「姉様」
アラン達は、王宮へやって来た。
「アラン、そろそろ涙を止めろ。お前は別に悪くない」
「で、でも...」
「なぜお前は自分を否定するのじゃ。しょうがないじゃろう」
「確かに...」
「アラン様、元気をだしてください!アラン様はどうせ、そこの人にお願いされたのでしょう?」
「え?う、うん...」
ビクトリアがそちらを見ると、ソルブとプラネスはすごく申し訳なさそうであった。
少し歩くと、アラン達は王宮の応接間へとやって来た。
「まず、状況を整理しよう。私達がミオラに行っている間に、マギアが襲われたと」
「そうじゃな。妾とビクトリアは侵入を手引きした者を追っていたのじゃ」
「なるほど。その手引きした者は見つかったのか?」
「いや、妾たちでも見つけれんかった」
「ビクトリアの探知をくぐり抜けるってことは、かなりの手練だね」
話を聞くと、魔族たちは王都に潜伏しており、マギアの中に居る誰かが手引きしたということだ。
だが、その手引きをした者はわからない。
魔族たちの目的は、アランが不在の間に、人質と、魔王であるアリシアを連れ戻すのが目的だったらしい。
「つまり、僕には監視の魔族が居たということですか?」
「そうなるね。でも、アランくんでも気づかないってことは、幹部レベルってことかい?」
「探知魔術で言えば、僕はそんなに強くありません。ビクトリアの方が得意です。僕ができるのは、対魔族と、対人間のみです」
「なるほど。手がかりは無しか」
「いや、そうでもないぞ。今回の魔族は幹部直属ではない」
「それは、どういうことだ?」
「幹部直属の魔族はもっと強い。これは推測だが、あの魔族たちは捨て駒として使われたのじゃろう。もし人間に対して勝利できたなら運が良かった、もし敗北しても、相手の力量が量れた、ということで予想通り、ということじゃな」
「なるほど。相手はかなりの策士か」
「多分じゃが、妾の妹じゃろう。あやつは頭が切れる奴じゃからな」
「妹?」
皆が困惑していると、アリシアが説明し始めた。
「妾の妹の名はアリエルじゃ。元幹部であり、多分じゃが現魔王じゃろう」
「現魔王?魔王が新しく誕生したということか?」
「そうじゃな。じゃが、アリエル単体ではそんなに強くない。妾とセットで本領を発揮する。じゃから、アリエルは妾を取り戻したいのじゃろう」
「そうなんだ。そういえば、みんながアリシアのことを怖がってたけど何したの?」
「ただ、魔族たちを殺しただけじゃ」
「そ、そう...」
そう言っていると、ひとまず治療を終えたアーサー達がやってきた。
「先程は本当にありがとうございました。私がマギアの生徒たちを代表お礼を申し上げたいと思います」
「それにしては足が震えているがな」
生徒会の者たちは皆、アリシアの強さに恐怖を抱いていた。ただ、一人を除いて。
「ありがとうね、アリシア。こんど美味しい料理をエレンに頼んでおくわ」
「本当か!?人間の食べ物は美味いからな」
いつものアリシアに戻り、アーサーたちは少しホッとしたようだ。
「今日は時間をとらせて悪かったな。今日はゆっくり休んでくれ。あと、今日から一ヶ月ほど学校の寮は使えないからな」
「え!?家、どうしよう...」
「私の家があるじゃない!そもそも、私の護衛なんだから、どっか行かないでよね」
「え、あ、うん...」
そんな会話を聞いていると、マリア達が頬を膨らませていた。
「じゃあ、私もレベッカの家に住むわ!それに、一番にお姉ちゃんのところに来なかったの、怒ってるからね!」
「あ、あれは...」
「そうよ!アランちゃん、この責任、どう取ってくれるのかしら?」
「うっ...」
「陛下、私の護衛はどうするのですか?」
「確かに...なら、いっそ、レベッカとアランくんはこの城に住むかい?」
「え?良いんですか?」
「ああ。そちらの二人も良ければ」
「なんじゃ、うまいものが食えるのか?」
「そうですね。私は良いですよ」
皆はそう言っていたが、プラネスだけは、震えていた。
