「何かが違うカフェ」
「え?誰?」
「あ...お前...」
「そっか。ベルは知らないのか。」
「左の子はレベッカのメイドのエレンちゃんでしょ。でも、右の子は初めて見たわね。」
「ビクトリアと申します。アラン様のメイドをやらせていただいてます。この度はレストランの裏方をやらせてもらいます。」
「ん?メイド?アランちゃん、あなた馬鹿なの?潜入任務なのにメイドを連れてたら意味ないじゃん!」「馬鹿ではないよ。ビクトリアは一応レベッカのメイドとして来ているからね。」
「それにしては勝手に部屋に入ってた気がするが...」
「気のせいです。」
「気のせいか...」
「そ、それで、このビクトリアちゃんとエレンちゃんが料理をしてくれるの?」
「そうだよ。僕達は接客だよ。」
「やっぱそっか...」
「なにか不満かい?」
「いえ。殿下の意見に不満はありません。ですが、私達、貴族ですよね。接客業などやったことがないのですよね。」
「それは大丈夫だよ。適当に客と話してたら、勝手にお金が入ってくるから。」
「そうですか。ん?勝手にお金が入ってくる?」
「もうそろそろ開店だよ。準備して。」
「わ、わかりました。」
(勝手にお金が入ってくる?殿下はなにを言っているんだ?てか、今更だけど、私達、なんでドレス着てるの?へルックと殿下は礼服だし。)
アランたちが厨房からホールに出ると、外には長蛇の列ができていた。
「これは会計記録を見るのが楽しみだ。」
「ええ。一体いくら儲かるでしょうか。」
「金の亡者たちめ。あれが第一王子だとは思えん。」
「同感だわ。あのガキが第一王子ね...あいつが国王になった瞬間、財政とか『節約だ、節約!』とか言いそうよね。」
「確かに。想像ができる。」
「お店開けるよ!」
アランが店の扉を開けると、生徒たちがなだれ込んできた。
「すごい!殿下の服装!いつもと雰囲気が違うけど、これはこれですごく良いわ!」
「なあ、さっきのメイド服の子、可愛くね?」
「ほんとだ!でも、あんな奴居たか?」
「グルーブへようこそ。お好きな席へどうぞ。」
店内はそれほど広くなかったが、装飾は流石ターナー商会の力を借りているだけあり、かなり豪華な装飾であった。
そして、特徴的だったのは、一つのテーブルに一人ずつ生徒が座っていたことだ。
「お客様はお好きな席にどうぞ。」
それを聞くと、男子生徒は主に、レベッカたちの方へ、女子生徒はアーサーたちの方へ座っていった。
「来てくれてありがとね。今日は私がとことん君たちに付き合ってあげよう。」
「本当ですか!?」
「どういうことだよ。こんなの本当にレストランなのか?」
「へルック様は普段はどういうことをなさっているのですか?」
「普段か。普段は筋肉を鍛えたり、魔術を練習しているな。たまにアーサーの用事に付き合うこともあるが。」
「そうなんですね!普段から鍛えているとは流石へルック様です!」
「そ、そうか...」
(これ、本当にあってんのか?)
「マリア様はいつも何されているのですか?」
「普段は魔術の練習と、部下の教育だ。部下はまだまだ未熟だから、私が引っ張らないといけない。」
「すごいですね!俺と同い年とは思えないですよ。」
「君たちもそのうち私のようになるさ。君たちの努力は知っているからね。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
(のせられてる...)
