機動菊池 KIKUCHI ~キクチの中にはKIKUCHIがいっぱい~ 【ちょっと加筆しました】
コロン様主催、『菊池祭り』参加作品です。
小惑星が接客中……
↓
小惑星が接近中……、に訂正
ひょっとしてここが1番の笑いどころだったのだろうか?
ちょっと加筆しました。
兵器が人型である必然性があるのか?
軍事評論家の問には説得力がある。
確かに翼とスラスターがあれば飛べる。
ビームを撃つのにいちいち機械の指でトリガーを引く意味は無い。
マニュピレータを握り締め敵をぶん殴るくらいより、ミサイルだのマシンガンの方が効率が良い。
二足より四足のが安定する。脚は多ければ多いほど良し。なんならタイヤやキャタピラの方が……むしろ良い。
コストだって戦闘機や戦車のが安い。人型にこだわらなければ戦闘ロボットは安くあがる。操縦だってAIに任せてしまえば良いのだ。
人型兵器など創作物の中で十分。
だが。
菊池兵器なら話は変わる。
菊池兵器は人型でなければならぬ。いや、菊地型でなければ。そうでなければ不敬だ。菊池と冠するのだ。菊池以外あり得ぬ。
菊池が戦闘機であればどうか。確かに戦闘機は速い。音速の壁を悠々と越える。だが手足が、頭が無ければ菊池では無い。そもそもだ、菊池が音速に届かないと誰が決めた?物理法則?くだらぬ。そんなものは菊池に従うために存在する概念だ。菊池のコクピットで『菊池に従え』と怒鳴り付けてやれば良い。従わぬ物理法則こそが不敬である。
菊池が戦車であればどうか。確かに戦車の火力は高い。長い砲身から放たれる弾丸はあらゆる物を打ち砕く。だが手足が、頭がなければ菊池では無い。そもそもだ、菊池の火力が弾丸に及ばないと誰が決めた?破壊力?くだらぬ。そんなものは菊池にひれ伏すために存在する概念だ。菊池のコクピットで『菊池にひれ伏せ』とがなり付けてやれば良い。ひれ伏さぬ破壊力こそが不敬である。
菊池が船舶であればどうか。……論外だ。確かに『菊池』とか『KIKUCHI』とか名付けられた船舶は多い。舐めるなと言いたい。小一時間問い詰めたい。姿形が菊池でないのに、『菊池』と名付けられたくらいで『菊池』と名乗るな!不敬である。
さて、我輩ーー菊池 菊池が拝領した菊池兵器は、いかにもオーソドックスで菊池らしい菊池兵器であった。
……これではイヤミに聞こえるな。訂正する。
我輩が拝領した菊池兵器は、伝統的で菊池色の強い菊池の中の菊池を体現したような菊池兵器であった。
……くっ、語彙が足りぬ。
読者に喜びを伝えるには幼稚な表現をせねばならぬな。現在小躍り継続3時間である。
おっと、出撃の時間だ。
現在この星は、菊池を僭称する賊に包囲されている。戦術の不備を突かれたのだ。
菊池にもミスはある。菊池の誰もが菊池たらんと完全無欠を目指しているが、しょせんは人。『人』という概念の前に、確かに『菊池』が前に来るのだが、尊い菊池と言えども生物学的には『人』だ。仕方ない。
ミスは挽回すれば良い。
そのための我輩。そのための菊池。そのための菊池兵器だ。そして我輩は、菊池に乗る家系の末裔で、菊池の名を与えられた『菊池 菊池』である。
この星に生きる同胞よ、この菊池が護ってみせようぞ!
《菊池三等兵ッッッッッ!いつまで小躍りしてんだ!さっさと出撃しろッッッッッ!》
「すっ、すみませ~ん」
《ちょっとばかり菊池兵器を菊池れるくらいでデカイ顔してんじゃねえ!お前一人で菊池ってると思うな!》
「今行きま~す!」
二等兵殿が菊池るのも無理は無い。彼は軍人だが菊池では無い。菊池に乗れても軍人でしか無い。どんなにあがいても菊池無双は果たせないのだ。歯がゆさが彼を菊池らせた。
我輩は自分が恥ずかしくなった。
誓おう。二等兵殿の分も戦う。気高き菊池によってあの宇宙に菊池を描いてみせよう。
良し。我輩の菊池は万全だ。コクピットも快適。オールグリーン。
「惑星菊池、第13菊池師団所属、菊池三等兵、行きま~す」
うつ伏せの菊池がマスドライバーで大気圏外に放たれる。
成層圏はすでに『自称菊池』だらけだ。
空から光。『貴様だけが菊池と思うな』と言わんばかりにビームが降り注ぐ。だが当たらぬ。
この世のあらゆる概念の上に菊池が立つのだ。当たりなど。
ドカーン!
気のせいだ。我輩の菊池は見事成層圏にたどり着いた。
……たかがメインカメラッッッッッ!気のせいの範疇ッッッッッ!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
菊池の豪腕で周囲の賊を叩き潰す。
マシンガン?バルカン?ミサイル?レールガン?ビーム?なんちゃら粒子砲?
菊池の拳に勝る物など。
ドガガガガガガーン!
……損傷した腕で殴れば良いッッッッッ!むしろ菊池臭が増すッッッッッ!
その必要も無いな。あれほどいた『自www称www菊www池wwwwwwww』はもはや影も無し。
ちょっとやり過ぎたか。首謀者捕まえろって二等兵殿に胸ぐら掴まれたんだよなぁ。
アラートが鳴った。
バカな。
惑星菊池の0.4%の質量を持つ小惑星が接近中だと……
菊池として止めねばならん。
なっ。燃料とエネルギーが……無い。
まだだ。
我輩には菊池がある。あらゆる概念の上に立つ菊池がある。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」
レバーを前に倒し、ペダルを踏む。燃料?エネルギー?我輩は菊池で、我輩が駆るのは菊池兵器ッッッッッ!従えッッッッッ物理法則ッッッッッ!
「きくちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
菊池兵器が……我輩の脳内のイメージ画像で吼えた。そして前進。
小惑星が迫る。ブチ壊すッッッッッ!
壊れた手足?破壊力?我輩は菊池の名をいただき、菊池兵器乗りの家系に生まれた『菊池 菊池』だっ!ひれ伏せッッッッッ!破壊力ッッッッッ!
そこから先は記憶に残っていない。
気付いたときには、作動している全てのカメラは砂嵐を写していた。
手足の感覚は無い。メインハッチの亀裂からは、青く美しい菊池が見える。
「まだだ」
帰らなくては。我輩の帰りを菊池が待っている。
「きくちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
菊池兵器が、我輩の脳内イメージ画像で吼えたッッッッッ!
全ての菊池さんへ、
ごめんなさい。