「どうしたのだ、プラネス」
「い、いえ、何でもありません...」
「そうか。なら、その方向で頼んだぞ」
それから、アランとレベッカ達は屋敷に戻り、王城へ引っ越す準備をしていた。
「でも、なんで、アランは私に抱きついてきたの?」
「え、そ、それは...」
「ふーん、まあ、別に私は嬉しわよ。毎日しても良いくらい!」
「そ、そう...」
そんな話をしていると、ビクトリアとエレンが出てきた。
「アラン様、準備が整いました」
「馬車をご用意しています。どうぞ、こちらへ」
「じゃあ、行きましょうか」
そこにアリシアもやって来た。
「城では美味いもんは食えるのか?」
「王族の城だから、美味しいものが出ると思うわよ」
「そうか、なら速く行くのじゃ!」
そう言って、アリシアは元気に馬車に乗り込んだ。
「大丈夫かな...」
「怪しいわね...」
そう言いながら二人も乗り込み、馬車は出発した。
「王城って言っても、僕が居ても大丈夫なの?父上とかに見つからない?」
「そこは安心して良いわよ。私達はロイヤルルームに住むことになるから」
「ロイヤルルーム?」
ロイヤルルームは王族しか出入りが許されていない区画のことを言う。
なので、アランの父、バーナードや、他の者達に接触を許すことはないということだ。
「あ、でも、第三王子はまずかも知れないわね」
「あ、確かに...また女装するのは嫌だよ?」
「どうかにして、誤魔化しておくわ」
「お願いね」
そんなことを話していると、馬車は王城の中へと進んでいった。
馬車が停車すると、アーサーとソルブ、そしてプラネスが出迎えてくれた。
「アラン君!ようこそ我が家へ!」
そう言って、アーサーはレベッカ達をそっちのけでアランを連れて行ってしまった。
「あ...行っちゃった...」
「ま、まあ、とりあえず、君たちには先日の戦いもあるから、少し止んでくれ」
「恐れ入ります」
レベッカはエレンとアリシアを連れて、部屋へ向かって行った。
「君は行かないのかい?」
「いえ、私はそちらの方にようがありますので」
ソルブがプラネスを見ると、ひどく震えていた。
「ぷ、プラネス?どうしたのだ?」
「い、いい、いえ、な、何でもありません...陛下は殿下を止めてきてください...」
「そ、そうか」
ソルブはそう言って、その場を去って行った。
「あ、ああ、姉様!」
「少し話をしましょうか」
ビクトリアはプラネスを引きずりながら、人気のないところへと移動した。
「そ、そ、それで、今日は、どのようなご要件で...」
「あなた、アランに触れたでしょ」
「え?」
「私でもお触り厳禁なのに!」
「え?」
「あなたは私を差し置いて、アランに触ったのよ」
「えっと、ちょっと、状況を整理しますね。まず、姉様が怒っているのは、私がアラン殿に触ったからということですか?」
「それだけじゃないわよ。どこであなたはアランと仲良くなったの!」
「え、えーと、陛下と一緒に居たら?」
「そう。とりあえず、一回天界に返すとしましょうか」
そう言って、ビクトリアは剣を抜いた。
「ご、御慈悲を!てか、そもそも姉様はなぜ地上に居るのですか?」
「それは、一つは任務のため。もう一つはアランに会うためよ」
「任務?」
「あなたには関係ないわよ」
そう言って、ビクトリアはプラネスの首を飛ばそうとした。
「ま、まじで待って!俺は姉様の秘密を知っている。それを言ってもいいの?」
「ならなおさら、ここで殺して口封じするわ」
「ちょ、そしたらアラン殿が悲しみますよ?」
「...」
ビクトリアの動きが止まった。
「と、とりあえずこのことは秘密にしておきますので...」
「そう」
そう言って、ビクトリアは去って行った。
「はぁ...まじで死ぬところだった...でも、あの姉様がなぇ...」
「なにか言ったかしら」
もう行ってしまったと思われたビクトリアが、突然現れた。
「い、いえ、何でもありません!」
(まじで怖ぇ...あの目はまじで殺す目だったぞ...)
