ライヴァル出現
いきなり、抱き寄せられた。
ジョルジュの顔が落ちてくる気配がする。
「おじちゃま!」
「ちちうえ!」
叫び声がした。
「ぎゃっ!」
イケメンらしからぬジョルジュの悲鳴。
彼の両足には、それぞれ、二つの肉塊が縋りついていた。
「ホライヨン! それに、ルーワンじゃないか!」
なんと、甥のホライヨンと、俺の愛息ルーワンが、ジョルジュの両足に張り付いていた。
「お前、あっちいけ、ルーウァン!」
「うるちゃい。ほら、ほらイ、ホライ、ばぶ」
「俺の名前を言えねーじゃねえか。やーい、あかちゃん」
「ばぶ。ばぶ」
「おじちゃまはぼくのものだ。ルーウァン、ジャマ」
「ちがう。ちちうえ~」
「あっ、父上、って言った! こいつめーーーーっ!」
「ちちうえ、ちちうえ~!」
「言うな! ちちうえ、言うな!」
「おいこら、ホライヨン。ルーワンを泣かすな」
思わず甥の頭をぽかりと殴った。
なぜかホライヨンがうっとりとした顔になった。
「おじちゃまにぶっていただいた……」
「ちちうえ~。ぼくも~」
「何言ってんだ、お前ら」
ジョルジュの足から二人の幼児をむしり取り、両腕で抱きかかえた。
今日の結婚式に、兄夫婦は出席していない。兄は、急に体調を崩したという。それほどひどい病気でないので、ルーワンは自分たちが預かるという兄嫁の言葉に甘えて、子どもは宮殿に置いてきたはずなのだが……。
「そのガキどもは?」
ようやく両足が自由になったジョルジュが問う。エメドラードとインゲレは隣国同士で、言葉はよく似ているが、やはり幼児の言うことは、家族でなければわからないらしい。
「俺の甥と息子」
「それは失礼仕りました。貴方の甥御さんとご子息で……何ですって! 息子!?」
ジョルジュはぎょっとしたような顔になった。
「いつの間に」
「うん、俺も全く知らなかったがな」
「ちょっと、サハル殿下、それ、迂闊じゃ……ひょっとしてダマされてるんじゃありません?」
「失礼なこと言うな! エルナは貞淑な女性だぞ!」
「エルナというんですか、新婦の女性は。でも、貴方への愛は、いまいちのようですね。尊師と一緒に、真っ先に逃げていかれましたよ」
衛兵たちと乱闘しながら横目でエルナの様子を窺っていたとは、冷静な男だ。
「俺は彼女の安全を何より優先しているからな。普段からそう、言い聞かせている」
「へえ」
疑い深そうな眼差しだ。
「ところで、二人のお子様方は、なにやら貴方への愛を囁いていたようですが」
「当たり前だ。俺は彼らの叔父で、父親だからな」
「そういう愛じゃなく……」
ジョルジュの目が、妖しく瞬いた。
「つまり、この二人は、私のライヴァルというわけですね?」
「は? 言ってる意味がわからねえ」
「ライヴァルの存在は覚悟していました。なにしろ、貴方がインゲレにいらっしゃった頃、エメドラード王から、弟を返せと、ひっきりなしに脅しが来ていましたから」
「脅し?」
「迫撃砲を首都に投下するとか、疫病に感染させた斥候を市中に送り込むとか」
ダレイオの奴、そんな物騒なことを言ってきたのか。こりゃ、インゲレとの同盟が崩れたのは、俺だけのせいじゃなさそうだぞ。
「しかし、まさか、甥や息子までとは、しかも、こんな幼児の身でありながら!」
「うるちゃい、よそ者!」
「ぼくの! ちちうえっ!」
俺の腕の中で、ホライヨンとルーワンが同時に叫んだ。
「うるさいのは、そっちだ! 小賢しいチビ共め!」
ジョルジュが凄んだ。子ども相手に本気を出していやがる。インゲレ人の彼は、とにかく目力が強く、迫力がある。俺の腕の中で、二人の幼児が縮こまるのがわかった。
「おじちゃま……」
「あ……」
生温かいものが、腕から胸へ広がっていく。比喩ではない。ホライヨンの奴、おもらししやがった。
「しようがねえなあ」
「ちちうえ……うっ、うっ、うっ、うぎゃあ~~~!」
そしてルーワンが泣き出した。さすがホライヨンと従兄弟だけあって、密林を揺るがすほどの大音量だった。
「うわっ!」
思わずジョルジュが耳を塞いだ。
二人の子どもを地面に下ろし、俺も彼に倣った。
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