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全力でBのLしたい攻め達とノンケすぎる悪役令息受け  作者: せりもも
Ⅲ ヒーロー大会

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10.優勝者は

 タビサが大きく棍棒を振り上げた。

「天誅!」


 うなりを上げて降って来る棍棒を、ホライヨンは横跳びに飛んで逃げた。棍棒は地面にめり込み、大量の土埃が飛ぶ。埃が治まった跡には、深い穴が穿たれていた。


「母さん、本気ですね」

「私はいつだって本気よ!」


 必殺の一撃を慣れた様子で躱し、ホライヨンは、背中の羽を大きく広げた。

 空に浮かんだタビサが激怒した。


「こらっ! 人前で羽を広げるなって、あんなに言ってるのに」

「なんで? 俺はもうおとなです。母上、ご存知でしたか? この羽は鷲の羽ですって。俺は鷲の王なんです!」

「鳥の王の前に、この国の王なの! 褒美なんて諦めて、サハルを殺しなさい!」

「嫌だ!」

「殺せ!」

「いやです。ご褒美を貰うんだ」

「敵に褒美を貰ってどうする。英雄トーナメントに優勝することで、お前は国民の支持を得ることができる。あとは、悪い王を殺すだけだ」

「違うもん! ご褒美が大事!」

「この、親に逆らうか!」

「ご褒美ご褒美ご褒美!」

「ええい、うるさい!」


 天空で振り下ろされた棍棒を、ホライヨンが両手で掴んで止めた。

「ふふふ。力なら俺の方が上ですよ?」

「ええい、猪口才な!」

 棒を捨て、タビサは剣を取り出す。


 「うわ、ドスが効いてるねえ」

「物凄い親子喧嘩だ……」

 ゴールとケフィルが口を開いて見上げている。

「タビサ妃は、ホライヨンが優勝するって決めつけてるな。いいのか、ケフィル」

「別に構わんよ。ホライヨンに取り入ることができるなら」


「わが真剣、受け止めてみよ!」

 タビサの繰り出した剣を、ホライヨンは危ういところで避けた。茶色の羽毛がひらひらと舞う。


「ふん、躱したか」

羽毛はどんどん増えて、視界を遮る。タビサは目を眇めた。

「どこへ隠れた? 卑怯者め!」

「だって、自分の母親相手に全力で戦うわけにはいかないでしょう?」

「私を相手に手加減だと? 百年早いわ!」

「母さん、あと百年も生きるつもりです?」

「もちろん! もっともっと生きてやる!」

「若い世代の負担もお考えください」

「百年も経てば、お前も年寄りだ!」


 ふわふわした羽毛は、次第に固く形をなし、気が付くと二人の間にはたくさんの猛禽が羽を広げていた。


 「母上は長生きなさるおつもりだ。介護が必要になったら厄介だからな。傷をつけるんじゃないぞ」


 ホライヨンが命じると、猛禽たちはタビサを中心にして取り巻き、大空を旋回し始めた。

 たくさんの鳥の羽が、天空の空気を掻きまわす。空気が動き、風となった。タビサを囲む風は、すぐに突風となり、次第に渦巻状に下へ降りていく。


「手下を使うんじゃないの。自分で戦いなさい!」

 茶色の渦の中心からタビサが叫ぶ。


 ホライヨンが何か答えたが、もはや誰の耳にも届かなかった。鳥たちの渦は、大きな竜巻となって、地上の全てを飲み込もうとしていたからだ。




 宮殿から人影が出て来た。水色の衣装に赤い髪、国王サハルだ。

 後ろには、ルーワンが控えている。足元には、ちょうど鳥籠くらいの箱が置かれていた。箱には布が掛けられている。


「王の詔を発表する。英雄トーナメントの優勝者は、ホライヨンである」


 格別大きな声ではなかったが、ルーワンが宣すると、鳥たちはぴたりとその場で動きを止めた。

 上空の騒ぎは嘘のように静まり、地上に落ちた竜巻も消えた。


「陛下から講評です」


 ルーワンが言うと、サハルが咳払いをした。

 

