いざ!高天ヶ原高等学校へ!!
ちなみにこの学校の扉は襖です
…どうも、僕の名前は安倍明です。
言わずと知れた大陰陽師・安倍晴明の末裔の1人です。
今日も、騒がしい壱年弐組の教室。皆、各々友達と下らない話に花を咲かせている。僕もそのうちの1人で、兄の晴やら友達の博美やらと話していた。
暫くして、チャイムが鳴り、担任の遮那先生が入ってくる…黒髪で少し背の低い子を連れて。
「え?何々、転入生?!」
「うわ…超美人じゃん…」
男子生徒も女子生徒もひそひそと話す。その会話を、遮那先生がやめるよう指示する。
「みんな静かに!今日は転入生が来てるよ〜!」
「今日からこの学校に来た、「月詠 輝夜」じゃ!よろしゅうな!」
………みなさんお判りでしょう。
この子は輝夜丸です。
──1日前──
「こんなんでどうかな!?」
僕と晴と博美と保乃香と輝夜丸と遮那先生は、先生に鍵を開けてもらって家庭科室に居た。
そこで裁縫得意の博美が、輝夜丸の服を作ってくれたんだ。
紺色で、丸襟の私立の小学校にありがちな制服。パステルイエローでチェック柄のハーフパンツに天の羽衣…
………ん?天の羽衣…??
「…あのさ、輝夜丸………天の羽衣、学校では外せる?」
「嫌じゃ!」
僕の言葉に対して輝夜丸がキッパリと言う。
「この学校は、私服でも制服でも良いのであろう?ならば、我が羽衣を纏おうが関係ないであろう!」
「痛いとこ突いてくるねこの神様…」
淡々と言葉を続ける輝夜丸に対して遮那先生が呟く。
「!それより…輝夜丸君のこと、学長に報告…!」
「もう来てますよ」
遮那先生の後ろに突然、笑顔で微笑む我等が学長が現れた。
遮那先生は驚き、学長から一歩退き下がる。
「うわぁ!僕の妖術で内側から鍵掛けてたハズなのに!!」
「僕も妖術使えますよ。何故、先に報告に来ないんですか」
そう言って学長は、遮那先生の額を弾く。
「わ…っ…!パワハラですよぉ…」
…遮那先生は額を抑えながら蹲ってシクシクしてる…
この人、年齢不明だけど成人してるよね…?
「ただのデコピンじゃないですか。そんなに強くもやってないですし…生徒の前で醜態を曝さないでください」
学長の正論に対し遮那先生は更にシュンとした。
「はぁ…輝夜丸君、と言いましたかね?」
「そうじゃ!」
そんな遮那先生を無言で慰める晴を横目に、2人は会話を続ける。
「僕は学長の「吉備 稲荷」です。」
「我はちょっと前まで伏見神宝神社に住んでいた迦具夜比売命こと輝夜丸じゃ!」
輝夜丸は、学長をよく見て、そして興味深そうに頷きながら言う。
「ほほぅ…お主は聞いていた通り人間と妖狐の半妖のようじゃな…」
「………話は逸れますが、貴方、話によればこの学校に転入したい…とか…」
…学長、早速話の核心を突いてくる。
「そうなのじゃ!」
「全然OK!いいですよ〜!」
………軽っ
「じゃあ一緒に学長室に行きましょうか」
「あぁ!…あとそれと………」
輝夜丸は僕たちの方に向き直り
「我は偽名を使う、お主らも我のことは"輝夜丸"ではなく"輝夜"と呼べ。よいな?」
「…うん…いいけど…ところでさ、他の人にはどうやって視えるようにするの?」
「あぁ、それについては問題ない!」
輝夜丸は、ぱっつんセンターパートから見えている額の三日月の模様を指さす
「き、金色の三日月…?」
…晴は遮那先生から輝夜丸に視線を移す。
「あぁ!我がこの模様に神通力を込めると、"普通の人間にも視える状態"と"お主らにしか視えない状態"を行き来できるのじゃ!」
「へぇ〜!それは興味深いですね!」
輝夜丸の言葉に、保乃香先輩が感嘆の声を漏らす。
「とりあえず、我は学長室とやらに行ってくるのじゃ!」
「…うん。行ってらっしゃい」
…最後の最後まで台詞無かった遮那先生…ちょっと可哀想…
「じゃあ行きましょうか。輝夜君」
「あぁ!」
「…なんか、2人の後ろ姿って親子みたいですね!」
輝夜丸…いや、輝夜と学長が行ったあと、色々と退魔師課外活動部の皆で雑談をしていた。
保乃香先輩から言われた時、博美と遮那先生は同時に互いを見合わせ、そして首を傾げる。
「「そんなに?」」
「あ!同時ですね!やっぱり親子です!」
「いや、なんでそうなるの?!」
「そもそも、違うじゃないですか!髪の色も目の色も!」
保乃香先輩の言葉に、遮那先生と博美が反論する。
…成程、それを言えばそうだ。
