プロローグ。
初めましての方、初めまして。御久し振りの方、御久し振りです。
後日譚です。談ではありません。譚なのです。
えー、まだ引っ張るのかよーと思った久しぶりの方、安心してください、引っ張ります。
初めましての方、安心してください。前日譚を読まなくても、面白くしたい一心で頑張りますから。
――世界の何処かに、彼の城がある。
多重に結界を張り、霧の魔法で目を暗まし、そうしてまで外界との関係を絶った場所。
城には何人もの使用人が使役され、屈強の騎士が仕えている。
その名を、《魔王城》という。
難攻不落の絶対城塞。
決して辿り着けぬと謳われた、暗黒の宮殿。
そこには、悪の権化、最悪の邪神、憎悪怨恨の対象にして負の象徴とまで言われる化物が君臨していた。
――魔王である。
世界に、災厄と、呪いと、死と、絶望を振り撒く存在。
彼の名は、『黒宮秀兎』。
黒髪金瞳。神が世界で最も恐れ、幾度となく殺そうとした存在。世界の禁忌。決して触れてはならぬ、最悪にして最凶、強大にして凶悪な悪魔。全てを統べる王。
それが魔王、黒宮秀兎だ。
彼は今日も世界を見る。まどろんだ瞳で、酷く億劫そうに、世界を見ている。
そして言うのだ。
彼は言う。まるで世界を滅ぼしてしまうような呪文を唱える様に、言うのだ。
「……はぁ、メンドクセェ…………」
……………………。
「もうヤダナぁ、逃げ出したいなぁ、どっかで安穏とヒキコモリたいなぁ」
彼の瞳には、勇敢な勇者とその御一行が自分に武器を向けている光景が映っている。今にも飛び掛かりそうな気迫で、自身を睨んでいる光景が、映っているはずなのだ。
こちらを、睨んでいる。
しかし魔王はそれを全て無視して喋る。まるで友人に語りかける様に、喋る。
「俺争い事とか嫌いなんだよねぇ。世界崩壊?世界征服?はっ!くだらねー。どぉでもいいよそんなもん」
そんな魔王の語りかけは虚しく独白に終わってしまう。勇者はそれに返事もせず、勇ましく叫ぶ。
「魔王よ!お前がそこでのうのうと生きていられるのも今日までだ!」
そして彼は、ミスリル製の剣を構えて、
「覚悟!」
と飛び出す。それはまるでニンゲンのスピードではなかった。恐らく武具に身体能力を強化する魔術が施されているのだろう。物凄い勢いで、魔王に剣が迫る。
しかし魔王は――何もしない。
特にする事も無いから、何もしない。
ただため息を吐いて、言うのだ。
「はぁあ、超メンドクセェ……」
これは、そんな面倒臭がりな彼の物語。
御久し振りです。そんなに御久し振りでもないですけど。
まぁ、後日譚と言う事です。はい。
結局彼、約束破ったので、終わりません。……しつこいなんて言わないで!
ともあれ楽しんでいただけたら幸いです。
ファンタジックアクションラブコメディです。はい。