「まだまだ列ができているわね。どうしますか?そろそろお帰りになられても。」
「えー?もうちょっとレベッカといたいよ!」
「それならこのパフェでも頼んでは?このパフェはうちの商会の商品を使っているのですよ。なので高品質で、しかも特別価格です。」
「それ頼むわ!スタッフさん!パフェ一つ!」
「はい!かしこまりました!」
(すごい。どんどん頼まれてる。)
(計画通り。私達と話したいあまり、時間と金に糸目をつけなくなってきている。)
(会計費を見るのが楽しみだわ。いくら儲かったかしら。)
アランが二人を見ると、見るからに邪悪なオーラが出ていた。
「お客さん可哀想...」
アランは厨房に入った。
「パフェ追加ね!」
「承知いたしました。エレン、少しペースをあげるわよ。」
「はい!」
二人は王都料理人顔負けの手さばきであった。
アランが少し店内を見渡しているだけで、頼まれていた料理が完成していた。
「おまたせしました。グルーブパフェでございます。」
次から次へと注文されるので、アランに休む暇はなかった。
「ここが兄上の店か。王子である者がこんな仕事をするなんて、滑稽だな。」
後ろに数人を連れている男がやって来た
「いらっしゃいませ!お好きな席にお座りください。」
「あ、ああ...ど、どうも...」
男たちが座ると、アランは早速このカフェの紹介を始めた。
「このカフェは、いくつかのテーブル席に分かれています。一つのテーブルに一人ずつ生徒会役員がついているので、お好きな方の席にお座りください。長居をされる方は商品の注文をお願いします。」
「そうか。なら、君の席はあるのかい?」
「え?ぼ、僕はホールスタッフなのでそれは。」
「いいから。早くここ座って。」
「そ、それは...」
「私が代わりにやりますので、安心してください。」
「ビクトリア、一人で大丈夫?」
「大丈夫です。エレンもかなり上達してきたので。」
「じゃあ、よろしく。」
アランは新たに入ってきた客の接客に周った。
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「ほう。僕の名を知らないとは、君はどこかのメイドかい?僕の名はフェンデス・ハワードだ。」
(嘘!?この人第三王子だったの!?)
「王家の方とは!すみません、僕の落ち度でございました。」
「僕の顔は庶民にはあまり知られてないから、今回は許してやろう。それより君の名前は?」
「えっと、僕は...」
(どうしよう。偽名にする?アーサーさん!助けて!)
アランがアーサーの方を見ると、アーサーはすぐに気づいた。
(偽名にしてくれ。そして、色々なことを聞き出してくれ。)
(わ、わかりました。)
「僕の名前はアレンと言います。今日はよろしくお願いします。殿下と言えば、中等部で生徒会をなさっているのですよね。」
「そうだ。僕は中等部で生徒会長をやっているんだ。」
「そうなると、日々たくさんの仕事をなさっているのですよね。今日は僕がとことん付き合いますよ。」
「あ、ありがとう...」
「それで、普段はどんな仕事をしているのですか?」
「普段か。僕達生徒会は中等部のまとめ役のようなものなんだ。だから、トラブルがあったり、行事がある時は僕達が解決したりするんだ。他には王子としての仕事かな。」
「そうなんですね。王子はそんなに大変なのですか?」
「そうなんだよ。他国への手紙や、部下への割り振り。社交会で人脈づくり。どれも大変だよ。」
「そうなんですね。殿下は容姿が端麗ですから社交会でも大変ですよね。」
「そ、そうか?兄上に比べれば別に...」
「そんなことないですよ。殿下も十分かっこいいと思いますよ。」
「あ、ありがとう...」
その瞬間、他のテーブルからカップの割れた音がした。
「ま、マリア様?カップが割れていますよ。」
「あ、ああ、すまない。ビクトリア、片付けてくれるか?」
「承知いたしました。」
「マリア様がカップを割ってしまったみたいですね。」
「ああ。なんか持ちてが割れているような気がするが...」
「き、気のせいですよ!それより、殿下は少し顔色が悪いですよ。寝不足ですか?」
「あ、ああ。そうなんだよ。最近少し忙しくてな。」
「そうなんですね。なにか生徒会で企画でもしているのですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、色々とあってな。」
