「人の話を聞かないやつ」
「アラン。」
とっさに、マリアから習った歴史人物の名前を使った。
「じゃあアラン、よろしくね!」
そう言ってアランの手を握った。
* * *
15分後...
「ねぇ、レベッカ。」
「なに、アラン?」
「もう、3周もしてるよ。」
レベッカとアランは迷子になっていた。
「一つ聞くけどさ、レベッカはといれの場所を使用人に聞かなかったの?」
「えーと、大広間の近くって言われたわ。」
「ここ、大広間と真反対だけど。」
「え?使用人に聞いたらここらへんって言われてわよ。」
「その使用人ってさ、大広間2つあるって言ってなかった?」
そう、この家には大広間が2つある。外から来た人にはいつも迷うため、使用人は絶対に大広間を間違えないよう念入りに伝えているはずだ。
「そういえば、そんなことも言ってたような気がするわ...」
「もしかして、使用人の話聞いてなかったの?」
「えーと、その、聞いてたわよ。少し...」
(この子、人の話聞かずに先に行動する人だ。)
そう思っていると、レベッカが何かを見つけた。
「あ!あれじゃない、トイレ?ほら、アラン速く行くよ!」
「あれって...」
「ほら速く行くよ!」
そう言ってレベッカは走って行った。
「待ってレベッカ!そこは、入っちゃダメな場所だよ。」
レベッカはアランの声に耳も傾けず扉を勢いよく開けた。
そこにあったのは、床に穴が空いた部屋だった。
「あ」
「あ」
レベッカは穴の空いた床に勢いよく落ちていった。
「あっっっ、助けて誰かー!」
レベッカは泣き叫んだ。
「なんで教えてくれなかったのー!落ちたのアランのせいだよ。」
「いや、僕言ったし。何も聞かずに突っ込んだのレベッカじゃん!」
「いやだってー、床がないとは思わないじゃん!」
そう言っていると、物音を聞いて駆けつけた使用人たちが駆けつけて来た。
「おいあれって、レベッカお嬢様じゃないか?」
「でも、どうしてここに?」
「おいなんか、上に人影があるぞ。」
(まずい、見つかったら父上に報告される。それだけは避けたい。父上にバレたらそれこそ殺される。)
アランは急いで、窓から飛び出した。
(まずい、ここ2階だった...)
* * *
その頃レベッカは使用人たちと話していた。
「レベッカお嬢様、なぜここにいらっしゃるのですか?トイレに行かれたのではないのですか?」
「ええ、そうよ。それで迷ってしまって、途中であったアランと一緒にトイレを探していたのよ。」
そうレベッカが言うと、使用人たちは皆不思議そうな顔をしていた。
「アラン?そんな名前の方はこの屋敷にはいませんよ。お嬢様、本当にそのアランという方といらしたのですか?」
「ええ。確かにあの子はアランと言ったわ。」
使用人たちは皆首をかしげていた。
「おい、みんな。アランて人、聞いたことあるか?」
「いや、俺はないな。」
「わたし、その名前を聞いたことがあります。確か、歴史人物の名前だった気がします。」
そう話していると、レベッカはもじもじしながら使用人たちに話しかけた。
「私そろそろ限界なの。トイレを案内しもらえます?」
その言葉を聞いて使用人たちは慌てて言った。
「す、すみません!今すぐご案内します。」
(それにしても、あの子は誰だったんだろう。使用人たちの反応だとアランは偽名かなにかか。また今度あったときに問い詰めてやる。覚えておきなさい。)
レベッカは密かに考えながら、トイレの方向に走っていた。
* * *
その頃エドワードは窓から飛び降り、庭に出ていた。
「いてて.....流石に2階から落ちると痛いな。普段父上に殴られてるから痛いのに慣れてるんだけどな。」
そう独り言を呟いていると、一人の少女が声をかけてきた。
「やっぱりエディだ。まったく、こんなところで何しているの?」
「あっ、お姉ちゃん。いやちょっと、2階から飛び降りたらちょっと怪我しちゃって。」
その瞬間マリアが目を見開いた。
「なにしてるの!いくらなんでも2階から飛び降りるなんて、そんな無茶しちゃダメよ。」
そう怒りながら、マリアの顔は涙目になっていた。
「なんでお姉ちゃん泣いてるの?」
「エディがむちゃするからよ...死んだらどうするの。」
そう言いながら涙をこぼしていた。
「いや流石に死なないし。しょうがないじゃん。だって、家の中を探索してたらいつの間にか迷って、おまけに迷子の女の子と一緒にトイレ探しって、あの子人の話全く聞かないんだよ。それでさ、この前お姉ちゃんが父上へのストレスの八つ当たりで吹き飛ばしたトイレに落っちゃったんだよね。ほんと今日は災難だったよ...」
そう言うとマリアの顔が赤くなり、恥ずかしそうに言った。
「もうその話はやめて、ほんとに恥ずかしいから。だって、嫌いなものを食べなさいって怒られて屋敷を破壊するお嬢様がどこにいるの。」
「ここにいるけど。」
「もうやめてー!」
マリアは真っ赤に顔を染めながら叫んだ。
ちなみにマリアはファイアートルネードを使った。
ファイアートルネードは中級魔術であり、その中でもかなり難易度が高い魔術だ。
そんな魔術を8歳で使いこなしているのはかなりの化け物だ。
そんな話をしていると近くから使用人の声がした。
「なんかこっちから叫び声がしなかったか?」
「俺も聞こえたな。ちょっと見に行こう。」
(まずい、使用人に見つかる。速くこの場から逃げないとっ...)
