先生さようなら
マクロウはユガリア王国の貧民街の出身だ。
娼婦の母から生まれた狼の獣人。
その理由だけで石を投げられ殺されかけた事もある。
だが自分には剣の才能と同時に魔法が使える事に気づいてそのまま迫害をしたり自身を奴隷へ落とそうとする連中を返り討ちにした。
そして大人になってからは冒険者で金を稼いだ。
ユガリア王国は冒険者の国なので力と人格的な面を認められれば等級は上がり、貰える金も増える。
「狼の獣人なのに魔剣士かすげぇな!」
「すごいマクロウくん!」
魔剣士として活躍すると同業の冒険者はとても褒めてくれたのでそれが嬉しかった。
貧民街出身のマクロウにとってはいい職業だった。
順調に二級の冒険者になったはいいもののギルドはマクロウの実力を疑いさらに貧民街の出身という理由だけで強制的に冒険者の資格を剥奪した。
「そんなの出鱈目だろうが! このクソギルド長がぁ!」
「……貧民街出身だったんだマクロウくん」
「娼婦の生まれかよ! このギルドから出ていけ!」
「……お前らまでそんなこと言うのかよ」
その言葉にマクロウは怒り、ギルド長とその職員そして所属の冒険者全員を皆殺しにした。
事件のせいで王国の騎士団に捕まったが難癖にも等しい理由で捕まるなどマクロウのちっぽけなプライドが許さずに脱獄を何度も繰り返した。
「……はぁはぁこんなふざけた理由で捕まってたまるかよ!」
それはちっぽけな意地だった。
ただ生きて食う飯にありつきたいだけなのに何故こんな目に遭わなくちゃいけないのか。
自身の不幸をマクロウは恨んだ。
空腹で倒れると声が聞こえた。
「ま、魔獣か!?」
どうやら子供らしい。
獣人を見て驚いているのだろう。
そんなのマクロウは慣れっこだったがふと口が緩んでしまった。
「……腹が減った」
「えっ? もしかして狼の獣人?」
子供がそんな事を言い出した。
どうやらマクロウを魔獣と勘違いしていたらしい。
あろうことか子供はマクロウを起こして自身が持っている弁当をくれた。
心からの善意を受け取ってマクロウはとても嬉しかった。
「あーそいや名乗りがまだだったな。 俺はマクロウ。 お前は?」
「……クロス」
「クロスかぁいい名前だ。 飯を食わせて貰ったお礼だ。 お前に魔法の剣を教えてやるよ! 六年間面倒見てやるよ」
「えっ! いいの? ありがとうマクロウ。 すごい!」
「おうそうだぜ! ああそれとこれからは俺の事は先生と呼びな!」
「わ、分かりました! 先生!」
クロスに先生と呼ばせて六年間修行に明け暮れた。
正直な所騎士団に見つかるのは時間の問題だったが自身が言った通りクロスが十三歳になるまでの六年間修行に付き合えて本当によかったと思う。
そしてその日はやって来た。
「元二級冒険者のマクロウだな?」
「そうだよ」
六名ぐらいの騎士達に囲まれてマクロウは岩の上で胡座を掻いていた。
「……剣を抜かないのか?」
「抜く必要がねぇよ」
そう言ってマクロウは自身の剣を騎士団の方へ投げた。
「捕まえろよ」
笑みを浮かべてマクロウは満足した。
もう既にマクロウがクロスに教える事は何もない。
これから冒険者になる時に必要な事は全て教えたし、自身の願いも伝えた。
「確保しろ!」
騎士のリーダーがそう言うとマクロウを掴んで地面に叩きつけた。
「ぐっ!」
「大人しくしろ! 人斬りマクロウ!」
「……えっ? 先生」
すると声がして目が合った。
出来れば来て欲しくなかったと内心マクロウは涙を流した。
目の前にはクロスがおり、目が合った。
「お、おい! や、やめてくれよ! その人はオレの先生なんだ! 先生を連れて行かないでくれ!」
クロスは情けなくも涙を流しながら騎士団に懇願した。
「……お前マクロウを匿っていたのか? ならばお前も同罪だ捕まえるぞ!」
「うっ」
騎士の圧にクロスは怖気づいて尻餅をついた。
「おい騎士様そいつは頭がおかしいんだ。 俺は先生でもなんでもねぇよ ただそいつを気まぐれで助けたら先生って呼んでるクソガキだ」
「……えっ?」
マクロウが嘲笑の笑みを浮かべてクロスを見下した。
「そうなのか? マクロウ?」
「ああそうだ。 そのガキはただ俺に騙されていたんだよ。 その内俺が殺そうとしているなんて気が付かずにな!」
そう言ってマクロウは満面の笑みでクロスを罵倒した。
「おいガキ! 俺はお前の事を都合のいい隠れ蓑にしか思ってなかったぜ!」
「えっ? せ、先生嘘ですよね! せ、先生が人殺しなんて!」
「はっ! これだからお人好しは困るぜ。 いずれ俺は村攫いの連中と連んでこの村を壊滅させる予定だったんだよ。 馬鹿だなお前!」
「もうお前達が協力関係にない事はもう分かった。 だからもうその口を閉じろ! マクロウ!」
「へ! お前のようなクソガキと別れられて俺は清々するぜ!」
そう言いながらマクロウは騎士団に連行された。
「……せ、先生」
クロスはマクロウの隠れた優しさに気づかずにそのまま放心状態でマクロウの背中を見つめていた。
後日マクロウが処刑された新聞が出た。
それを読んだクロスは一週間高熱を出して生死を彷徨ったある日手紙が届いた。
先生であるマクロウからだった。
その手紙にはただごめんと一言だけ書いてあり、クロスは泣いた。