「準備期間」
「はい。覚悟はできています。」
「わかりました。では私も協力いたします。その代わり、途中で逃げ出さないでくださいね。もし、そうなったら私はもうエドワード様の協力はできません。わかりましたか?」
デイビットがそう言うと、メーベルも口を開いた。
「私もデイビットと同じ意見です。それぐらいの覚悟で言ってもらわない困りますからね。」
メーベルはそう言いながら微笑んだ。
「エドワード様、具体的な話は後日でも良いですか?」
「そうだね。長居していると、父上に見つかってしまうからね。じゃあ来週具体的な計画を建てようか。」
「そうですね。でも坊ちゃまの部屋だと、他の人に見つかってしまうかもしれないので、来週は屋敷ではない他の場所にしましょう。」
「デイビットさん、どこか良い場所はありますか?」
「そうですね、私の行きつけのお店なら個室があるのでそこにしましょう。」
「じゃあ来週ね。またね~」
そう言って、エドワード二人に手を振りながら見送った。
一週間後...
エドワードとメーベルとデイビットの三人は、デイビットの行きつけの店に来ていた。
「マスター、飲み物を3つ。3つともノンアルコールで。」
「はいよ。」
この店のマスターは客との交流が多く、デイビットとも仲が良いらしい。
「で、具体的に策はあるのですか?」
「まず、準備するものとしてはお金、服、身分証明証って感じかな。」
「そうすると、問題なのは坊ちゃまの泊まる場所ね。」
「そうですね。エドワード様に野宿させるのはまずいですね。だからといって、宿に1人は流石にですよね...」
(そうなんだよな。だからといって、宿に一人で泊るのも大変だしな。どうしようかな...)
そう考えていると、メーベルがひらめいたような顔をして話しだした。
「孤児院なんかはどうでしょう?孤児院なら、安全で勉学や剣術もできますし、大人になれば仕事につけれます。」
「確かに、それは名案ですね。私のコネを使えばなんとかエドワード様を引き取ってくれるところがあるかもしれないです。どうですかエドワード様?」
「じゃあそれで。」
エドワードはかなり軽い返事をした。それには理由があった。
(孤児院だと頑張れば、見つけられるんだよな。正直、誰にも見つからずに生きて、誰にも見つからずに死にたいからな。まあ、その時になったらどうにかしよう。)
「では、エドワード様具体的な策は決まりました。これから一年間はどうしますか?」
(もし孤児院から抜け出すとなると、この国や外国のことを知っとかないといけないな。あと、ある程度自衛もできるようにしないとな。そうすると...)
「勉強と剣術を学びたいです!この2つは、社会に出たときに必要だと思うので。」
「確かに坊ちゃまの言う通りね。そしたら、私が勉強を、デイビットが剣術を教えるのでどうですか?」
「そうですね。では、この一年間はエドワード様が外に出られるように、徹底的に仕込みますね。」
デイビットの目はまるで餌を見つけた猛獣だった。
「あらデイビット、すごいやる気じゃない。まあそうよね。なんて言ったってこの国の元近衛騎士団の第3団長だったものね。」
「え?」
その瞬間、エドワードの頭の危機感知能力が反応した。
(これはまずいやつだ。これから一年間みっちりしばかれてしまう。これは地獄だ。どうにかして剣術は他の人にしてもらおう...)
エドワードがこう思うのには理由があった。
この国の近衛騎士団は第八騎士団まであり、そのうち第三騎士団までは国王直属の兵だ。
この国は、魔術が発展しているが、剣術も発展している。この国は、他国に比べて軍事力が高いのだ。その中でも、この国の国王直属の近衛騎士団は、魔術師四天王と並び他国からも恐れられている。
しかしそれには理由があった。この国は魔族の国と国境が接しており、魔族との抗争が絶えないのだ。魔王自体は、1000年ほど前に滅びているのだが、魔王軍は解体されずに魔王の復活のために人間と戦争状態にあるのだ。
そんなわけで、この国の近衛騎士団は大陸最強と呼ばれているのだが、その騎士団長ともなるとほぼ負け無しということだ。
「ど、どういうことですか?デイビットさんは父上の秘書をやっているのじゃ人ですか!?」
「そうなんですが、私の父上に言われたんですよ。『秘書をやるんだったら主を守るのは当然の義務。だから、ちょっこら近衛騎士団に入ってこい。』と。それで、出された目標が、近衛騎士団に入り団長になれと。それで2年ぐらい近衛騎士団に世話になったんですよね。」
「な、なにが『ちょっこら』ですか!?そんな気軽に入れるって近衛騎士団はどうなってるんですか!?てか、デイビットさんすごく楽しそうですね。」
「デイビットは近衛騎士団に恋人がいるの。」
「え!?初めて知った。」
メーベルとエドワードが話している間デイビットのかおは赤くなっていた。
「ま、まあとりあえずエドワード様の剣術はお任せください。では、帰りましょう。」
「え?デイビットさんの恋バナはしないの?」
そう言ったのはエドワードだった。
「確かに気になる!デイビット、聞かせてよ。」
そこから2時間、デイビットの恋バナを聞いた。
* * *
ここから1年間地獄の勉強と剣術の練習が始まった。
「メーベル、ここわかんないんだけど。」
「そこは、ラファエル王国の名前の由来ですね。それは魔王倒した英雄ラファエルから取ってラファエル王国と言われています。」
エドワードはまずこの国の歴史を勉強した。
剣術ではまず基礎体力を上げる練習をした。
「遅い!もっと速く走れるだろう!何をちんたらしている!」
「は、はい先生。でも、もうすぐ倒れますよ...」
「こんなことじゃ倒れない!家出するんだろう、それぐらいの覚悟か!」
「が、がんばります...」
デイビットは先生になると人が変わった。鬼教官に変わってしまった。
それから半年がたった頃...
