「初めまして、ギルド長」
「君がアランか。」
そこには筋肉質で大柄な男がいた。
身長はかなり高く、ビクトリアやアランを軽く見下ろせる程度であった。髪は茶髪であり、顔には何かにひっかかれた傷があった。
「あなたがギルド長ですね?」
「いかにも。俺の名前はシーザス・ボルクだ。お前らが快く依頼を受けくれて本当に助かるよ。」
「それは、あなたが"無理やり"やらせてるからでしょう?」
「そう怒んなって。ラファエル爺さんが死んじまったから、これからはもう少し依頼が増えるだろうから頼むぜ。」
「それで、シーザスさんは今日はなぜここに?」
「それはお前に会いに来たのと、北部に急ぎの用事があったからだ。あとは、レベッカ嬢に話もあるからな。」
「私にですか?」
「ああ。レベッカ嬢には二つ話がある。一つは北部の食糧供給についてだ。これは知っての通り北部の食糧は尽きかけている。そこで、ターナー商会から食糧を供給してもらいたい。」
「ですが、北部では魔王軍が供給路を絶っているとの話ですが。」
「それなら大丈夫だ。こいつらがなんとかするから。」
シーザスはアランたちの方を向いた。
「アランがどうにかするってどういうことですか?」
「こいつらはギルドからの要請で魔王軍撃退を頼まれている。」
「ですが、アランには申し訳ないですが、たった1人が動いたところで、事態は変わらないと思いますが。」
「レベッカ嬢にはアランの活躍を見てもらいたいからな。それが終わったら、もう一つの話をする。ビクトリアたちは寝てて良いぞ、って寝てる...」
アランはシーザスの話などお構い無しにビクトリアに膝枕をされていた。
(ずるい!私もしたいのに!)
「シーザス、アラン様が寝ているので静かにしてください。起きてしまいます。」
「お前ら、一応レベッカ嬢の護衛なんだろ?護衛が何呑気に寝てるんだよ。」
「大丈夫じゃよ。いざとなったら、妾たちで相手をするわい。」
「君は?」
「アランの使い魔のアリシアじゃ。」
「使い魔?こんな少女が?アランは奴隷商人かなにかか?」
シーザスが冗談を言うと、ビクトリアは剣を抜きシーザスの首元に剣を突きつけた。
「シーザス?次そのような事を言ったら、あなたの首が飛ぶわよ。」
「す、すまなかったよ...もうこういう冗談は言わねえから、物騒な神器をおろしてくれよ...」
ビクトリアが神器を下ろすと、レベッカはその神器に興味津々であった。
「神器!?ビクトリアは神器を持ってるの?」
「はい。アラン様も持っていますよ。」
「え!?アランも持っているの?どれが?」
「まず、アラン様の着ているローブです。後は首につけているネックレスと、耳飾りです。」
「3つも!?あなた達のその財力はどっからできているの?ターナー商会でも、神器はほぼ取り扱ってないのよ。」
「屋敷に神器があるので。それを言うならば、レベッカ様がつけているペンダントも神器でしょう?」
「え?なぜわかったの?」
「アラン様のことについて記憶を消去しようとしたのですが、何かに阻まれたので。」
「あなた、本当に容赦がないわね...これは、私を守ってくれる神器よ。もし、魔術が飛んできても大丈夫なように、肌見離さずに持っているの。」
「おいおいビクトリア、レベッカ嬢に精神干渉なんてしたら、死罪だぞ。」
「精神干渉!?それは禁術では?」
「そうだ。だが、こいつらは平気で禁術を使う。だから、ギルドが黙っているぶん、依頼を受けてもらっているんだ。」
「そうだったのですね。私もそろそろ、眠たくなってきました。少し寝ますね。何かあったら起こしてください。」
「ああ、そうするよ。」
レベッカが寝た後、何事もなく北部に到着した。
一番最初に起きたのはビクトリアであった。
「少し寝てしまいましたか。」
「大丈夫じゃぞ。敵は来ておらん。」
「アリシア様は寝てないのですか?」
「魔族は睡眠はいらんのじゃ。」
「そうだったのですね。」
ビクトリアたちが話していると、シーザスとレベッカが起きた。
「ん、朝か?もう着いたのか?」
「はい。もうすぐつきます。」
「私達が寝ている間は大丈夫だった?」
「ええ、アリシア様が見守っていたので大丈夫でした。」
「アリシアが?まだ、子供なのに寝ないとだめだよ。」
「妾が子供?妾は三千年は生きておるわ!」
「三千年!?そんなに生きているの!?でも、見た目は子供って、どういうこと?」
「妾は大人じゃよ。それより、アランはまだ起きんのか。」
アランはアリシアたちが話していても、起きる様子はなかった。
「アラン様は朝が弱いのです。私が起こさないと、半日は起きないでしょう。」
「嘘でしょ...どんだけ寝るのよ。」
「起こす時アラン様の近くに魔術を発動させると、反射的に起きます。」
ビクトリアが魔術で火をおこすと、アランは飛び起き防御結界をはった。
