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全力でBのLしたい攻め達とノンケすぎる悪役令息受け  作者: せりもも
Ⅲ ヒーロー大会

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5.第二試合


 第一ブロック勝者は、筋肉隆々の大男だった。ゴールという名で、怪力が自慢のようだ。

 第二ブロックの勝者は、黒いマントを被った怪しげな風体の男だ。名をケフィルという。

 最後に、第三ブロックの勝者が決定した。最後に残ったロンダを投げ飛ばしたホライヨンだ。



 「次なる試合は勇気を試す試合です」

 三人の前に、どこからともなく審判が現れた。

 声変わり前の高い声と華奢な体つきから、彼が15~16歳くらいの少年だということがわかる。ホライヨンより3つくらい幼い感じだ。


 審判に導かれ、三人は、宮殿の地下に続く階段を下りて行く。

 重いドアを開けると、目の前には、巨大な空間が広がっていた。たくさんの灯りがともされている。

 地下の巨大な空間には、鉄の細い線で仕切られた通路が、縦横無尽に曲がりくねっている。


「迷路にございます」

審判の少年が言った。

「お三方には、それぞれ別の入り口から迷路に入って頂きます。各入り口から出口への迷路の条件は公平に計算されていますので、どうかご安心を。出口へ到達することができれば合格、その所要時間で順位を定めます」

「ふうん。ありふれた勝負だね」

黒マントのケフィルは不満そうだ。


「おい。この通路、狭すぎねえか」

 筋肉男のゴールが指摘する。確かに、迷路の幅は、大の男が一人通るのでさえ、狭すぎるくらいだ。

 審判は答えなかった。

 三人は、各々の入口へ配置された。


 ホライヨンは、さっさと勝負をつけてしまいたかった。ここが地下だというのが、そもそも気に入らない。なんだか上から圧されるようで、胸が苦しい。

 思わず上を見上げると、上から降りて来る曲がり階段から、誰かが見下ろしているのが見えた。手すりに顎を載せるようにして下を覗いている。赤い長い髪が、手すりを越えて、はらりとこぼれた。

 思わずホライヨンは息を飲んだ。


 「審判さん。あの人は……」

言いかけた時だった。

 いきなり辺りが真っ暗になった。一斉に、地下の灯りが消されたのだ。まさに、鼻を摘ままれてもわからない暗さが辺りを覆う。美しい幻は、あっという間に闇の向こうへ溶けてしまった。

 ホライヨンはがっかりし、息苦しさが一気に加速した気がした。


 審判が勝負開始の銅鑼を鳴らした。

「では、みなさん。ご健闘をお祈りいたします」

「暗闇を歩くのが勇気だって? 馬鹿にしてるのか?」

どこかでゴールがせせら笑う。


 ホライヨンは、息を詰めて、暗闇を見据えた。

 彼が暗闇を苦手なのには、理由があった。


 子どもの頃、タビサはお仕置きと称して、しばしばホライヨンを岩と岩の間に閉じ込めた。狭い隙間に押し込められ、入り口は、別の岩で封じられてしまう。そうしておいて、彼女は一人で帰ってしまい、夜になっても迎えに来なかった。

 遠くにオオカミの遠吠えが聞こえ、見上げる空には細い三日月が掛かっているだけ。

 何をやらかしたのかはもう忘れたが、幼い少年にとっては、トラウマ級のお仕置きだった。しかも、一度ではない。


「ここの暗闇は、岩場のお仕置きより、まだ質が悪い。だっていつまで経っても目が慣れない」

ぼそりとホライヨンはつぶやいた。

「お仕置きだって?」

耳聡くケフィルが聞き咎める。

「昔の話だよ」

ホライヨンは虚勢を張った。ケフィルがさらに何か言おうとした時だった。


「あっ!」

ゴールの悲鳴が聞こえた。続いて、ホライヨンの右手に痛みが走った。

「バラ線だ! 棘付きの太い針り金が張ってある!」

 ケフィルが叫んだ。彼の周りだけ、ぼうと明かりが灯っている。

「なんであんたの周りだけ明るいんだ?」

ゴールが文句を言う。

「俺は魔法使いだ。別に、灯り禁止とは言っていなかったからな」


 黒マントのケフィルが右手を高く掲げると、彼の発する明かりが、周囲を照らし出した。

 三人は、絶句した。

 地下の通路は暗いだけではなかった。迷路の通路に沿って、鉄線が張られていた。鉄線には、鋭い棘が生えている。有刺鉄線というやつだ。しかも通路は狭く、くねくねと曲がりくねっている。