「エディ、最近メーベルやデイビットさんとずっと一緒にいるけど何してるの?私と遊ぶ時間が減って寂しんだけど。」
マリアが少し怒りながら話しかけてきた。そう、マリアが家出について気づき始めていたのだ。
「えーと、まあ勉強とか運動とかしてるだけだから何にもないよ!ほんとに、マジでないから...」
(お姉ちゃんにバレるのが一番まずい。バレたら、この屋敷ごと吹き飛ばすかもしれないからな...)
エドワードがこの半年間勉強と剣術をしている間、マリアは魔術師学校マギアに入学していた。マギアはウォード家の管理下にあり、この国最高峰の魔術師学校だ。マギアに入学するには、まず上級魔術師以上の推薦状、多額の入学金。そして、筆記試験と実技試験を合格しないと入れないのだ。だがマリアは、バーナードと他の宮廷魔術師からの推薦状をもらい、筆記試験と実技試験を満点で合格し、特待生として入っている。
今は中級魔術の実践授業を受けているらしい。
つまり、マリアは中級魔術を使うことができ、この屋敷を吹き飛ばすことも可能なのだ。まあ、元々中級魔術は使えていたのだけど...
「そう、それなら良いんだけど。じゃあ、明日は私も一緒に運動するわ。」
「え?明日って授業じゃないの?」
「明日は休むわ。デイビットがエディになにか変なことしてたら大変だもの。」
(まずい。本当にまずい。あの厳しい練習に、人が変わったデイビットさんは本当にまずい。バレたらデイビットさんの首が飛ぶぞ。)
「い、いやー。授業を休むのは良くないと思うよ!ほら、授業を休んだら他の人と差がついちゃうじゃん。」
「大丈夫よ。アーサーに頼めば学校を休校にすることができるから。」
「アーサー?」
「話したことなかったけ?この国の第一王子で、私のストーカー。こないだの実技で勝ったから何でも一つ言うこと聞いてもらえるから。」
(なにそれ、第一王子がストーカー?言うこと聞いてもらえる?マジで何言ってるの?)
「じゃあそういうことだから、デイビットによろしく言っといてね。」
そう言ってマリアは部屋を出ていった。
(まずい、どうしよう。とりあえずデイビットさんにこのことを言わないと...)
「エドワード様。」
(この声は...)
「デイビットさん!丁度良いところに。あのですね...」
「マリア様のことですよね。話は聞かせてもらいました。」
「なら話が早いです。明日は練習メニューを変えてもらえますか?」
「駄目です。」
エドワードの思考が停止した。
「ど、どど、どうしてですか?」
「一度甘やかすと、人間はだめになるからです。」
「で、ではどうすれば...」
「簡単なことです。アーサー殿下にお願いして、マリア様を足止めしてもらえば良いのです。」
「でもそのアーサー殿下?にどうお願いするんですか?」
(第一王子に会うこと自体、難しいのにどうするんだろう。)
「簡単ですよ。バーナード様にこう言うんです。『マリア様とアーサー殿下は最近仲が良いらしいですよ。明日茶会に誘ったらどうでしょう。』と。バーナード様は権力を欲しがっているので、茶会という名のお見合いをしたがるでしょう。これを利用するのです。」
「なるほど!そしたら急いで父上にお願いしないといけないですね。頑張ってください!」
エドワードはそう言いながら微笑んだ。
次の日。
「いや流石ですね!」
「口を動かす暇があったら剣を触れ!」
デイビットの策は成功した。バーナードは喜んで茶会の場を作り、マリアとアーサーを引き留めた。
「す、すみません...」
(褒めただけなのに...怖すぎる。怒られないようにもっと頑張らないと!)