「はい、乗って。」
「へ?」
そこにはマリアが背中を向けて立っていた。
「飛び降りたんだから、歩くの痛いでしょう。ほら、おんぶしてあげるから。」
「いや流石に歩けるよ。お姉ちゃんは過保護すぎるんだよ。」
エドワードがこう言うのには理由があった。
* * *
エドワードが3歳になりたてのことだった。
エドワードが外で虫を捕まえようとしていたところ、マリアが現れた。
「エディ!何してるの!あのおぞましい生物に何されたの!」
「えっと、あれただの蝶々だけど。お姉ちゃん、蝶々は悪い生き物じゃないよ。」
マリアに蝶々の無実を訴えるが、聞く耳を持たなかった。
「あんたが私の可愛い弟をそそのかしたのね!あなたの住処ごと焼き払ってくれるわ!」
「ファイアーボール!」
そう詠唱すると、初級魔術には見えないほどの巨大な炎で作られた球体かま現れ、森に放なたれた。
その瞬間、森から爆音が聞こえ煙が目の前の視界を覆った。煙が晴れた瞬間エドワードは目を大きく開いた。
「森が...」
そこには一面焼け野原が広がっていた。
初級魔術は、初心者が使うために作られたものだ。しかし、上級魔術師でも重宝している。理由は簡単だ。初級魔術は魔力操作が簡単な上、魔力を込めれば込めるほど威力は上がっていく。魔術師は上に上がっていくほど魔力操作が秀でて、膨大な魔力量を込めても暴走しないのだ。
マリアの場合、魔力操作はまだまだだなため、魔力を込めすぎると暴走しがちになる。今回は、魔力を尋常じゃないほどに込めたが、ファイアーボールを作った瞬間に放ったため、暴走する前に森にあたり爆破したのだ。
「お姉ちゃん、流石にやりすぎじゃ...」
「まだそんなこと言ってるの?あの生き物はエディの命を取ろうとしたのよ。住処を破壊されても文句は言えないわ。」
「いや流石に、父上もこれを見たら怒るよ。いくらなんでもやりすぎだって。」
「いいのよ、これくらい。それより帰ってお姉ちゃんが本を読んであげる!ほら、はやく!」
そういって、エドワードの手を引っ張った。
(もう二度と森にはいかない。これ以上無実の被害者を増やしたくない...)
エドワードは密かに心中で決意した。
* * *
場面はマリアの誕生日パーティーに戻る。
エドワードは結局おんぶされることになった。
「そういえば、お姉ちゃんの誕生日パーティーはどうしたの?」
「つまんなかったから抜け出してきた。」
「それあとで父上に怒られるよ。その感じだと、説教1時間コースだね。」
「最悪だわー。図書室にでも隠れていようかしら。」
「はは...バレないと良いね。」
エドワードとマリアは笑いながらその場を去った。
その夜、エドワードは窓から飛び降りて怪我をしたので屋敷にある医務室に向かっている途中だった。ちなみに、監視役にはバレないようマリアに気を引いてもらっていた。
医務室にいる先生はこの屋敷で数少ないエドワードの味方であった。
(監視役にバレないように速く終わらせないと。)
そう考えながら歩いてると、何やら話し声が聞こえてきた。
(ん?こんな夜中に何を話してるんだろう。しかもここは父上の執務室だ。)
バーナードの執務室は医務室に行く途中にあった。扉が少し空いていて光が漏れていた。
「バーナード様なんの御用でしょう。」
(ん?あれは、父上の秘書?でもなんでこんな時間に?もうとっくに就寝時間を過ぎているのに。)
そこにはバーナードの秘書、デイビット・ホールは23歳という若さでありながらバーナードの第一秘書をしていた。デイビッドの印象は金髪の美青年といったところで、屋敷のメイドの中でもガチ恋勢がいるらしい。もともとホール家はウォード家の召使として代々仕えている。そのためバーナードの秘書をやっていて、この屋敷に住み込みで働いているのだ。
「大事な話があるのだ、デイビットよ。このことは他言無用で頼む。」
「承知しました。」
そう言って、デイビットはきれいなお辞儀をした。
「それで大事な話というのは?」
「それは、エドワードのことだ。」
(僕のこと?でもなんで?まさか、今日あの子と一緒に屋敷を歩き回っていたことがバレたのか?)
「あいつが10歳になるまでになにかの才能がでなかったら、殺そうと思う」




