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第5話 馬主

《なぁ、馬主(ばぬし)になるためにはどうやったらなれるんだ?》


《いいか、そもそも読み方が違う》


電話越しの和田の声はいつもよりもずっといきいきしていた。


馬主......「ばぬし」ではなく「うまぬし」と呼ぶらしい、馬主になるための規定を調べてみたが、かなり厳しい規定があるらしく、いま斎藤は和田から説明を受けているところだ。


《えっと...年間所得額が2年連続1700万円以上。ちなみにこれは競馬の収入とか株で得た収入はだめだ、資産額が3500万円以上でお前名義の不動産・預貯金・株価のみである。保険証券、ゴルフ会員権、海外に所在する不動産、書画や骨董等は資産に含まれねぇ、ちな負債は資産分から差し引かれる...........だとよ》


厳しい、というか厳しいってレベルでは済まない。例えるなら高尾山しか登ったことのないパンピー(一般ピーポー)がスーツ姿で、それと無知な状態で富士山のてっぺんまで登りきるほどだ。


《しかも何がやばいって、1頭の年間平均獲得賞金は796万円だ》


そんなに稼げるのか、と最初斎藤は思ったがそんな甘い考えはすぐに和田の説明によって壊される。


《ちなみに、これ平均だからな。超高額賞金のビッグレースを買った馬が入っているから平均が高くなっているだけだ、実際勝ち進んで重賞を勝てる馬なんて超極僅かだ。》


競馬には中央と地方の2種類があるが、中央で勝てなく地方にうつって走る馬も大勢いる。


《これでも馬主に、それも中央の馬主になるか?お前は陸上の賞金もあるし全然できるがどうする?》


《ああ、あんなもんみたらするしかねぇよ》


斎藤は即答した。


《分かった、じゃあこのページをみて詳細を確認してみてくれ》





《なんとか書類通った.......まずは第一関門通過かな》


電話越しに和田に報告をする斎藤、早速和田の口から《まずは突破やな》と一言、そして


《とりあえず次は馬だな、馬がいないと馬主でも意味がない。次は「セリ」だ、馬を買いに行くぞ》


次に俺らは北海道のセリへと行く......のはあまりにも面倒くさいので和田に相談した結果「じゃあ電話で購入かな」と、電話越しで購入することとなった。


今年のセリのカタログを見るが、どの馬もかなり金額が行きそうだ。


「海外G19勝馬と名牝の配合」


「史上最強と歌われるスプリンターとレコード4つ保持するマイラーの配合」


「父が日本近代競馬の結晶」


「3冠馬と3冠牝馬の夢の配合」


競馬初心者の斎藤でも肩書を見ればどれも最強馬たちの子供ということは一目瞭然だった。


「いいか斎藤、どんなに血統が良くても走るやつとは知らないやつは大きく別れるんだ、実際5億円で取引されたやつが勝てないで引退したり、7000万円で落札されたやつが18億稼いだり、なんなら1000万円で18億のやつだっている。まぁ1000万円なんて正気の沙汰じゃない金額だけどな、5億に比べたらマシってだけで。」


そのカタログの中で斎藤はある1頭の牡馬に惹かれた。


「こいつは買いてぇところだな」


斎藤が指さした先には「シルバーアビーの2019」との文字があった。


和田はすぐさま説明する、「こいつは父がGⅢ2勝のライフイズグッド、母は地方で重賞4勝を挙げてまぐれではあるもののJpnⅢ、まぁ地方のGⅢも一応買っているな。値段は........ざっと300万円なら行けるってところかな。」


当日グリーンチャンネルをみながら、セリがどんどん進んでいく。そしてついにシルバーアビーの2019の番が来た、斎藤が一目惚れした馬だ、必ず競り勝ってやる。


《希望価格は50万円からです、それでは。ごじゅうまーーん、ごじゅうまーーん!》と会場内に威勢のいい声が響き渡る。すぐさま電話越しに「50万円!」と叫ぶ斎藤。


連動するかのようにテレビに映る司会者の《電話投票の方50万円お取りしました!それで60まんえーーん!60まんえーーーん!!》と威勢のいい声が再び響き渡る。


数十秒間の沈黙。


《60まーーん!60まーーん!いませんか?》


《60まーーん、60まーーーん》


手を挙げる者は誰もいない。


《ラストコールとさせていただきます、60まーーん!60まーーん》


カンッ!!


場内にハンマーが響き渡る、それは競り落とせたことの証でもあり、斎藤のはじめての所有馬となった証でも合った。



ちなみにJRAの馬主規定、またセリの最低落札価格はあくまでもフィクションであるため現実とは大幅に違うところがあります。

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