第10話 新馬戦
「よろしくお願いします、原騎手さん」
と新馬戦の2週間前に挨拶に行ったのがまるで昨日のようだ、府中競馬場は4Rの三歳未勝利戦を終えたばかりで次はついにゴールドグローリーの初陣の2歳新馬戦である。芝1800Mで一番人気が今年のダービーオーナーの波主龍太の有するスプリングサンダー号で1.3倍の圧倒的一番人気、当のゴールドグローリーは9頭中7番人気の45.2倍だ。
「キンチョーする、なんかほぐす方法とかない?」と斎藤は隣りにいる和田に聞くが速攻で「知らん」と一蹴された、しかも
「俺は緊張しないからな(笑)」煽られてしまう始末。
その時一人の高貴な人物が部屋に入ってくる、スーツでパリッと着飾っておりその姿はまるでイギリス王国、いわば「ロイヤルファミリー」そのものだった。
「あれが今年のダービーオーナの波主龍太だ」と和田が教えてくれたが、斎藤はそんな言葉を聞かずただその男に見入っていた。
和田はやや不機嫌そうになり聞く、「なんでそんなジロジロ見るんだ?やっぱダービーオーナーだからか?」
「あの人、足の筋肉すっごい」
二人の間に少しの沈黙が生まれた、その沈黙を破ったのは本馬場入場曲だった。
芦毛の2頭に誘導されてこの日デビューを迎えた2才馬たちがコースへと入っていく。その中にはもちろんゴールドグローリの姿もあった。
初の新馬戦。
ファンファーレの音。
ゲートに続々と誘導されて
数秒間の沈黙を破った「カッコン」というゲートの開く音、9頭がバラっとしたスタートを切り周回コースへと走っていく。先頭を奪ったのはゼッケン4番の馬でその後に続いていくのが2番と横に1番でその後ろの4番手にいるのが、ゴールドグローリーだった。
「頑張れよ!グローリー」と斎藤は和田に買ってもらったグローリーの10000万円分の応援馬券を握りしめて叫んだ。
しかしその後ろにいるスプリングサンダー号があまりにも不気味だった。
漆黒の馬体
鞍上は天才の武勇
オーナーは今年のダービーオーナー
そして......超良血。
あまりにも恐怖、例えるなら.....そうだな。
「眼の前に盾とライフルの装備したゴキブリがいるってくらい」.............例え方下手くそだな俺。
前半の位置取りのままゆっくりと3コーナーへと向かっていく、府中競馬場名物の大けやきを超えて行く。1000Mのペースは59.3秒のスローペース、そのまま馬群が直線コースへと向いていき歓声も増えていく。
「行け!!!!差せ!!」
「そのまま!残せ勇!!」
怒号が響く府中競馬場、しかし斎藤にとってそんなものはどうでもいい。
先頭の馬が早くも脱落し外から変わりに先頭に立とうとするのが8番の馬、そして外から飛んできたのが...漆黒の馬体だった。
《外からスプリングサンダー!スプリングサンダーが来た!早くも先頭です!》
懸命に追う各馬を横目にゆうゆうと抜け出したスプリングサンダー、その姿に観客たちは熱狂した
———最強馬の誕生の瞬間だ
しかし次の瞬間芦毛の馬体が飛んできた、斎藤は考える日まもなく叫んだ。
「行けぇぇ!」
《間を割ってゴールドグローリー、ゴールドグローリーが並びそうだ!》
前をゆくスプリングサンダー、後ろから懸命に追ってくるゴールドグローリー。どちらも譲らぬ勢いでラストの200Mを通過する。そしてついにグローリーが並んだ、場内からは歓声が湧き起こる、それは土曜日の、2歳の、新馬戦とは思えないほどの熱狂っぷりだった。
《2頭が並んだ、譲らない!ゴールドグローリー!スプリングサンダー!どっちかどっちか!》
ラスト100の標識を通過したあと、眼の前を駆け抜けていった、葦毛の馬。先頭に変わってその差を広げる、その姿はまるでペガサスのようで、羽ばたいているようで。
《ゴールドグローリーだ、新馬勝ちゴールイン!!》
斎藤は頭が真っ白になった。
「勝った.........勝った....のか?」
とやや興奮した様子で声を発した斎藤に和田がポンッと肩に手をおいた、そして
「さぁ、写真撮影だ。行ってら!」
と思いっきり斎藤の肩を叩き豪快に笑った。
「いてーよ!」
と言って斎藤はウィナーズサークルへと向かって走り出した。
倍の倍の倍の byebye 大敗 fucking you!




