この世は最高だな!」

「な、なにを言って...」

「ああ、もうあんたに用はないから。お前たち、やるぞ」

そう言うと、男たちは露店の店主を袋叩きにした。

店主は泣き叫び、気絶するまで殴られ、蹴られ、体も心もずたぼろであった。

「いやぁ、助かったよ!俺たち今旅行中だからよ、こういうアクセサリーがちょうど欲しかったんだよ!ありがとな、おっさん!てっ、聞いてないか」

数人の男たちは、店主のつけていたアクセサリーや、金貨を全てかっさらい、その場を去って行った。

「良かったのか?」

男たちが去った後、そこに2人の人影が現れた。

「なにがですか?」

「妾は助けなくて良かったのかと聞いておる」

「この男は、アラン様を騙して、金品を巻き上げようとした、ゴミ未満のクズ人間です。これが、当然の報いでなくて、なんと言うのですか?」

ビクトリアの目は、とてもメイドがして良い目ではなかった。

「そうか...過保護な事じゃな、ビクトリアは」

「私のアラン様に何かあったら困るので」

「そうじゃな。それより、妾は腹が減った。食事をとるぞ!」

「ダメですよ。人目についてしまいますよ?」

「確かに...」

アリシアはとても悲しそうな声で言った。

アリシアの気持ちに気づいたのか、ビクトリアはアリシアに一言付け足した。

「この任務が終わったら、この街のグルメ料理を食べまわりましょうね。もちろん、アラン様と3人で」

「...そうじゃな!」

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