「そうなんですね。辛いことがあったら僕に相談して良いんですよ?」
アランはそう言って、フェンデスにすり寄った。
その瞬間、また何か割れた音がした。
「ベルさん?どうしたの?」
「いえ、少しよそ見をしていたわ。ビクトリア、片付けてくれる?」
「承知いたしました。」
「ふっ、生徒会もこんなものか。」
「殿下は兄上とは仲良くないのですか?」
「あの男は大嫌いだ。昔から僕のすることなすこと、全てにおいて僕の上をいった。そのうえ、大衆には猫を被っている。そんな奴国王の座まで奪われるなんて、それだけは嫌だ。だから、僕はあの計画も組んでいるんだ。」
「殿下、そのお話は控えたほうがよろしいかと。」
「す、すまない。少し感情が爆発してしまった。」
「大丈夫ですよ。僕で良ければ、相談に乗りますのでいつでも来てください!」
「アレン...」
それから、フェンデスは毎日アレンに会いに来た。
「アレン!会いに来たよ!」
「こんにちは殿下。毎日来るなんて、お金がなくなってしまいますよ。」
「良いんだよ。それより、今日は嬉しいことがあったんだ!」
「そうなんですか?何があったんですか?」
「七大公爵のモルー公爵が会談に応じてくれたんだ!今までは会談を提案しても、ことごとく断れていたんだが、これは大きな進歩だ!」
「それはすごいことですね!それでモルー公爵はどのようなことを言っていたのですか?」
「モルー公爵はまだどちらの派閥につくかは決めていないと言っていたが、条件が良ければこちら側についてくれるそうだ。」
「そうなんですね。今日は会談で疲れたでしょうし、僕が肩をほぐしてあげますよ。」
「え!?い、良いのか?」
「はい!いつも来てもらっていますから。」
その瞬間、グラスの割れた音がした。
「れ、レベッカ様!?だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ...少し感情が高ぶってしまったわ。」
「そ、そうですか...」
「最近、カップを割る人が多いですよね。」
「そうだね。まあ、僕達には関係ないことだけど。」
「そうですね。もし、モルー公爵が殿下の方についたら、前言っていた計画も進むのですか?」
「聞いていたのか?」
「す、少しだけ...」
「あの計画だけは誰にも言えないんだ。ごめんね。」
「そうですか...僕達は隠し事なしの仲だと思っていたのですが、残念です...」
「ご、ごめん!で、でも、これだけは!」
「そうですよね。どうせ僕なんてすぐに捨てられるだけですし!殿下なら、他の女がうじゃうじゃとよってきますしね!」
「す、少しだけだからね!それなら元気になってくれる?」
「はい!」
「良かった...それで、僕達が考えている計画は学園祭で行おうとしているんだ。まあ、詳細はその時までのお楽しみってことで我慢してくれる?」
「まあ、それなら許してあげます。」
「良かった...それより、明日でこのお店は閉まるんでしょ?アレンはどうするの?」
「僕はいつもの仕事に戻るだけですよ。」
「じゃあさ、僕のメイドにならない?僕のメイドになったら、いつも通り僕と話せるし、給料も上がるよ!どうかな?」
「すみません。私はある方に一生を使っても返しきれない恩があるので、それだけはできないです。ですが、プライベートであればたまに会えると思います。」
「そ、そう...まあ、でも、プライベートでは会えるんでしょ?」
「はい!もちろんです!」
「そっか...じゃあ、またね!」
「はい。またいらしてください。」
フェンデスが去ると、アランは何かが抜けたようになった。
「疲れた...」
「あんのクソ王子め。アランにあんなことさせるなんて。てか、プライベートで会う約束をしたわよね。私にはそんなこと言ってくれないのに...」
「しょうがないじゃん!営業なんだから。」
「じゃあ、私とも今度付き合ってくれる?」
「そりゃあ、もちろん。護衛だからね。」
「まさか、レベッカだけ抜け駆けするつもりはないのわよね?」
「レベッカちゃん?まさか私達を裏切るつもり?」
「あ、あれ?聞いてた?」
「じゃあ、みんなで行こっか!」
「なんか、私達抜きで盛り上がっているね。」
「俺らハブられた...」
「じゃあ、生徒会みんなで行きましょうか!」
「そうこなくっちゃ。」
「やっぱそうだよな!」




