「裏切りの家出」
あれから約半年がたった。
マリアは、10歳になり上級魔術を少し使えるようになっていた。また、初級魔術師試験に合格し、初級魔術師の称号をもらった。
エドワードはあと1週間で誕生日だ。つまり、あと一週間でこの家を出るのだ。
「エドワード様、剣術はかなり上達しましたね。これなら、近衛騎士団のメンバーに少しは戦えるでしょう。」
「いやー、もうすぐだね。不安半分、期待半分だね。」
そう話していると、メーベルが来た。
「あら、デイビットも来てたの。勉強の方も、この国の歴史と地理はだいたい分かるようにはしたわ。」
「もうすぐお別れですね。少し寂しくなりますけど楽しかったですよ。」
そう言うと、デイビットとメーベルの顔から少し寂しさが見えた。
「それはそうと、孤児院のことですが王都から少し離れた東部のターナー領にあるところで決まりました。」
「そうですか、ありがとうございましたら。」
エドワードはなにか考えているよう話し方だった。
* * *
誕生日の当日の朝...
「メーベル、エドワード様を見たか?」
メーベルは横に首をふった。
「いえ、私も探していますが見つからないわ。」
二人が話していると、マリアが来た。
「今日はエディの誕生日よね!盛大に祝ってあげましょう!」
マリアはエディの誕生日のためにかなりの時間を費やしてきた。だから、今日のマリアはいつもより楽しそうだった。
「じ、実はエドワード様が屋敷からいなくなっていて...」
この言葉を聞いた瞬間、マリアの目から光が消えた。
「は?」
「坊ちゃまがいないんですよ。今朝部屋を訪ねたらいなくて、剣術の練習場にもいなかったんです。」
「エディがいない!?まさか、お父様が何かしたんじゃ...」
そう言うと、メーベルとデイビットが小声で話しだした。
「メーベル、エドワード様は多分、今日やろうとしたことを一日早めたと思います。」
「そうね、確かに坊ちゃまに孤児院のことを話したら、なにか考えるような素振りをしていました。もしかしたら、本当に誰からも知ることなく生きるために出ていったのでは?」
メーベルとデイビットがエドワードについて話していると、マリアが鬼の形相で話に入ってきた。
「出ていった?二人とも、本当のことを話しなさい。でないと、あなた達の首が飛ぶわよ。」
マリアの声は普段より低く、威圧感があり重たかった。
「メーベル、仕方がありません。話しましょう。」
「そうね。今は緊急事態よ。」
「実は私達は、エドワード様の家出を手伝っていたのです。」
デイビットが話し始めると、マリアの顔はみるみる怖くなり、魔力のオーラが大きくなっていった。
「デイビット、後で詳しく話を聞きます。ですが、今はエディを探すのが最優先です。行き先などはわかりますか?」
「本来であれば、東部のドルディンク領にある孤児院に行く予定でしたが、多分孤児院にはいかないと思います。」
「そう。では、まず王都近辺を探しなさい。近衛騎士団にも協力を仰ぎましょう。あとお父様にも報告を。いくらお父様といえ、ウォード家の者が家出をしたということは、家の権威に関わることです。」
マリアが、今後について話していると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「ほう。あの落ちこぼれが家出か。面白いな。意外と度胸があるじゃないか。丁度良い。あいつは死んだことにしよう。」
その瞬間マリアの怒りが爆発し、魔力が暴走状態になった。周囲の窓ガラスや壁が吹き飛び、デイビッドやメーベルも吹き飛んだ。
「お父様、このことは国王にもご報告をさせていただきます。あなたのせいでこの家権威は滅んだと言われるでしょう。では。」
マリアはそう言ってその場から立ち去ろうとした。だが、それをバーナードが引き止めた。
「マリア、それはやめたほうが良いぞ。確かに、エドワードが家出をしたのは大半は私のせいだろう。だが、マリアのせいでもあるだろう。」
その瞬間マリアの動きが止まった。そして、バーナードは畳み掛けるように言った。
「マリアはエドワードと違って才能があった。そのためエドワードは比較されている。マリアはエドワードのためを思って頑張っていたのかもしれない。だが、エドワードどうだろう?」
その瞬間マリアが崩れ落ちた。
「私のせい...私に才能があったから...」
