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全力でBのLしたい攻め達とノンケすぎる悪役令息受け  作者: せりもも
Ⅱ 天空への旅

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21/30

タバシン河の祭礼


 「ホライヨン、起きて!」


 痛いくらいに肩先を突つかれ、目を覚ました。葦の根元のちくちくした大地に辛うじて茣蓙を強いて、俺は眠っていた。

 まだ深夜だ。月の光が冴え冴えと照り渡っている。


「母さん……」

「寝ぼけてないで。追っ手よ。逃げなさい。これを持って、早く!」

母は、俺の首に革袋を吊るした。呪文で縮めた父の両手の入っている革袋だ。

「落としたら許さない。全速力で走るのよ。私は後から追いつく」

「僕も戦う」

それは当然のことと思われた。

「お前がいたら邪魔!」


 それなのにどんと背中を押され、俺は生い茂った水草の間をよろよろと走りはじめた。


 「あそこだ! いたぞ!」

揺れる葦の茂みに気がついたのか、兵士たちの一団が追いかけてきた。すっかり見慣れたエメドラードの兵士達、叔父の親衛隊だ。


「裏切り者の犬どもめ。私に何か用?」

 ふわりと母の体が上空に舞い上がる。湿地から浮き上がり、母は兵士たちを睥睨した。


「タビサ王太妃!」

親衛隊長が敬礼した。とってつけたような礼だった。

「我らが王は、貴女のお命を狙っているわけではありません。ただ、例のものをお返し頂きたいだけです」


「例のものとは?」

嘲るような高い声が、月光を浴びて冴えわたる。


「言わずともおわかりでしょう? 先日貴女が河原で回収された二つのものです」

「なるほど。尾行をつけられていたってわけね」

「偉大なるサハル陛下にご存じないことなど何もないのです。貴女がお持ちであることはわかっています。諦めてお返し下さい」

「変な言い方ね。返すなんて」

「そもそもあれは、サハル陛下がタバシン河に流されたものです」

「やっぱりあの人がサハルが殺したのね」


確信を持って問い詰めた言葉に、親衛隊長は絶句した。甲高い声で母は笑った。


「ばらばらにして河に投げ捨てたものに、なぜ今更執着するの?」

「それは……」


「母さん、後ろ!」

 俺は叫んだ。


 背後の草むらから、今まさに兵士が槍を投げようとしていた。

 凄みのある笑みを母が浮かべた。


 飛んできた槍を右手で掴み、間髪入れず、投げ返す。槍は過たず投げた兵士の胸に突き刺さり、兵士は者も言わずに昏倒した。

 それが合図だった。


 周囲から一斉に矢が放たれた。飛んできた矢は一点でぶつかり、鋭い音を立てて四散した。

 ひときわ高い位置に跳ね上がりそれを見ていた母は、大きな声で笑いながら両手を上へ差し出した。凄まじい突風が巻き起こる。細かい砂を巻き上げた風は竜巻となり、師団に襲い掛かった。


「気の毒ね。私たちがここにいることがわかってしまった以上、貴方がたを生きて返すわけにはいかないわ。ただの一人もね!」


 嘲るような声が聞こえた途端、うめき声と、凄まじい血の雨が乾いた大地に降り注いだ。







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