「そうなるとは思ってなかった...」
馬車が止まった。
馬車から降りると、そこには大きな屋敷があった。
王都にこんな大きな屋敷を持っている者はそう多くない。
道を進んでいくと、綺麗に手入れされているようだった。
「ついてくるとは言ったけど、何するの?」
「少しお喋りするだけよ」
「そう...」
アランとレベッカの後ろにはビクトリアとアリシア、エレンが居た。
「今日は美味いもんが食えるのか?」
「はい!精一杯おもてなしいたします!」
「そうか、期待するぞ!」
「相変わらず食べ物が好きですね...」
アランたちが屋敷の中に入ると、二人が出向かえてくれた。
「やあ、久しぶりだねアラン君」
「あら、少し身長が伸びたかしら」
「お久しぶりです、ヘンリーさん、セシリアさん」
出迎えてくれたのは、レベッカの両親のヘンリーとセシリアだった。
二人は、アラン達を応接間へ通した。
「それで、話というのは?」
「私、アランと結婚するわ」
「え?」
「ほう」
「まあ」
「死ね」
いきなりの言葉に、それぞれ自分の考えていたことがそのまま口に出てしまった。
「えっと、どういっ...」
すると、レベッカはアランの口を塞ぎ、喋らせないようにした。
「ちょっと今、アランは風邪気味だから私が話すわ」
「お、おう...」
「簡単に言うと、アランと私は結婚する。良いわね?」
「んーっと、ん?」
「はい、今日話に来たのはこれだけだから」
そう言って、レベッカはアランを連れて帰ろうとした。
「お、ちょっと待て!じゃあ、まずレベッカはセシリアと、アラン君は私と話そう」
そう言って、二人は別々の部屋に別れた。
「あれ?皆はどうした」
「少し雑談を...」
「そうか。なら、妾は優雅にティータイムといこうか」
その頃、レベッカとセシリアはセシリアの書斎で話をしていた。
「どうせあなたのことだから、勝手に連れてきて、勝手に言ったのでしょう?」
「いいえ、同意の上です」
「レベッカって、クセがあるのよ。いつも嘘をつく時、異常に髪をなおすわよね」
「あ...」
「レベッカ、あなたに一つアドバイスしとくわ」
「アドバイス?」
「好きな者を手に入れるなら、どんな手でも使いなさい。でも、今回のは流石に無理があったわね。もう少しレベルを下げた方が良いわ」
「わかりました」
* * *
その頃、アランはヘンリーの書斎へ来ていた。
「まずは、君に礼を言おう」
「え?どういうことですか?」
「レベッカの過去は聞いているな?」
「は、はい...」
「あの子は、あの頃から変わってしまった。暗いどん底に取り残されていた。しかし、君が来てから、レベッカは変わった。明るく、あの頃のように...」
「そ、そうですか...でも、婚約の話は...」
「わかっているよ。婚約の話については、気長に考えてくれ。私はレベッカの婚約はどうでも良いと思っている」
「え!?そうなんですか?」
「ああ。別にレベッカの婚約は私達につべこべ言う権利はないからな」
「そうですか」
すると、部屋の扉がノックされた。
ヘンリーが扉を開けると、エレンが立っていた。
「失礼いたします。承っていた品物です」
「ありがとう」
エレンから渡されたのは、一振りの剣であった。
「これを君にやる。なかなかの代物だ」
「え?い、良いのですか?」
「ああ。これはちょっとした礼だよ。それに、マギアには剣術の授業もあるからね。本当は違う人にあげるつもりだったんだけどね...」
アランは受け取り、部屋を去ろうとした。
「それは私の親友の息子にあげるつもりだったんだよ。今は亡き、エドワード・フォン・ウォード君にね」
その言葉を聞き、アランの足取りが止まった。
それと同時に、アランは剣を抜いた。
「この剣、すごく手がこんでいますね。速く試し切りがしたいですね」
「面白い冗談だな」
「冗談?邪魔者は排除しないといけないですからね」
