継承の魔剣
「おい今テメェなんつった? あっ? 入団ダァ? ひょろっちぃガキが入団なんで出来るかよ! このギルドランクSの青の旅旗によぉ!」
すると茶髪で緑の瞳をしたヤンキーのような見た目の男がクロスの胸ぐらを掴んできた。
「……オレはどうしたらこのギルドクランに入団出来る?」
クロスは内心驚いたが冷静を保って男の目を見る。
「う、なんだよお前こ、怖くねぇのかよ! 俺が!」
「……別に?」
「はっ? 別に? 別にだと!? 三級冒険者であるこのザシュウ様が弱いってか!?」
「……ここで怖気付いて逃げたらあなたはオレを笑い物にするでしょう?」
「っ!?」
クロスの堂々とした物言いにザシュウはたじろいだ。
「はっは。 ものすごい子が来たようだね」
すると背後から声が聞こえてきて振り返ると水色の髪に同じく水色の瞳をした男が立っていた。
「こんにちは。 僕の名前はロイグ。 この青の旅旗の団長だ」
「……団長」
「ちなみに一級冒険者だよ」
そう言いながらロイグはクロスの頬笑みを向けて来るのと同時に剣を抜いてそのままクロスに襲いかかってきた。
「っ!?」
クロスはそのまま剣を抜いてロイグの剣を弾き返すとロイグは涼し顔で剣を帯刀した。
「はぁ……はぁ」
クロスは全身に汗を掻きながらロイグを見た。
「……強いね君? 二級くらいの強さあるんじゃない?」
「ざっけんな。 殺す気かテメェ!?」
「おい、あいついきなり剣抜いて団長にキレてるぞ?」
「あいつ終わったな」
「あっ、えっ? い、今のま、まじか?」
クロスが辺りを見てみると他の冒険者はクロスを見て怪訝な顔をしているがクロスに突っかかっていたザシュウは全身から汗をかいて手を震わせていた。
「……君、合格だ」
「は、はぁ!? お、オレが合格ってどういう事だよ!?」
「よく受けたね僕の剣を」
「おい! 待てよ! い、いきなりすぎて分かんねぇよ!」
「君は合格だ。 ただそれだけだよ」
クロスはロイグに肩を叩かれて囁かれた言葉の意味が分からずにロイグに声をかけたがクロスには何を言われているのか分からなかった。
「やったねクロス! 合格だって! しかも団長の頬に剣を入れるなんてすごいよ!」
「えっ? 本当に?」
「えっ? 覚えてないの?」
「……殺気を感じてそのまま剣を弾いただけなんだが」
「それでもすごい! すごいよ! これからよろしくねクロス!」
「あ、あぁ」
その日クロスは入団した事も合格した事も自覚がないまま青の旅旗に入団する事が決まった。
「部屋は共同になるからね。 ルームメイトと仲良くしたまえ!」
そうロイグに言われてクロスが部屋に入るとザシュウがいた。
「な、なんでテメェがここにいんだよ!」
「えっ? き、今日からここを使えって言われたんだが?」
「ちっ! あのクソ団長が!」
ザシュウは舌打ちしながらクロスを見てくる。
「俺の邪魔したらぶっ殺すからな。 お前」
「は、はぁ?」
クロスはザシュウの態度に違和感を覚えながらそのままベットで眠った。
「ちっ、バケモンが」
クロスが眠った後にザシュウはクロスの寝顔を見ていた。
「……こいつの冒険者カードはどこだ?」
そう言いながらザシュウは勝手にクロスのバックを漁った。
バックの中からは白い杖と冒険者カードしか入っておらず驚いた。
「……なっ! 五級?」
ザシュウはクロスの冒険者カードをみると五級と書かれていて驚いた。
「あ、ありえねぇ! ご、五級ごときが一級の剣技を見切れる訳がねぇ!」
ザシュウはクロスの不正を疑った。