 これでは、よほど気をつけて歩かなければ、鉄線に植え付けられた棘に引っ掻かれて、体中、傷だらけになってしまう。


 「おい、ケフィル。俺にも明かりを投げてくれ。幸い、迷路の上は塞がれていない」

ゴールが叫んだ。

「無理だよ」

すかさずケフィルが答える。

「なぜだよ?」

「敵に有利なことをするとでも?」

 高らかな笑い声が聞こえ、辺りは再び、漆黒の闇に包まれた。ケフィルは、一人で先に進んでしまったのだ。


「ち。友達がいのない奴」

 ゴールはぼやく。そもそもケフィルは試合相手で友達ではなかったのでは、ホライヨンは思った。

「なあ。お前も結構がたいがいいよな、どうする?」

迷路のどこかからゴールが問いかける。

「先に進むしかない。勝負なんだから」

ホライヨンは答えた。ゴールが鼻を鳴らす音が聞こえた。

「だが、この暗さだ。通路の幅は、俺の横幅よりほんの少し広いだけ。下手に歩くと、バラ線で皮膚を引っ掻いてしまう。このバラ線はちょっと厄介だぜ。血が止まらない」


 そう言われて、ホライヨンは初めて気がついた。さっき引っ掻いた傷がじくじくする。出血量もかなり多い。

「早く外に出なければ、血が足りなくなってしまうぞ」

ゴールの声には、危機感が滲んでいた。


「先に進むしかない」

 ホライヨンは、遮二無二前へ進み始めた。待ってましたとばかり、鉄線の棘が、腕に触れる。暗闇で平衡感覚が鈍っているから、体がふらつき、棘の餌食になってしまう。


「あっ! 痛っ! イタタ!」

すぐに隣の迷路からも、悲鳴が聞こえる。

 「馬鹿どもが! 力任せに進むな。お前らの立てた地響きで、俺の迷路の有刺鉄線まで揺れるじゃないか。今、棘が(もも)に触れたぞ。せっかく魔法で照らしながら、用心深く歩いていたのに」

 向こうの迷路でケフィルが怒っている。


 ホライヨンは立ち止った。にもかかわらず、下の方の有刺鉄線が震え続け、足首をひっかいて傷を作った。

 ゴールはまだ歩き続けているのだ。

「お前の腿なんぞ知ったことか! ただ前進あるのみ! いてっ!」

 彼の蛮勇に励まされた気がする。ホライヨンは再び、用心深く一歩を踏み出した。

 足がぬるりと滑った。

 血だ。誰かが……恐らくゴールが……先にここを通りかかった時に、傷から落ちた血だろう。


 相変わらず辺りは、真の暗闇だ。鉄線には鋭い棘が生えているから、通常の迷路のように、壁伝いに歩くこともできない。おまけに、少し方向を誤ると、尖った鉄の棘が、容赦なく肌を切り裂く。

 それよりなにより、ホライヨンには、闇が怖い。


 「……母上。ごめんなさい」

思わず声が漏れた。

「もうしません。母上の秘蔵のお菓子を盗んだり、棚の上の肉を盗み食いしたり、そんなことは、絶対しません。夜は暗くなる前に家に帰ります。隣の家に石を投げたり、猫のヒゲを抜いたりもしません。本当です。誓います」


 ぶつぶつ、ぶつぶつとホライヨンはつぶやく。自分でも何を言っているか、自覚がなかった。


「あ、でも、甕の中の果実酒を飲んだのは俺ではありません。あれを飲んだのは、母上ご自身です。酔っ払っていらしたので、覚えていないだけです。それから、服が泥で汚れていたのも、俺のせいではありません。洗濯物を取り込むときに、母上が落としていかれたのです」


 言っているうちに、だんだん腹が立ってきた。自然と、足が速くなる。


「母上は、すぐに俺のせいにしますが、それは誤りです。どちらかというと、母上の失敗の方が多いです。なんでそれを全部、俺のせいにするのですか」


 勘違いから自分を𠮟りつけ、あまつさえ暗い岩場に置き去りにした母への怒りが腹の底から湧いてきた。有刺鉄線がちくりと腕を刺したが、全く気にならなかった。


「一番腹が立つのは、翼を封印されたことです。いくら親でも、それは絶対にやってはいけないことです。あの人も、そうおっしゃいました」


 はっと立ち止まった。

 ……あの人って?

「体の一部を封印して自由を奪ったらいけないと、あの人は確かに……」


 「おい、お前! いつの間にゴールインした!?」

 背後から声が聞こえ、ホライヨンははっと我に返った。

 知らぬうちに、彼は迷路を抜けていた。

 ちょうどゴールが、迷路から出てきたところだった。


「何て勇気だ! 鋭い棘をものともせず、暗い中、迷路を突き進むなんて」

「俺はただ、ずんずん歩いただけだ」

「さしもの俺も怯むほどのイバラの道を、苦痛をものともせずに突き進むとはな!」

 褒められるのには慣れてない。ホライヨンは、ふいと横を向いた。


 意外なことに、最後に出て来たのは、明かりを掲げた魔法使いのケフィルだった。

 彼のゴールンを待っていたかのように、地下全体の灯りがぱっと灯った。


「おい、お前、血だらけじゃないか。痛くなかったのか?」

 眩しさに眼を眇めながらケフィルがホライヨンの全身を見回す。彼の体からは、赤い血が幾条もの筋を作って流れていた。


「いや、腹が立ったから、痛くなかった」

「腹が立った? いや、お前、勇気があるな。あの棘は尋常じゃねえ。ひどく痛むだろう」

 同じく血だらけのゴールが、感心したようにすり寄って来る。

 ケフィルが肩を竦めた。

「そりゃ、脳筋どもには叶わないさ。俺は、考えながら進んだからな。いつ出られるかわからない迷路で、大量の血を流すのは、無謀というものだ。だが、なまじ周囲を見ることができたのが、裏目に出ちまったな」


「皆さん、ご苦労様。全員合格ですね」

 上から声が降ってきた。審判の声だ。


 さっき赤い髪の人が見えた辺りに、審判はいた。彼の頭上の階段を、大股に上っていく足が見える。水色の衣装の間から僅かに踝が覗き、その白さにホライヨンは息を飲んだ。

 すぐにどこかのドアが開き、輝くような踝は、足音を残して外の光の中へ消えて行った。



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