「別に、このことは言うつもりはないよ。ただ、君の姉がよく写真を持ってくるからね」
「はぁ...そうですか...」
そう言うと、アランは剣をさやにしまった。
それからアランが応接間に戻ると、レベッカとセシリアが先に戻っていた。
さらに、そこにエレンが用意した料理を食べるアリシアも居た。
「なんか、幸せそうだね...」
「エレンの料理は美味いぞ!ビクトリアの料理も良いが、エレンの料理は毎回新しいのがでくるからな!」
そう言ってアリシアは運ばれてくる料理を次々に口にしまった。
そこへ、ヘンリーが戻ると、改めて先程の話が始まった。
「それで、婚約の話だが...」
「少し急ぎすぎたわ。まずは彼氏彼女の関係から進めますわ」
「え?」
すると、レベッカは小声で話し始めた。
「アラン、もしお父様がミオラのことについて知ったらどう思う?」
「そ、それは...」
「もし、話されたくないなら、私と大人しく付き合っておくことね」
「うっ...はい...」
「てことで、私はアランと付き合うから」
「そうか...」
セシリアは、無言で親指を立て、それに対してレベッカはウィンクで返した。
一見幸せそうな光景に見えるが、それは違った。
ただ、一人だけ、殺気が溢れていた。
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)
「ど、どうしたのビクトリア?」
「...いえ、なんでもありません。それより、お時間が迫っております。今日はこの辺で」
そう言って、ビクトリアは無理やりアラン達を連れ出した。
二人に見送ってもらいながら屋敷から去ったが、アランには疑問があった。
「ねぇ、この後予定あったっけ?」
「...」
「おーい、なんで無視するの?」
「...」
ビクトリアは主であるアランの声を無視していた。
それから、アランは何度も話しかけたが、沈黙は続き、時間は過ぎていった。
王城に着くと、ビクトリアは普段通りアラン達を部屋へ見送り、ご飯を加えているアリシアを自分の部屋へと戻した。
そこまでは、普段と同じ段取りであった。
だが、今日は違った。
ビクトリアがアリシアを送っていった後、ただならぬ足取りで向かったのは、国王の執務室であった。
部屋の前に居る衛兵たちに用件を話すと、プラネスが中から出てきた。
「ま、まずは中で話を...」
ビクトリアが執務室へ入ると、机の上には書類が積み上がっており、それを処理するソルブの姿があった。
「君か。今日はどんな用件だ?」
「いえ、今日はそこのクソガキに用がありまして...」
「そうか...ん?クソガキ?」
ソルブが書類からビクトリアへと目線を移すと、とんでもない光景が繰り広げられていた。
ビクトリアの手には、炎のまとった剣が握られていた。
そして、その剣先にあるのはプラネスであった。
「お、おお、落ち着いてください姉様!」
「姉様?」
「あ...」
「お前、まじで殺す」
そう言うと、ビクトリアはプラネスに向かって剣を突き刺した。
あと数ミリというところで、プラネスはギリギリ交わしたが、その太刀筋は本気で殺しに来ていたことがわかった。
「お、ちょっ、わしの本棚!」
プラネスが避けたところで、ソルブが地味に大切にしていた本棚にポッカリと穴が空いてしまった。
しかし、ビクトリアの怒りはそれだけでは収まらず、避けたプラネスに左手からのストレートが入った。
あまりの威力に、プラネスは数十秒立ち上がれなかった。
そこにビクトリアが追い打ちを入れようとしたが、流石にソルブが止めに入った。
「はい、そこまで。とりあえず、お茶でも入れるから少し落ち着いて...」
「ちっ...わかりました...」
「あっぶねぇ...まじで死ぬところだった...三途の川の向こうで、みんなは優雅に紅茶を飲んでたよ...」
「あいつらも、引きずり下ろすか」
その言葉に、プラネスは本当の恐怖を抱いた。