そう思いながら、プラネスは城に戻った。
プラネスがビクトリアにしばかれている頃、アーサーはアランを連れて城を周っていた。
「まずここが、君たちが1ヶ月間住む部屋だ。こっちがレベッカで、アラン君の部屋はこっちだ」
「ん?アーサーさん、なんか、やけに物が多くないですか?」
「そりゃあ、私の部屋だからね」
「え?」
「もちろん、アラン君は僕と一緒の部屋だよ?」
「ちょっと待った!」
そこに後から合流したレベッカが現れた。
「そもそも、アランは私の護衛です!殿下はそのおまけのようなものです。なので私との相部屋でお願い致します」
「それはできない。この城の中では優先順位が高いのは私だ」
「では、アランに決めてもらいましょう。アラン?どちらが良い?」
「えっと、それは...」
「もちろん、一番に抱きついてきた私よね?」
「うっ...」
「いやいや、アラン君?もし選ばなかったら、わかるよね?」
「うっ...」
二人が、アランに詰め寄っていたところに、ソルブがやって来た。
「二人とも、アラン君は一人部屋だ」
「な!」
「それは...」
「なんだ?わしに異論があると言いたいのか?」
「わかりました...」
「よろしい」
アランはやっと、一息できるようになった。
それからアランとレベッカは、アーサーたちに案内してもらい、ロイヤルルームの中の構造を理解した。
「これなら、外に出なくても大丈夫そうですね」
「そうだね。厄介な人間に会わないと思うよ」
そう言っていると、目の前から見たことのある人影がやって来た。
「これはこれは、ターナー嬢ではありませんか。どうしてこちらに?」
そう声をかけたのはフェンデスであった。
「今日から一ヶ月、ロイヤルルームに住まわせてもらいます。どうぞよろしくお願い致します」
「もしかして、兄上はターナー嬢と婚約されたのですか?そうでないと、この状況は説明できかねますよね」
「私と殿下は婚約していませんわ。そもそも、私には意中の殿方が居ますので」
そう言って、レベッカはアーサーたちを連れて去ろうとした。
「ん?」
だが、そこでフェンデスは一人の男を呼び止めた。
「ねぇ君、アレンちゃん?」
「へ?」
アーサーたちはその言葉を聞いて凍りついてしまった。
「なんで、アレンが居るの?」
「えっと、いや、その、そう!僕は双子の兄です!」
「双子の兄?」
「はい!アレンは僕の妹です!よく殿下の話をしていますよ」
「そ、そうなんだ...なら、アレンに来週の土曜日に会えるか聞いてくれるかい?」
「わ、わかりました...」
「時間は午前ね」
そう言って、フェンデスは去って行った。
「まじで死ぬかと思った...」
「素晴らしい対応力だよ、アラン君」
「アラン、本当に行くの?」
「まあ、情報を聞き出せるから行こうかな」
「ふーん...」
レベッカは頬を膨らませながら、行ってしまった。
それから、アラン達は自分の部屋に戻り、持ってきた荷物を出していた。
「ん?これは...」
アランの荷物の中に、見慣れない魔導具があった。
「これは追尾術式?でも、なんで?」
どうしてこの魔導具があるのか、アランが考えていると、ビクトリアとアリシアが入ってきた。
「どうしたんじゃ?そんな魔導具持っていたか?」
「そうだよね。僕のじゃないよね」
「あ、それは私のですね」
そう言って、ビクトリアは魔導具を回収した。
「それ、追尾術式が書いてあったけど、何に使うの?」
「そんな大層なものではないですよ。ただ、アラン様の位置情報を知りたいだけですので」
「え?」
「アラン様は素晴らしい美貌の持ち主なので、良からぬ者が寄って来ます。現にそこに...」
そう言って、視線を移すと、そこにはレベッカの姿があった。
「え!?ちょ、何?」
「レベッカは良からぬ人じゃないよ。レベッカ、どうしたの?」
「少し、時間ある?」
「うん。じゃあ、少し行ってくるよ」
そう言って、アランはレベッカと一緒に部屋の外へ行ってしまった。
「若者は良いな。お前はどうなんじゃ?まあ、聞くまでもないか」
「ええ、今にもこの手にある魔導具を粉砕しそうです」
アランとレベッカの二人は、王城の中にある庭園にやって来た。
綺麗に整えられており、真ん中には大きな噴水があった。
庭園の至るところには綺麗な黄色いバラが咲いていた。
「ねぇ、なんで昨日は私に抱きついてきたの?」
「い、いきなりだね...」
「だって、そうでしょ?あのアランが抱きついてきたもの。なにか理由があると思ってね」
「そうだね。正直言うと、僕もわからない」
「わ、わからない?」
「うん。でも、レベッカを見たときね、すごく安心したんだ。それに、なにか懐かしいような」
「懐かしい...」
「ねぇ、なんで昔と違うの?君はそんな性格じゃなかったよね」
「へ?」
アランは鋭い目つきをし、レベッカを見つめていた。
「僕は昔、君と会っている」
「な、なんでそれを覚えているの?」
「ビクトリアの精神干渉はかなり強かった。でも、そんなものでは僕の精神はいじれない。昔の君は、人の話を聞かなかった。言葉より先に体が動いていた」
「そ、それ悪口じゃ...」
「でも、元気だった。楽しそうだった。目が輝いていた。でも、今の君の目は暗い。まるで、深淵に一人残されたように」
「な、何を言っているの?」
「僕はね、あの時、少しだけ、レベッカの目に光が映ったから。だから、そんなレベッカに安心して、ホッとして、抱きついたんだと思う。本当のレベッカに会えたから。ねぇ、教えて、なにが君をそんなにしてしまったの?」
「少し、私の過去について、アランに話して起きたいことがあるの」




