遠ざかる背中
「澪~、ゼミ終わりの飲み会くるよね?」
「もちろん、行くよ」
澪は大学二年生。
澪の周りにはいつも友達がたくさんいる。
成績もよく、学生だけでなく教授からの信頼も厚い。
同じゼミの学生は授業前、いつも澪の席の周りに集まっている。
たった一人を除いて。
「蒼斗も行くの?」
澪はいつも一人でいる蒼斗に尋ねた。
「・・・行かない」
「澪~どうせいつも誘っても来ないんだからほっときなよ」
「でも....」
胸がちくりと痛む。
昔は違ったのに。
私たちは幼馴染だ。
幼い頃は夏休みに虫取りをしたり、冬休みには一緒に雪だるまを作った。
私の両親が仕事で遅くなる時は、蒼斗の家で泊まらせてもらったり。
いつも隣にいて、自然と笑いあっていた。
それがいつからだろう。
目があえば逸らされ、素っ気なく返される。
私たちはもう、前のように笑い合えない。
◇◇◇◇
つい遅くなってしまった。
時間は22時15分。
明日は1限だから早く帰って寝ないと。
飲みすぎたかな。くらくらす....
澪は突然道端に倒れた。
◇◇◇◇
「おい、お前。起きろ」
「大丈夫?」
「おーい」
目を覚ますと知らない部屋で寝かされていた。
「あ、目が覚めたみたい」
「大丈夫?」
「なんであんなとこで倒れてたんだ?」
ーー状況が理解できない。
私はゼミの飲み会後、家に帰っている途中だったはず。
確かその時目がくらんで....
「おい。聞いてんのか?」
灰色の着物を着た男が澪に詰め寄った。
「あんた聞き方怖いんだよ。もっと優しい言い方はできないの?」
「変わった着物だね~どこで買ったの?」
気が強そうな女と、なんだかふわふわした女が近寄ってくる。
「え、ええと....私....」
澪は困惑しながらも言葉を発した。
「目覚めたんならとっとと出ていけ」
その声の先には青い着物を着た男が襖のそばに立っていた。
「おいおい、一応こいつも怪我人なんだからもっと優しくしてやれよ」
「あんたが言えたことじゃないけどね。私も同感」
「着物....」
「チッ」
白髪の男は舌打ちをしてその場を去った。
「あんたなんであんなところに倒れてたの?」
気が強そうな女が言うには、私は山の中で倒れていたらしい。
そして妖怪に喰われそうになっているところ、妖怪退治のこの人たちが助けてくれたらしい。
ん?妖怪....?
「飲みに行って気を失った?馬鹿じゃないのあんた(笑)」
「それより着物、どこで買ったの!!!」
「酒弱いなら飲むなよなー」
いや、私はお酒は強いほうだと思う。
なのになぜか今日は目がくらんで....
「あの、もう大丈夫なので帰ります。助けていただいてありがとうございます」
私の第六感がこう言っている。
この胡散臭そうな人たちから早く離れろ。
妖怪だか何だか知らないけど、絶対怪しい。
危険だ。早く帰ろう。
「ん。もう帰るの?でも夜は妖怪が出るし、明日にしたほうがいいんじゃない?」
いやいやいやいや、絶対あなたたちの方が危ないでしょ。
「いえ、家はすぐそこなので大丈夫です。ありがとうございました」
澪はお礼を言い屋敷を出た。
家の近くで目がくらんだはずなんだけど....。
歩いても歩いても知っている場所にでない。
おまけに街灯も少なく暗く道がわかりずらい。
◇◇◇◇
「あの女は帰ったのか?」
白髪の男が部屋に戻りそう聞いた。
「ええ、帰ったわよ。家が近いから帰るって。ま、近いなら大丈夫でしょ」
「残念だな~どこで買った着物か聞きたかったのに」
「確かにあの子の着物?見たことないわね。着物なのかしら?」
「お前にびびって帰ったんじゃねえか?とっとと帰れとか言うから(笑)」
「チッ。俺のせいじゃねえよ」
◇◇◇◇
おかしい。歩いても歩いても........山!!!
だんだん険しくなるなとは思いながらも進んでいったけど....これは完全に山だ。
私の家の付近に山なんてないはず。
ここは....どこなの??
不安になりながらも山をくぐっていく。
ーーガサガサ
虫?にしては音が大きい。熊とかじゃないよね....。
澪は恐る恐る後ろを振り返った。
「うまそうな小娘だなぁ。丸焼きにして喰おうか、煮て喰おうか?」
そこには見たこともない生物が立っていた。
肌は赤く、口が大きく歯は黒い。全身に黒い毛が生えている。
直感でわかる。
これは人間でも動物でもない。
ーーーー化け物だ。