二人の御姫様
魔王城は広い。それも、生半可ではない。
広大な敷地面積を誇り、その上に立つ全体的に古風な作りになっている城も、外観こそ古城を思わせるが内部――つまり各個室や施設は最新の快適な設備がキチンと整っている。
そしてそれだけではない。城内の居住区画はまるで街の様に発展しているのだ。広い運動場や侍従隊の商業部が経営する様々な娯楽施設も数多く点在する。これは――魔王城は、一種の『城塞都市』と言っても過言ではないだろう。
ちなみに、魔王城が外見的に古風なのは魔王のイメージを崩さない為である――と設計立案者(濃紺の髪の女)は語っている。
まぁ魔王が住むと言われる城が近代的な都市だったらイメージ丸崩れだしね。なんかこう、知的というか、ずる賢そうだしね。権力とか人脈とかを活用するタイプの人が住んでそう。マフィアのボスとか。これはさすがに偏見か?
そして真に残念ながら、魔王ことオレはそこまで頭が良くないです。低知能です。馬鹿なんです。
悔しくないですよ?
自負してるんですよ?
本当ですよ?
ともあれ。
魔王城は、魔王が居座る宮殿部を中心に都市の様に発展していく――所謂、城下町構造となっている。
そして。
その城には。魔王が住むと言われるその城には。
二人の「御姫様」が捕えられていると言われている。
そんなお伽噺の様な、出鱈目な、夢物語の様な噂が。伝説が。風説が。ニンゲンたちの間では囁かれていたりする。
真偽など関係無く、全てのニンゲンがにわかに、もしかしたらと信じているその噂が……。
――そしてその噂の所為で、魔王城には度々《勇者》がやってくる。
もちろんトラップやら何やらで魔王に会うまえに強制送還してはいるのだけれど、たまにそれを全て乗り越えてくる屈強な、普通のニンゲンよりも少しレベルの違うニンゲンが――《勇者》がやってくる。
まぁ結局魔王には敵わないのだけれど。
とにかく。
その誰もが薄らと信じている「噂」は、――――実は半分嘘なのである。
何故半分なのか。
何故そんな中途半端なのか。
それは――――――。
◇ ◆ ◇
朝だ。東から昇る朝日が眩しい。
最近、魔王城の警備レベルは限りなく低く設定されている。ちょっと前は中庭の広域規模の魔法陣によってこの島一体を霧で覆っていたのだけれど、ここの所霧を張る事はなかった。そしてこれからも当分張る事はないだろう。
なので当然、魔王の部屋にも朝日が差し込んでいた。
カーテンで閉め切っているものの、日光はそれらを無視し問答無用に差しこんでくる。
カーテンによっていくらか眩しさが緩和された光が、魔王の部屋を照らしだしていた。
そして何より、目覚まし時計のベルの音が響き渡っていた。
「うぅ、……」
うっすらと覚醒する。目がしばしばし、瞼が非常に重かった。視界がぼやけている。
「…………」
魔王こと黒宮秀兎は勢い良く目覚まし時計のスイッチを叩きベルを止め、布団を被る。
眠いのだ。
非常に眠いのだ。
眠いものは眠いのだ。
このオレを誰だと思っていやがる。悪魔だぞ?神すらも殺してしまう悪魔だぞ?眠くない筈がないじゃないか!……なーんて全く的外れも良い所な発言をする元気すらないわけで。
「ぅ、ぅぅ、ぅぅう……」
とにかく、眠い。
どれくらい眠いかと言うと、もう津波とか火山噴火とか大地震とか隕石衝突とか超規模の自然災害が起こっても「はいはい凄いねー」で済ませて「お休みなさいー」できるくらいに眠い。
「…………」
だから寝る。もう全部シカト。無視無視。
語り部?物語進行?なにそれおいしいの?はいはい凄いねー。ほいじゃお休みー……。
………。
……。
…。
「…………」
お腹、すいたな……。
◇ ◆ ◇
「…………」
最悪の目覚めだった。
秀兎は食堂へ入る為の扉の前に立ち止まっている。
目ざましに叩き起こされ、二度寝につこうにもお腹が減って寝れないとかね。
マジ最悪。
「…………」
ゆっくりと扉を開くと、焼きたてのパンの良い匂いがした。
良い匂いだ。食欲が湧く。
食堂には、既に人がいた。
…………。
「……おはよう、ヒナ、ルシア」
ゆっくりと歩くオレに二人は笑いながら声をかけてくる。
「おはよう秀兎さん」
「おはよう秀兎」
その二人は声をぴたりと合わせて、そう言った。
笑い方も、声のトーンも、何もかも合わせて。
――ヒナ。ヒナ・ラヴデルト・ライトキス。
光を反射する、まるで本当に金で出来ている様な、艶やかで濃い金髪。
細い、しなやかな肢体に、美しい肌。
慈悲に満ちた、丸く優しげな目付き。蒼海を湛えた瞳、長い、金の睫毛。
可愛らしい様で、それでいて大人びた、不思議な容貌。
まるで、伝説に現れる聖女のような、少女。
――ルシア。ルシア・クワイエットアンデッド・ダークキス。
光を反射する、まるで本当に銀で出来ている様な、艶やかで濃い銀髪。
細い、しなやかな肢体に、美しい肌。
悪戯っぽい、吊り気味の妖しげな目付き。鮮血を湛えた瞳、長い、銀の睫毛。
可愛らしい様で、それでいて大人びた、不思議な容貌。
まるで、伝説に現れる魔女のような、少女。
何もかもが対極な二人。
彼女たちこそが、魔王城に囚われていると言われる、二人の御姫様。
彼女たちこそが、勇者たちを魅了する、絶世の美姫。
彼女たちこそが……、
「……おはよう、オレの大好きな御姫様たち」
恐るべき、慄くべき魔王の、妻たちである。
◇ ◆ ◇
――つまりは、そういう事である。
人間たちの噂する「魔王城ノ御姫様」説が半分ほど嘘なのか。
それは彼女たちが魔王を「愛」しているからだ。
囚われているわけではなく。
自ら望んで、そこにいる。
だからあの噂は――、半分嘘。
御姫様がいるのは本当。
囚われているのは嘘。
そんな噂が、出回っている。
だからこれは――。
そんな風に噂される魔王城の物語。
魔王城で、悪魔が、全てを欲しがる強欲な悪魔が、笑う物語。
これはそんな、物語。
うーん、もっと会話を盛り込みたかった……。
だけどこの段階で会話盛り込んじゃうと、二人のターンのバランス崩れちゃうかもなんで、一応これで。
さーあ次からギャグパートだー。ギャグセンスないですけどよかったら批評してくださいな、もちろん感想だって受付中です。




