「国王陛下はサボりたい」
ここは、ラファエル王国の王城、ステンダム城。
この中には王宮と言われる、政治の中枢機関であり、国王の住まいがある。
「陛下、いつまで寝ておられているのですか?」
国王の朝は早い。朝5時には起き、仕事を始めないといけない。
「ん?今日は休日だろう?だから今日はわしはとことん寝るのだ。」
起こしに来たのはソルブの側近である、プラネス。
見た目としては二十代であり、爽やかな顔つきをしている。
彼は国王のみに忠誠を誓い、側近としての仕事や、戦争での指揮官、諜報任務、国王の身の回りの世話。
彼の戦闘能力は四天王に匹敵し、事務能力も一流。外交官としても申し分のない力を持っている。
「陛下はこの国の国王であられるのですから、国民のため年中無休で働いてください。」
「嫌だ!それではわしは国民の奴隷ではないか!」
「では、この山積みの書類はどうするのですか?」
ソルブは目を背けたが、プラネスにより無理やり見せられてしまった。
「うっ、目が...」
社会人では見た瞬間に卒倒するほどの書類の山が積み上がっていた。
「私も手伝いますので片付けましょう。」
「わかったよ...」
二人が書類を片付け始めてから数十分が経った。
「陛下、手が止まっていますよ。」
「休憩だ。」
(早くね?この人は本当に大人なのか?)
そう言ってソルブは近くの棚から茶菓子を出してきた。
「やはりこの茶菓子が一番だな。」
「それはオルマンタのですね。」
「ああ。どの店も試したのだがやはり、この店が一番美味しい。宮廷の職人にも作らせたのだが、何故だろうな。」
「やはり、あの方が居るからではないでしょうか。」
「やはりか。」
そんなことを話していると、プラネスが一つの事実に気づいた。
「陛下、仕事から逃げようとしてますね?」
「あ...」
プラネスはすぐに茶菓子をしまい、ソルブを無理やり席につかせた。
「そこら辺の学生でもまだ集中力があると思いますよ。」
「うっ...でもこれとそれとでは違うじゃん!」
「あなたは一国の国王ですよ。こんな雑務もこなせないとは情けないですよ。」
「はぁ!?いいよ、やってやるよ!」
(チョロいな。)
それからソルブは昼まで休まず仕事を続けた。
「なんで減らないの!?プラネス!お前、仕事を増やしてるだろ!」
「はい。仕事は増えるものですから。」
「はぁ!?ふざけんな!もうやめだやめ!」
そう言ってソルブは仕事を放り出して、ソファーに寝転がってしまった。
「陛下?何をしているのですか?早く仕事をしないと、増えてく一方ですよ。」
「嫌!やんない!」
(まじか...60代のおじさんがこんなことしてるなんて、悲しい...)
「そんな、子どもみたいなことをしたら、私は恥ずかしいですよ。」
「ふん、いいもん。」
「ほら、陛下の好きな茶菓子ですよ。これを食べて元気だしてください。」
「わかった...」
そう言ってソルブは茶菓子を食べると、やる気が出たようで、仕事に手を付け始めた。
それから数時間がたったが、仕事は一向に減らず、ソルブの集中力もきれてきた。
そんな中、兵士たちが執務室を訪ねてきた。
「陛下、お客様がお見えです。」
「なぁに!?突き返してくれ!わしは今忙しいのだ!」
「そ、そうですか...」
そう言って、ソルブは兵士を突き返してしまった。
「なあ、陛下、めっちゃ怒ってなかった?」
「休日になるといつもこうだよな。『休日は休ませろ!』って。他の国の王様とは少し違うよな。」
「でも、俺はこっちのほうが良いぜ。無駄にプライドが高かったり、傲慢だったりするより、人間ぽいこっちのほうが。」
「俺も同感だよ。」
そう言っていると、客人のもとに着いた。
「すみません、陛下は今は忙しいらしいので、また日を改めてもらえませんか?」
「そうですか...」
「か、可哀想...なんとかできねぇのかよ!」
「で、でも、陛下はピリピリしてたし、今は...」
「だ、だったら、名前だけでも言ったらどうだ?」
「確かに!もしかしたら会ってくれるかもしれんしな!」
「すみません、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「えっと、彗星の魔法使いです。」
アランがそう言うと、二人は首を傾げた。
「そ、そうですか...も、もう一度掛け合ってみますね。」
「ありがとうございます!」
そう言って、二人の兵士はもう一度、国王の執務室へと向かった。
「なあ、彗星の魔法使いって聞いたことあるか?」
「ねぇな。でも、この王宮に入れるってことは、名の知れた魔術師なんじゃねぇの?」
「そうか?そもそもあんな可愛い子供が魔術師とは思えないんだが。」
「そうだよな...」
そんな話をしていると、執務室に到着した。
「陛下、お客様がっ...」
「うるさい!わしは今出れないと言っているだろ!」
ソルブは今にも剣を投げつけそうな様子であった。
「で、ではせめて名前だけでも!」
「言ったら帰れ!」
「す、彗星の魔法使い様です!」
「ん?」
その瞬間、ソルブの動きが止まった。
「へ、陛下、これはまずくないですか?」
「や、やばい!今すぐ通してくれ!おぉ、どうしよう、詫びの品を用意しないと!」
「何を見ている!さっさと連れてこい!」
「は、はい!」
兵士たちは、何が起きているのかさっぱり理解できなかった。
「おい、あの子なにもんだ?」
「わかんねぇ。でも、あの様子だと結構すごい人なんじゃねぇ?」
「なら、早く行かねぇとな。」
兵士はアランをすぐに執務室へと案内した。
「つ、連れてきました!」
兵士たちが扉を開けると、目の前には異様な光景が広がっていた。
「すみまなかった。」
ソルブはアランに向かって頭を下げていた。
「え?」
「わしの心が乱れていせいで、君だと気づかなかった。」
「え、えっと、顔を上げてください!一国の王様が簡単に頭を下げていけないですよ!」
「だが、君はその一国を滅ぼすほどの人間だ。いくらわしでもこの失態はこの国の存続に関わるものだ。」
「あ、あの、僕、そんなに怒りっぽく見えますか?」
「あ、え、い、いや...」
「僕は少しお願いをしに来たんですよ。」
「お願い?話を聞こう。まずは、座ってくれたまえ。」
兵士達はわけがわからぬまま、追い出され、アランには高級茶菓子が出された。
「それで、君は何が望みだい?」
「ベルージュ・フォン・マルフィンのことについてです。」
「マルフィン、アーサーについている子かな?」
「そうです。そのマルフィンの婚約を破棄してもらいたいのです。」
すると、何かを察したようにソルブは話しだした。
「第三王子の件か。わしも手を尽くしたが、わしらの手札ではあいつには勝てないぞ。いくら魔王軍が弱まっているとはいえ、隣国に敵対行為を取るのは流石にできん。」
「何を言っているのですか?あなたには最強の手札があるじゃないですか。」
「まさか...」
「彗星の魔法使い。」