「マリア、もう一度聞く。本当に国王に言うのか?」
マリアは答える気力もなかった。
「デイビット、マリアを部屋につれていけ。」
「りょ、了解しました...」
* * *
エドワードは東部のドルディンク領にいた。
(孤児院には行かないけど、一番地理を知っているのは東部だからな。とりあえず、泊まれる場所を探そう。)
エドワードがそう考えていると、目の前に3、4人のチンピラが一人の老人と、そのメイドと思われる人に絡んでいた。
チンピラの方は、20代後半ぐらいだろう3人でいるが、老人に話しかけようとしているのがリーダーだろう。
老人は60代ぐらいで、銀髪だ。かなり大柄であり、まるで子供を見るようにチンピラを見ていた。
メイドの方も銀髪で、20歳前後ぐらいだろう。かなりの美人だ。
「おい、クソジジイ。金だせや!メイドがいるんだったら、それなりに金はあるだろう。」
「...」
老人が無視すると、チンピラは持っていた酒瓶を床に叩きつけた。
「無視してんじゃね!こっちのメイドはかなり若いな。おいそこのメイド。こっちに来い。」
「...」
メイドもチンピラのことを無視していた。
「おい、俺はそろそろ限界だ。やるぞ。」
「いいぜ。どうせ老人とメイドの二人だろう。袋叩きにするか。」
「そうだな。ちょうど、新しい短剣を買ったばかりだからな。」
チンピラはそう言ったが、老人とメイドを物怖じするどころか、少し楽しそうな顔をした。
(まずい、殴りだけだったらまだしも、短剣はまずい。流石に話しかけるか...)
エドワードはチンピラたちのところに走って行った。
「あ、あの暴力はいけませんよ!少し話し合いましょうよ!」
エドワードが大きな声で言うと、チンピラと老人、メイドの目がこちらに向いた。
チンピラは、獲物を見るようだった。老人とメイドは驚いてるような、嬉しそうな顔だった。
「おい小僧、有り金全部おいていけ。」
「おいそこのガキ金なんてどうでも良いから俺の弟子になれ。」
老人が放った言葉に、そこにいた全員が時が止まったように、動かなくなった。
「ん?あのー、僕はただ話し合いましょうって言ったんですけど。どうして弟子になれと?」
「俺みたいなチンピラが言うことじゃねえんだけどよ、会って1秒のやつ言う言葉か?」
「おい小僧、あのクソジジイはやべぇ。こっち来い、守ってやるから。」
チンピラたちはそう言って、エドワードを守るように老人の目の前に出た。
「何だ、金ならくれてやるからそこをどけ。そこのガキは俺の弟子にするって決めたんだ。わかったらどけ。」
そう言って、老人は金貨が入った袋を出した。
「お、おい。ざっと百枚はあるぞ!」
「これなら一生遊んで暮らせるぞ!」
「すまんな、小僧。これは俺らのためなんだ。じゃあ頑張れよ!」
そう言ってチンピラたちは走って逃げていった。
「おいガキ、名前は?」
「えっと、アランです。」
(確かにやばそうな人だけど、泊まれるところはできた。これからは、エドワードの名前は捨ててアランとして生きていくんだ!)
アランの胸は弾んでいた。
「わかった、エドワード。泊まるところがないだろう。ついてこい。」
「は?」
(な、なんで僕の名前を知ってるの?もしかして、デイビットさんがもうこの街に!?)
「いや、背負ってるリュックに名前が書いてるやん。」
(そう言えばお姉ちゃんがつけてた気がするー!)
「こ、これには理由がありまして...」
アランが話していると、メイドが話してきた。
「とりあえず、私達の家に来てもらいましょう。良いですよね、ラファエル様?」
「わかった。ビクトリア、ガキの荷物を持ってあげろ。」
「あ、あの僕の名前はアランというのですが...」
「ガキは黙ってついて来い。」
老人は、見た目よりもかなり威圧感があり、まるでバーナードを見ているようだった。
* * *
アランは老人とメイドに連れられて、山奥に来た。
「こんなところに家なんてあるんですか?」
「ガキは黙ってついて来いと言っただろう?」
山奥に入ったところに大木があった。
「大きな木ですね。まるで歴史に出てきた世界樹みたいです。」
「この木は世界樹に見えるものだ。少し揺らいでるだろう。」
アランが目を凝らしてみると、ほんの少しだけ揺らいでいた。
「ほんとだ。でもなんで揺らいでるんですか?」
「それは、こういうことだ。」
老人が、手を掲げて言った。
「開け、世界樹。」




