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全力でBのLしたい攻め達とノンケすぎる悪役令息受け  作者: せりもも
Ⅲ ヒーロー大会

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33/42

3.無銭飲食


 首都ルクールは、英雄トーナメントの挑戦者たちで満ち溢れていた。

 砂嵐(ハムシーン)に乗るようにしてやってきた彼らは、ふてぶてしい顔つきの、いかにも強そうな者ばかりだ。


 「おいおい、この菓子が、3ギネニだって?」

屋台の店先で男が凄んでいる。

「9ギネニでございます。お客様は3個、お召し上がりになりましたから」

おずおずと店主が答えると、男はいきり立った。

「たかが食いもんに10ギネニも払えるものか!」

「9ギネニで結構でございます」

「結構とはなんだ。あと1ギネニで10だ。大金だろうが!」

「ですが、あの……」


 困り切った店主の胸倉を男が掴んだ。


「俺はインゲレから来たんだ。今回の英雄大会での優勝者は俺だ。その俺様に、菓子の代金を払えだと?」

「ええと、どなた様にも公平にお支払い頂いておりますです」

「うるさい!」


 男の右手が高く上がり、左手で首元を掴まれたままの店主は、思わず目をつぶった。集まったやじ馬たちも首を竦める。中には泣き出しそうな子どもの姿もあった。


「止めとけ」


 勢いをつけるために振れた手を、後ろから誰かが掴んだ。

 弾みで店主の胸倉をつかんでいた左手が外れた。勢いで倒れかけた店主を、やじ馬たちが支える。


「何をしやがる!」


 叫んで男が振り返った。彼の後ろには、褐色の肌の青年が立っていた。

 ホライヨンだ。彼は、英雄トーナメントに参加する為に、首都ルクールまで来ていた。


「無銭飲食はいけないよ」

涼しい顔でホライヨンが言う。

「なんだと? 俺は無銭飲食などしてない。10ギネニは高すぎると言っただけだ」

「だが、店主を怯えさせていたろう?」

言いながら、相手の手を後ろに引っ張る。

「そんなことはない」

外れそうな肩の痛みに耐えつつ、男は喚いた。

「そうかな」


 体つきは男の方ががっしりしていたが、身長はホライヨンの方が高い。その彼に、後ろからしっかりホールドされ、男は身動きが取れない。


「なあ、みんな。俺は無銭飲食なんかしてないし、店主を虐めてもいないよな」

 野次馬を見渡し、男は同意を求める。

「してないだろ? もし無銭飲食をしてたなんて嘘をついたら、後でどういう目に遭うか……」


 凄む男のあまりの険悪さに、人々はしぶしぶ頷いた。


「みろ。みんな俺が正しいと言ってる」

ぎろりと男はホライヨンを睨み据えた。

「お前は俺を侮辱した。タダで済むと思うなよ」

「侮辱なんかしてないさ。気の毒な店主を助けただけだ」

「まだそんなことを言う。俺が正しいと多数決で決まっただろうが」

男の主張に、ホライヨンは鼻で笑った。

「決まってないよ。みんなは、君に脅されただけだ」

「そんなことはない!」


 後ろに捻られた手首が、高く持ち上げられる。あまりの苦痛に男は呻いた。


「放せ!」

「店主に謝ってお金を払ったらね」


 さらに手首が上に吊り上げられる。男の両脚が地面から持ち上がった。


「痛てて! 痛いっ!」

「代金は払わなければいけないよ」

「わかった。払う。払うから!」

手首と肩の痛みに耐えかねたようだ。


「よかった。話が通じて」

「はやく手を放せ!」

「おっと、これは失礼」


 ぱっとホライヨンは自分の手を離した。急に自由になった男の体が、前へつんのめる。肩がぎりりと音を立て、締め付けられていた手首は、赤く変色していた。


「骨折はしてないはずだ。君も英雄トーナメントに出るそうだから、手加減してやった」

「くそっ、この馬鹿力が!」

手首をさすりながら、男が吐き捨てる。

「ごめんよ。インゲレ人だと聞いたから、つい力が入っちまった」


 男は目を剥いたが、もう言い返さなかった。無言で懐を探り、取り出した金を、遠くで震えながら見ていた店主の足元に投げつけた。


「俺に恥を掻かせやがって。お前も大会に出るんだな。覚悟しとけよ」

言い捨てて、逃げるように去っていった。


 ホライヨンは、腰が抜けた店主を抱え上げた。屋台の横に出されていた椅子に座らせてから、宿に帰ろうとした。

 やじ馬たちはとっくに立ち去り、人の輪は、すでになくなっている。


 向こうから、男が歩いてくるのが見えた。

「君は、インゲレ人が嫌いなのか?」

すれ違いざま、彼は、耳元で囁いた。


 見たこともない人だった。人というより、人種である。白い肌に金色の髪、青い目。こんな妙ちくりんな人間は、始めて見た。


 「誰だ、あんた」

思わず尋ねた。

「僕? 誰だっていいじゃないか。僕はインゲレ人だ」

「なるほど。インゲレ人っていうのは、不躾なやつが多いんだな」


「おいおいおい」

男は笑い出した。

「さっきのやつの件は謝るよ。あんなのは、インゲレ人の風上にも置けない。同国人として恥ずかしく思う」

「何もあんたが謝ることはない」


 無愛想にホライヨンは応じた。警戒していたのだ。


「ところで、君は何で、インゲレ人が嫌いなんだ?」

「なんでって……」

改めてホライヨンは考えた。

「よく覚えていないが……。子どもの頃、好きな人を盗られそうになった気がする。インゲレ人に」


 相手の目に青みが増した。


「なんだ。君、覚えていたのか」

「何を?」

ホライヨンはきょとんとした。

「好きな人を盗られそうになったんだろ?」

「それが、よくわからないんだ。僕はずっと母と二人暮らしで、身の回りに特別に好きな人なんていなかった。客が来たこともないから、盗るとか盗られるとか、ありえない。唯一可能性があるのは母さんだが……」

ホライヨンは首を横に振った。

「僕の母さんを盗んでいく命知らずがいるとは思えない。返り討ちに逢うだけだ」

「ほう」


 男が相槌を打ち、ホライヨンは言い過ぎたと思った。


「ところで、あんた、誰?」

「インゲレ人だよ」


 一言答えて、男は立ち去っていった。





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