国王であるソルブがお茶を入れると、ビクトリアはソファに座り、プラネスに話し始めた。
ビクトリアが話すうちに、涙がこぼれ、持っていたお茶はかなりしょっぱくなっていた。
「なるほど。つまり姉様は失恋したと...」
「...黙れ...」
「すみません...」
「そのー、さっきから姉様って言ってるけど、もしかして、悪魔?」
「おいプラネス、こいつ私達が悪魔だと知っているのか?」
「ま、まあ、俺はこの方に召喚されたんだし...姉様が特別なだけだよ...」
「えっと、プラネスが確か黄の悪魔ってことは...もしかして、ビクトリアも神の使い?」
ソルブが質問すると、周りの空気が静まり、ソルブに答えを教えた。
「神の使いは、確か十色...それぞれの神に見合う色だった気がするけど...髪が白ってことは...まさか...」
「おい人間、このことをアランや他の奴らに言ったら...わかってるよな?」
ビクトリアの口調が急に変わり、国王であるソルブにも容赦なかった。
「ちょ、姉様、それ一応俺の主様...」
「あぁ?そもそもお前の口が軽いからこうなったんだろ!まじで、お前の口に古代魔法を打ってやろうか」
「まじでそれはやめてください...」
「そ、それで、ビクトリア君は失恋の話をしに来たのかい?」
「ええ、そうよ。じゃあ」
そう言って、ビクトリアは執務室の扉を勢いよく閉め、出ていってしまった。
「うわぁ...まじで怖かった...本当に死ぬところだった...」
「お前の兄弟はあんななのか?」
「いえ...姉様が特別強いだけです...でも、あの感じだと、契約せずに来たんですかね?」
「契約せずに?」
「まあ、色々すればできるんですよ。姉様なら」
「そうか...」
それから数週間が経ち、ビクトリアの機嫌は少しずつ回復し、アラン達も寮生活に復帰した。
「おう!久しぶりだな!元気だったか?」
「...うん...」
アランの後ろを見ると、ビクトリアとレベッカ、マリアにベルージュが取っ組み合いをしていた。
「大変そうだな...」
「まじで、寝不足...僕の部屋が僕の部屋じゃなかった...」
「ま、まあ元気出せよ!」
「...頑張る...」
アランが寮に荷物を運び込むと、早速教室へ向かった。
アランは少しずつであるが、学友が増えてきた。
「おはようアラン。元気だったか?」
「まあまあってところだね。そっちは?」
「俺はこの一ヶ月、遊びまくったぜ!まじで楽しかったわ」
「それは良かったね...」
「どうしたんだ?そんなに疲れてんのか?」
「まあ、ちょっと色々あったからね...」
そんな話をしていると、教室の扉が開き、先生が入って来た。
「この一ヶ月は急であったが、休みは楽しめたか?」
大勢の生徒が元気に返事をした。
「では、これから少し大事な話をする。上からのお達しでこれからより戦闘向きの授業が増えた。今日も一時間目から剣術の授業だ。身を引き締めて行っくれ」
先生がそう言うと、生徒たちの気分は一気に下がり、一部の男は叫んでいた。
「ねぇ、なんでみんな、あんなに嫌がってるの?」
「そりゃあ、魔術学校だから、魔術は得意だが、剣術が得意ってわけじゃないだろう?」
「でも、お姉ちゃんとか、アーサーさんとかは...」
「あれは別物だぞ。俺だって体術は得意だが、剣術は得意じゃねぇんだよ...」
「そうなんだ」
それからアラン達は剣を取りに行き、外に出ると、皆は先に準備体操をしていた。
「僕達ちょっと遅れちゃったね」
「そうだな。さっさと準備体操するぞ」
二人は準備体操をし、少し体を動かしたところで、先生が来た。
「今学期の剣術の授業は初めてだから、最初は君たちの実力を測りたい。そこで、君たちには今日、模擬戦をしてもらう」
「模擬戦?」
「二人一組で組んでくれ」
先生がそう言うと、一人の男が近づいてきた。
「おい、アラン、俺と組め」