遮那先生は黒い髪に紫色の目…博美は茶髪に水色の目…それこそ髪型はまぁまぁ似てるけど…(遮那先生がポニーテールで博美がサイドテール)
………でも、その理論で言ったら、僕と晴の目の色は──
「あ、あとで輝夜にローファーと白靴下を贈らないと!」
「今更ですけど、私服OKなのに靴と靴下は指定って意味判らないですね…」
………この話は、また今度にしようか………
──そして今に至る──
「輝夜君輝夜君!今度一緒に遊ばない?」
「輝夜!お前どこから来たんだ?!」
…転入生、しかも…僕が言うのもなんだけど、輝夜はかなりの美形だから、女子からも男子からも続々と話しかけられていく。
…多分、中には思春期ならではの下心を抱いて輝夜に近づく生徒も居たんだろうね。輝夜は、基本的に他心通を使って人の心を読むから、そういう人は避けてるんだと思う…多分………
………まぁ、でも………妖術とか神通力を持っている人の心を読むのは難しいらしいけど………
…そんなこんなで、休み時間も終わり、授業が始まった。
ガラガラと襖を開けて、国語教師の…「中原 文也」先生が入ってきた。
「お!お前が転入生の輝夜か!俺は国語担当の中原文也だ!よろしくな!」
「あぁ!よろしくなのじゃ!」
…輝夜。先生に対してその口の利き方はちょっと…
「ははっ!面白ぇ喋り方だな!」
…前言撤回。この先生こういう人だった…
そして文也先生は、黒板に文字を書き始める。
「じゃあ輝夜!この黒板の文を読んでみてくれ!古文だし、詰まりやすいかもしれないがな」
その黒板には、「竹取物語」の一文が書いてあった。
「判ったのじゃ!」
…さて、どうだろう………輝夜。昔から生きてるし、古文………
「今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。」
…輝夜は、僕らが思った以上にスラスラと言葉を吐いた。
「綺麗に読めているな!じゃあこの文の訳を──」
文也先生の声を遮り、輝夜は続ける。
「名をば讃岐造麿となんいひける。」
「その竹の中に、本光る竹ひとすぢありけり。」
「怪しがりて寄りて見るに、筒の中ひかりたり。」
「それを見れば──」
「お…おい。輝夜…」
…輝夜は、文也先生に呼ばれてハッと我に返ったように黒板を見遣った。
…そう。黒板には輝夜が最初に読んだ一文しか書いてなかった。
そして、皆は感嘆の声を密かに漏らす。
「え…まさか、暗記してるの…?」
「おいおい嘘だろ…」
「もしホントに暗記出来るなら、試験の問題とか………」
そんなひそひそ声を掻き消すような、文也先生の声が響く。
「もう座ってもいいぞ輝夜!予習してることは充分伝わったからな!」
………果たしてなんの授業やるかも判らないのに予習するという概念はあるのだろうか………
───────────────
「…輝夜…君、凄いね」
「?何がじゃ?」
今は昼休みという時間らしい。ので、博美と晴と明と共に昼食を食べ終え、今は明と共に廊下を歩いている。
そして我は、転入生としての隣のクラスからの質問ラッシュと下心丸出しの男子女子共を追っ払って、一息ついていた。
「ほら…だって、竹取物語暗記してたんでしょ?」
「あー…我は1000年間ずっと暇だったからのぉ…よく書物などを読み漁っていたものじゃ!」
竹取物語に関しては、一時的に都に遊びに来た我を題材にした話じゃからのぉ…まぁ、1日降りただけで5人の貴族共に一目惚れされるのは予想外じゃったが………
「…あ、我は図書室とやらに行ってくるのじゃ!この時代の本を読んでみたいからの!」
「あ…うん、判ったよ。僕は職員室にノート提出しに行くから…」
そう言って、明は職員室へと向かった。
今日学校に来たばかりで学校の構図を把握出来ていないと思っている者共よ。全く問題ない。
我は神通力を使って、この学校の全体図を視ることが出来る。
さて…図書室は………ん?なんだか変な気配じゃな………
──図書室───
我が図書室に入ると、ひそひそと声が聞こえる。
「え…あの子が噂の…」
「美形男子…!」
………思った以上に耳障りじゃな………
というか、我のこともうそんなに噂になっておるのか………
そう思っていると、1人の奴が目に入った。
黒髪で、燐葉石のような色の目…
そして、何より…
「王」の文字が刻まれた冠のようなモノ…
我は、奴に近付き、こう言う。
「…お主…「十王」か?」
奴は驚いたように目を見張り、我を見遣る。
「──神、さん……?」