「そ、そうだ! 剣だ! こいつの剣に何か細工がしてある筈だ!」
そう言ってザシュウがクロスのベットの柱に立て掛けていた剣を手に取った時だった。
「えっ?」
いつの間にか森の中にいて驚いた。
「あっ? クロス以外の奴がこれ触っちまったかぁ。 まぁいいやお前俺の遊びに付き合えよ」
「……はっ? 誰だお前?」
「マクロウ。 元二級冒険者」
ザシュウの目の前には黒い狼の獣人が剣を持ちながら立っていた。
「な、なんだよ! な、なんだよここは!?」
ザシュウは自身の身に起きた事が分からずに発狂した。
「はぁ。 お前継承の魔剣に触ったんだよ」
「ま、魔剣だと?」
魔剣とはこの世に百本ある不思議な剣の事だ。
使う持ち主を選び、たとえ手から離れても持ち主が死ぬまで絶対に離れない剣であり、もし魔剣が欲しい場合魔剣の持ち主を殺すか魔剣の持ち主に選ばれるかによってでしか魔剣の持ち主にはなれないのだ。
「て、テメェ前の魔剣の持ち主か?」
「ああそうだよ。 この継承の魔剣の力のせいで魂の残留していてね」
「……ふ、なんだよ化け物じゃねぇのかビビらせやがって! このままぶっ殺してやるよ!」
「遅い」
「うっ!」
ザシュウはマクロウの顔面に拳を入れようとしたが鳩尾を殴られてそのまま地面に倒れた。
「ま、まだまだ!」
だがザシュウは立ち上がり何度もマクロウの体に拳を入れようとしたが全く当たらなかった。
「はぁぜぇ……はぁつ、強えなぁな、なんだよお前!」
ザシュウは尻餅をつきながらマクロウを見上げた。
「俺はクロスの先生だ。 冒険者のな。 あの子が七歳の時から六年間相手してやった」
「ろ、六年!? そ、そんな時間お前と戦っていたのかよ!? あのガキは!? ば、バカじゃねぇのか? お前相手に戦うなんてイカれてやがる!」
「……そうだね。 あいつには俺しかいなかったからな。 でもこれで分かっただろう? クロスは不正なんかやってないって」
「む、無理だ。 お、俺には無理だろ、六年もお前の相手をしてこんな無力感を抱えながら修行するなんて無理だ!」
ザシュウはマクロウとの実力差を悟って絶望してしまった。
「……残念だな。 お前はこの剣を触った時点でこの空間の中クロスが行った修行六年間分の経験をその身に刻んで貰う」
「い、嫌だ! いやだぁぁぁぁぁ!! こ、こんな所で鍛錬なんてしたくねぇ!」
「すまない。 そういう魔剣なんだこの継承の魔剣は」
継承の魔剣は文字通り継承する魔剣である。
前の持ち主の経験、知識、技量を完全に自身のものとする魔剣だ。
もしも継承の魔剣の持ち主が死んでおらず、この魔剣が欲しいもしくは魔剣保持者の強さを疑いこの魔剣に触れた場合現在の魔剣保持者が行った鍛錬が触った人間に課せられる地獄のような魔剣であった。
「い、嫌だ! 出たいこの空間から出たい!」
「無理だ。 修行せねば出られない」
「そ、そんなぁ!」
その後ザシュウは二年間マクロウと鬼ごっこをし、ザシュウには魔力がないものの瞑想を二年間して精神を鍛え、一年間ずっとマクロウと戦った。
「はぁはぁ」
「おめでとう六年間の経験をしてみたけどどうかな? ザシュウ?」
「すみませんでしたマクロウさん。 クロスの事を疑ってしまい今までの自分が恥ずかしいです」
「うんいいよ。 今の君ならクロスを任せられる」
「ありがとうございます」
ザシュウは六年間の鍛錬で変わってしまった。
粗野なチンピラから礼節を重んじる戦士へと。
こうしてザシュウは継承の魔剣の悪夢から目を覚ました。