この神社に来るまでの経緯
まずは我がこの神社に来た経緯を話そうか。
言った通り、平安時代初期。我は放浪者じゃった。しかも妖や神と同じく天人は普通の人間からは視えぬ。
さぁ困った。我は誰からも認知されぬまま生きるほかないのだろうか…
そう思いかけた矢先。竹藪で偶然白い麗しい龍を見つけたのじゃ!
その龍は人ならざる者である我を視ることができたのじゃ!しかもまだ小さい、まだ子供なのじゃろう。
龍は、名を「狛龍」と言った。
「狛龍。お主は何故、ここにいるのじゃ?」
「汝も、人でなければ神でも妖でもないではないですか…いや、雰囲気的には神に近いのですが…」
そんな風に会話を続ける。我らは3日も満たず人間でいう「友達」とやらになったのじゃ!
だが、そんなある日、狛龍と出会って5日目くらいであったのじゃろうか。突然、我のことも狛龍のことも視える人間と出会った。
「安倍晴明」。どうやら、この国ではかなり有名な陰陽師という役職の男であるらしいのじゃ。
不思議な雰囲気を纏った奴じゃった。奥が読めず、何を考えているかも判らない。そんな奴じゃった。
「?君は…」
「…我の名は輝夜丸。そしてこっちの龍が狛龍じゃ。」
「…そっか…狛龍………狛龍の方は、伏見神宝神社の守り神だね。」
「伏見神宝神社…?」
伏見神宝神社とは、京の都にある神社で、偶然なのかは判らぬが、どうやら我がこの国に来てからすぐに建てられた神社なのじゃ。
「…で、なんで神社の守り神がこんなところに…」
晴明が言いかけると、狛龍は、これこれしかじかのことがございまして…と、晴明に向けて口を開いた。
…おい狛龍よ。お主が竹藪にいた理由が「迷子」だというのは我も聞いておらぬぞ………
そんなこんなで話しているうちに、今後どうするかという話になった。いや、勿論狛龍は神社に帰ってお守りを続けるのだが、いかんせん狛龍が
「輝夜丸も神社に連れて行きとうございます」
と、まぁまぁしつこくごねるので、晴明は腕を組んで唸った。
それはそうじゃ。人でも神でも妖でもない得体のしれない我を、この国の神域であるところなんぞに迎えたくはないのじゃろう。
そんな中、晴明は閃いたかのように言った。
「ねぇ、輝夜丸。もし神社に着いたらさ。俺が神主さんにお願いしとくから「禊」に来てくれないかな?俺以外には君の存在視えないだろうし、安心して」
「?何故じゃ?」
突然、神社に入ることを許したかのような晴明の口振りに我は訳が判らず首を傾げた。
それにしても、禊………
「………禊………??」
禊とは、なんじゃ…??
「禊というのは、海や川の水で躰を清めること、神主さんに頼んでその水に神力を込めてもらうんだ。」
我の考えを汲み取ったかのように晴明は微笑みながら言う。
「その水を飲んだら、君も神社に入れるはずだよ。」
我が神社に入れる。という言葉がよほど嬉しかったのか、狛龍は悦んだ。
「ありがとうございます!晴明殿!」
狛龍はそう言って、我を神社に案内する。
………立ち去る我らの後ろから、晴明が我に掛けた声………狛龍は、気付いておったのじゃろうか………
「まぁ、君の場合、"神社に入る権限以上のもの"が得られるだろうけど………」
「輝夜丸。俺"達"の"子孫"に宜しくね………」