事件終幕
「チッ、とっとと売り払いてぇな」
男が二階の部屋で椅子に座っていた。
「おい! ヤベェよ! この屋敷に放火した馬鹿がいやがる!」
男の仲間が急いでやって来て報告をして来た。
「なんだと?」
男は眉を上げて不機嫌になり、椅子から立ち上がりそのまま男を連れて一階へと降りて行った。
「あっちあちちぃあっちゃぁ!?」
クロスは燃え広がる屋敷をレクラニアと共に走っていた。
「……誰かが魔法で火をつけた」
「えっ!? それって誰だよ!?」
「……あなたのお姉さんとか?」
「ありえる! めちゃくちゃありえると思いまーす!!」
レクラニアの推察に全力でクロスは乗った。
リニスの短期で猪突猛進気味な性格から絶対に放火の一つや二つはするだろうとは思う。
そう思いながら走っていると目の前に剣を抜刀した男達がいた。
「チッ! ガキどもが逃げてるじゃねぇか! 痛めつけてやれ!」
「「「うぉーー!!」」」
「……邪魔」
「えっ?」
レクラニアが男達の首にナイフを滑らせてその命を容易く奪った。
「……お前今、こ、殺して!?」
クロスは生まれて初めて見る殺しの瞬間。
それを見て絶句した。
「こいつらは子供を売って喜ぶようなクズだよ? 殺していい」
「で、でも! か、改心とかするかもしれないじゃねぇーか!」
クロスは元々日本に生まれた猫だ。
猫同士に殺し合いはなく純粋なじゃれあいや発情期によるケンカぐらいしか知らない後は田舎のヤンキー達による殴り合いしかクロスは知らない。
その中に殺しという選択をクロス自身は持っていなかった。
「……君は幸せだったんだね。 羨ましい。 私は仕事が終わったからここで消えるね。 じゃあね?」
「ま、待って!」
するとレクラニアは消えた。
「おい待てよレクラニア! レクラニア!!」
突然レクラニアが消えてしまいクロスは戸惑った。
すると懐かしい声がした。
「クロス! 何をしているの!」
「あっ、クロスだ!」
「り、リニス! ライド! よかった! みんな無事だったんだな!?」
クロスは姉の兄の無事に喜びの声を上げた。
「無事だったんだな! じゃないわよ! この馬鹿! あんたも捕まったのね! はやくここから脱出しましょう!」
「イッテェ! 殴る事ないだろ!」
だがそんな感動はリニスのゲンコツで霧散してしまった。
「ケンカしている場合じゃないよ! はやく逃げなきゃ!」
「みんな行くわよ!」
「「「おう!」」」
リニスの先導でクロス達は燃える屋敷を脱出し、そのまま村に帰って父のラードと母のサリシャに怒られたのは言うまでもない。
「く、くそッ! 俺の屋敷が!」
村攫いのリーダーは焼け落ちた屋敷を見ながら怒りを爆発させた。
せっかくお金を払って自身の土地として買ったのはいいのだがまさか燃やされるとは思っていなかった。
「くそっ! はやく金を集めないといけねぇのによ!」
「……何を言っているのですか? あなたは? ここで死ぬ運命です」
「誰だオメェ?」
フードを被っていて顔がわからなかったが子供だと分かった。
丁度よかった。
はやくお金が欲しかった男は目の前の子供を痛めつけて売ってやると決意して剣を抜いた。
「ちょうどいいぜ! テメェを売って! あれ?」
男の体が真っ二つに斬られて死んだ。
その事実に男は認識することはなかった。
「……さてここら辺にいる村攫いの人達は殺しましたね」
「レクラニア。 大丈夫?」
「……ミーテ」
レクラニアが背後を振り返ると赤い髪とオレンジの瞳が目立つ十二歳くらいの少女が立っていた。
彼女の名前はミーテ・ドラノス。
竜を操る一族の血を継いだ女性であり、レクラニアが所属するクランギルドの一員の一人でレクラニアの仕事の相棒だ。
「ごめんねレクラニア。 私達青の旗人の仕事を押し付けて。 これでここ一帯の村攫いは壊滅出来たね?」
「……別にクランギルド青の旗人の利益になるんだったら私はなんだってするよ」
レクラニアはそう言いながらミーテが乗って来た竜に跨った。
「あれ? それビスケット? ちょうだい!」
「ダメ。 あげない」
「レクラニアのケチ!」
こうして村攫いの事件は終わった。
小さな死神によって解決したのである。
だが世界はそれを知らない。