祝杯
「せきこくのおおかみ?」
「ちょっと怖そうね」
「そうか? 夜出歩いても狼が見張っているぞ! みたい感じ出したくて考えたんだけど?」
「まぁいいじゃねぇか! 今日から俺達は赤黒の狼だ!」
こうして仮のパーティ赤黒の狼は道中で魔獣を倒しながらセントラルに辿り着いた。
「……すげぇ」
クロスは驚いていた。
様々な人達が街を歩いており、大きな建物があちこちに並んでいた。
「ふっふ! どうだクロスここが冒険者達の街セントラルだ!」
「なんであんたがドヤ顔になってんのよ」
ゼグの自慢話にリターナがツッコミを入れる。
「さぁクロス! 冒険者登録してこいよ! 俺達はお前の持ったドロップアイテムを課金してやっから!」
そう言ってゼグがクロスの背中をバシバシと叩いてくる。
「あ、あぁ行ってくるよゼグ!」
クロスはセントラルに着いた興奮を隠せずに冒険者ギルドの門を潜った。
「す、すみません! ぼ、冒険者登録をしたいんですけど!」
「はい。 冒険者登録ですね? 分かりました。 この書類にサインをお願いします」
すると名前、年齢、職業、と書かれた紙が渡されてクロスはそれにサインをした。
「クロスさんですね? それではこちら五級のネームカードです」
「おぉ!」
「あ、まだお渡し出来ませんからね? こちらのカードに血を垂らしてください。 後この水晶玉にも」
「わ、分かりました!」
クロスは言われたままナイフを指先に滑らせてそのままカードと水晶の上に垂らした。
すると水晶は何も変わらなかったがカードの方にはクロスの顔が浮かび上がったのだ。
「す、すげ!」
「ふふ、では良い冒険者ライフを送って下さいね!」
受付嬢に見送られてクロスはそのままギルド本部を出た。
「さてとオレはゼグ達と合流をっと?」
するとクロスの目の前に武装をした集団が現れた。
「なぁお前。 俺達のパーティに入らねぇか?」
強面の男がクロスを勧誘して来た。
「……悪いですがオレには一緒に組みたい人達がいるのでパスします」
「あんだとぉ! テメェ! ジャーグさんの勧誘蹴るのか!」
「よせよ。 ハメダ。 こいつ二級の俺を見てもビビリもしねぇ。 面白い男だが気が変わった。 お前は俺の下に入れちゃなんねぇ男だった見てぇだ」
「なんだよそれ?」
「ふっ、勝手な自己満だ。 ほらいけよ新入り」
「……分かったよ」
そう言ってクロスはジャーグの生暖かい目を見ながらゼグ達と合流すべくそのまま走り出した。
「……本当にいいんすかジャーグさん。 マクロウの兄貴との約束でしょう? セントラル来たらあいつの面倒見るって」
「馬鹿言えよ。 ハメダ。 クロスの野郎は俺の下になんかいるよりも若い奴らと青春してる方がいいんだよ」
「そうなんすかね?」
「そうだよ」
そんな穏やかな会話をしながらジャーグはクロスの背中を見つめていた。
「……しかしなんなんだ今の?」
「おーい! クロス! 登録終わったか?」
「あ、あぁ終わったよ」
「じゃあパーティ登録しに行きましょう! その後は果実水で乾杯よ!」
「お、おう!」
こうしてクロスはゼグ、リターナの三人で赤黒の狼を結成し、打ち上げをする事にした。
「それじゃあ赤黒の狼の結成を祝って乾杯!」
「か、乾杯!」
クロスはリターナのテンションの高さについていけずに困惑した。
「何どうしたのよクロス! 遠慮する事ないじゃない!」
「そうだぞ! 今日は俺らのパーティの出発記念だ! どんどん食べて! どんどん飲もう!」
「……すごい祝杯慣れしてるだな?」
「そりゃそうよ! 二年間もいればあなたも慣れるわよ!」
「……えぇ?」
クロスは知らない事だがゼグとリターナはお酒を飲んでいる訳ではない。
純粋に居酒屋の空気に呑まれて酔っ払いのようなテンションになっているだけなのである、
「……しっかしこれからどうするんだよ。 どんなクエスト受けるんだ?」
「とりあえずコツコツと攻略してお金と仲間を集める! それが方針でいいんじゃない!」
そう言いながらリターナが笑う。
「そ、それとリーダーなんだがぜ、ゼグがやってみたらいいんじゃないかってオレは思ってる」
「お、オレ?」
するとゼグは自分を指差して困惑した。
「り、理由は?」
「む、ムードメーカーだし、元気があってとてもいいと思ってる」
クロスがそう言うとゼグは大きく頷いて胸を叩いた。
「そうだよな! 俺はクロスのお兄ちゃんなんだもんな!」
「て、ていうか! お、オレ兄と姉が冒険者が、学院に通っているんだけど!」
「なんだよそれ聞かせろよ!」
「えっ? アタシも聞きたい!」
「か、勘弁してくれよ!」
クロスはゼグとリターナの酔っ払いのテンションについていけずに大変だったが生まれて初めての祝杯はとても楽しいと心から思えた。