「ホライヨンの解答は、分かりやすかった。つまり俺にはってことだ。ケフィルのサマリーには図や表がたくさんあって、解読が困難だった。町で遊んでいたゴールは論外だ。ホライヨンは第二試合でも一番にゴールしている。第一試合から第三試合まで、全て公正に行われた。よって、英雄トーナメントの最終的な優勝者は、鷲の王ホライヨンとする」


 どこからか、拍手と歓声が聞こえた。恐らく、中庭のどこかに控えた廷臣たちが必死で、王の判断を称賛しているのだろう。


「優勝者ホライヨン。王の御許へ」


 重々しい楽曲が流れた。国歌だ。

 導かれるようにしてホライヨンは空から舞い降りる。そこには、玉座が設えてあった。


 「ホライヨン、わかっているわね?」

 下に聞こえぬよう小声で、けれどきつくタビサが囁いた。


「武器を貸そうか?」

「魔道具もある」

 空気を伝ってゴールとケフィルの言葉が耳朶に飛び込んできた。

 けれど、母の声同様、彼の耳には、全く入ってこない。


 これが、王の権威というものなのだろうか。空から舞い降りたホライヨンは、導かれるように王の足元にひれ伏した。


 目の前に、王がいた。水色の衣がわずかに割れ、編み上げ靴のつま先が覗いていた。

「勝者ホライヨン。面を上げるがよい」


 言われるまでもなかった。少しずつ目を上げ、編み上げ靴の上を覗こうとする。水色の衣が邪魔だった。そうっと手を伸ばし、衣をかき分け……。


「何しやがる!」


 罵声が降ってきた。

 懐かしい罵声だ。

 思い切って目を上げると、赤い髪の美しい人が目の前にいた。


 次の瞬間、彼は、その人の両脚に縋りついていた。


「貴方だったんですね! 僕の叔父様は!」

「はあ? 人の脚に齧りついて何を言ってる?」


 驚いたサハルが、両足を振り上げようとする。なおも一層強く、ホライヨンは筋骨たくましい足を抱え込んだ。


「思い出しました。あなたです。子どもだった僕を、中洲島の上空へ連れて行ってくれた、あの美しい人は!」

「けっ、どうでもいいことを思い出しやがって。こらっ、放せ! 放せったら!」


 全力でサハルが蹴りつける。


「いいえ、放しません。叔父様は僕の物だ!」


 そこへ、上から、網が落ちて来た。見苦しく王の足に縋りついている鷲の王を、掬い上げる。

 ホライヨンの体が宙に浮いた。


「なんてこと!」

 タモ網(虫取り網)の竿をしっかり掴み、タビサが叫んだ。


「よう、タビサ。相変わらずいい女だな。俺のヨメになれ」

下からサハルの声が飛ぶ。


「あなた、それしか言えないの? 誤魔化さないでよ、サハル。子どもだったこの子に、いったいどんないたずらをしたっていうの?」

「いたずら? するわけないだろ。こんなチンケな鳥に!」

「そう? でもまあ、貴方が、子どもだったホライヨンにいたずらをしようがしまいが、どっちでもいいわ。いずれにしろ貴方は死ぬのだから」


 赤い目が、面白そうに輝いた。

「へえ。なんで?」


「ホライヨンはトーナメントの優勝者。真の勇者だわ。国民も彼の即位を認めるでしょう。貴方は、ホライヨンの手に罹って死ぬしかないのよ」


 網の中で、ホライヨンが激しく暴れ出した。


「いやっ! 叔父様ーーーーーっ!」

「こらっ、暴れるでない! あいつと戦いなさい!」

「嫌です。僕はご褒美が欲しんです!」


 大きな体が暴れるのに耐え切れず、ついに網が破れた。なおも体にまとわりつく網の繊維を吹き飛ばし、ホライヨンが突進してくる。というか、落ちて来た。


「ご褒美下さい、叔父様っ!」


 その時、口を半開きにしていたルーワンが我に返った。


「わかった。君が欲しがっているものをやろう。約束の褒美だ」

「ご褒美? お前からじゃない。叔父様のご褒美だっ!」

「黙れ!」


 ルーワンは屈みこみ、足元の箱に被せた布をどけた。箱の中から、おもむろに何かを取り出す。


「受け取れ!」

力いっぱい、天空めがけて投げた。



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