「あれ?まだ朝か。もう一回寝るか。」
アランはそう言うと、もう一度寝ようとした。
だが、ビクトリアはそれを許さなかった。
「駄目ですよ。もう北部につきますよ。早く依頼を終わらせますよ。」
「えー?もうちょっとだけ!」
「依頼が終わったら好きなだけ寝て良いですから、今はだめです。」
「ケチ!ビクトリアなんか嫌い!」
アランがそっぽを向くと、ビクトリアは涙目になっていた。
「あ、あ、ご、ごめんなさい、私が悪かったので嫌いにならないでください!」
「じゃあ、今から寝ても良い?」
「良いですから、嫌いにならないでください!」
すると、アランは満足したように、二度寝を始めた。
「またやられてしまった...今度は負けないと思っていたのに...」
「あんた、アランに対してかなり弱いわね。」
「あのビクトリアがこんな簡単に...アランは一体ビクトリアに何をしたんだ?」
「ほら、アラン様が起きてしまいます。静かにしてください。」
「一応、私の護衛任務でもあるんだけどね...」
ビクトリアたちが話していると、馬車が止まった。
「どうやら着いたようじゃな。」
「ここは、軍の施設ですよね。私もここで降りるのですか?」
「ああ。先に見てもらいたいものがあるからな。ほらみんな、行くぞ。」
ビクトリアはアランを背負いながら降りた。
軍の施設に入ると、人が行き来し、レベッカたちが話しかけるような暇はなかった。
「こりゃ、かなりやられてるな。お前らが来てくれて本当に助かったよ。」
「それはアラン様に言ってください。依頼を受けたのはアラン様なので。」
「これが北部の戦況...かなりひどいわね。確かにこれなら私達の商会に援助を頼むのも無理ないわ。」
「魔族のほうが優勢か。妾がいなくなっても、すこしはやるようじゃな。」
レベッカたちが奥に行くと、そこには一人の魔術師がいた。
「やあシーザス。久しぶりだな。今日はレベッカ嬢も一緒なのか?」
「やあ、崇高。それだけじゃないぞ。今日は援軍もつれてきた。」
崇高の魔術師がビクトリアの方を見ると、すごく嬉しそうにした。
「彗星の魔法使いではないか!よくぞ来たな!今度は私にどんな魔術を見せてくれるのだ?」
だが、アランからは返事がなかった。
「彗星の魔法使い様は今は寝ておられます。今起こすので少々お待ちください。」
ビクトリアがもう一度魔術を使うと、瞬時に起き、防御結界を発動させた。
「彗星の魔法使い様、着きましたよ。作戦は前回と同じでよろしいですね。」
アランは頷いたが、シーザスがそれを止めた。
「それはだめだ。お前らのせいで、地形が変わったんだぞ。そのせいで国王に何度呼ばれたことか...今回は地形は変えないでくれ。」
すると、アランはビクトリアに耳打ちした。
「彗星の魔法使い様はわかったとのことです。では、早速始めるので、兵は撤退させてください。危ないので。」
「わかった。頼んだぞ。」
数行の魔法使いが指示している間、レベッカが話しかけてきた。
「なんで兵を撤退させたの?あなた達は一体何をするつもりなの?」
「レベッカ嬢には特等席で見てもらおうか。今から起きることを目に焼き付けておけ。」
皆が外に出ると、戦場は酷い有様であった。
魔物や魔族が城壁のすぐそこまで迫っていた。
「ギルド長!これはまずいわよ!いくらアランが強いとわいえ、この数は流石に無理よ!」
レベッカの意見には一理あった。レベッカたちは城壁の上に立っていたが、見渡す限り、魔物と魔族によって埋め尽くされていた。奥には、攻城兵器と思われるものもあった。
「そうだな。だが、彗星の魔法使いならやってくれるよ。」
アランが飛び上がると、空に無数の黒い球体を作った。
「核心の貫き。」
アランが詠唱すると、黒い球体から、黒炎に雷をあわせた小さな光線が放たれた。
それは、魔物や魔族たちの急所を正確に撃ち抜いていった。
「レベッカ嬢、これがアランの力だ。これが彗星の魔法使いの力だ。俺達が見ているものは戦争ではない。一方的な虐殺だ。」
シーザスの言う通り、戦場を駆け巡っていた兵士は、何もできずに散っていった。
レベッカは驚いて言葉すら発せなかった。
「これはまたすごいな。一つ一つが正確な魔術だ。私でも正確に急所を撃ち抜くのは至難の業なのに、それをいとも簡単に、しかもこの数を...底が知れぬな、あの魔法使いは。」
「そうですね。彗星の魔法使い様の本気は一度しか見たことがありません。もう一度だけ本気を見てみたいものです。」
戦場はアランの攻撃によって、兵士は次々に倒れていき、魔王軍はまたしても壊滅してしまった。
だが、アランが一息つこうとしたところ、一人の魔族がこちらに攻撃をしてきた。
「さすがは魔王城を破壊した魔術師だな。だが、こんなのこのこと、出てくるとは。これで殺しやすくなったよ。ありがとな!」




