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最先端で突撃


「敵艦隊の戦列は?」

見張り台の歩哨に俺は尋ねた。

「横一列に並んでいます!」

撃てば響く声が返ってくる。


「よし。わが軍艦隊を2つに分ける。ひとつは、俺のアルシノエ号が先頭に立つ。もうひとつは、ラシャド提督の船に引率させろ。わが船団は、敵艦先頭から1/3 の地点に、ラシャド提督率いる船団は、敵艦後方から1/3 の地点に突っ込む」


味方より遥かに数に勝る敵艦隊と戦うにはこれしかない。

敵の艦列を分断するのだ。

俺とラシャドの隊列で、インゲレの戦列を3等分し、攻撃を分散させる。


「至急、全軍に通達せよ!」


「しかし、サハル殿下。王弟殿下であられる貴方の船(アルシノエ)が、攻撃の先頭を行くのですか?」

忙しく暗号文が飛び交う中、艦長がにじりよってきた。

「当たり前だ。アルシノエは、旗艦だからな。そして俺は総司令官だ」

「先頭でつっこむということは、それだけ危険が勝ります」

「まあ、そうだろうな」

「こんなことが国王陛下に知られたら……」

「大丈夫だ。王弟殿下は俺が守る。げろっ」


もう吐くものはなかろうに、ジョルジュが割り込んできて、また吐き散らしている。俺は眉を顰めた。


「いいからお前は引っ込んでろ。邪魔するな」

「いえ、私の聖なる務めは殿下の盾となることです。げえっ」

「お前に死んでもらったら困るんだよ」


いざとなったら、捕虜にして、インゲレとの交渉に使うつもりだ。ヴィットーリア(インゲレ王女)の弟をこちらが抑えていれば、有利な条件で交渉に臨めるだろう。


「殿下〜」

何を誤解したか、ジョルジュが涙目になってすがりついてきた。

「あっ、こら、そこで吐くな!」

俺が叫ぶと、間一髪で艦長がジョルジュの襟首を掴んで引き離した。


「黒い顔をしていらっしゃいますよ、サハル殿下」

「気のせいだ」

即座に俺は、彼の疑念を打ち消してやった。



アルシノエが、海の上を滑るように走っていく。フリゲート艦(アルシノエ号)は船体も軽く、素早い攻撃に打ってつけだ。


「あああ……。王弟ともあろうあんたが、最先端で突っ込んでいくなんて……。陛下に知られたらなんとおっしゃられることか……」


相変わらず暗い声で艦長が嘆いている。その足元で、ジョルジュが伸びていた。高速で走るフリゲート艦の揺れに、ついに限界を越えたようだ。


「行くぞ! 砲撃、用意!」


華々しく砲弾を打ち鳴らしながら、旗艦アルシノエは、敵艦隊の中へ突っ込んでいった。


「敵砲艦の砲撃技術は低い。連射を浴びせろ」


インゲレの発砲速度は、3分で1発。対するわが軍には、1分半で1発撃つだけの技術がある。

その上、インゲレ船は、こちらの船の帆綱ばかり狙ってきた。

帆綱……帆の上げ下ろしに使う綱だ。これが機能しなくなれば、船は立ち往生するしかない。敵は、停泊した船に乗り移り、わが軍の船を強奪するつもりだ。

そしてもちろん、この後の戦争で再利用する。自国(インゲレ)の戦艦として。


「ちぇっ、せこい手ぇ使いやがって」


俺は毒づいた。船は高価だ。まして戦艦となったら、なおさらだ。エメドラードだって、一隻でも余計に船が欲しいのに変わりはない。けれど俺は、そのような姑息な手段は採らない。

やるとなったらやる。

敵の船を乗っ取ってまで自国の船を増やす必要などない。敵艦隊を再起不能にすればそれでいいのだ。

全艦、撃破してやる。


「おい、敵の火薬を積んだ船はどれだ?」

艦長に尋ねた。

「わっ、わかりません!」

「なんだと? 斥候を放てと命じたじゃないか」


伝令からインゲレ艦隊が攻めて来たと聞いた時に、すぐに、スパイを放つよう、命じてあったのだ。


「放ったスパイは、帰って来ませんでした。敵軍に捕まった模様です」

「おのれ……インゲレめ!」


王女ヴィットーリアの婚約者として屋敷に閉じ込められ、軟禁状態だった日々が、脳裏に蘇る。拷問や虐待こそされなかったし、食事はまあまあで待遇もそこそこだったけど、自由がなかった。メイドや女官に手を出すことは禁じられており、貴族令嬢には近寄らせても貰えなかった。

まるで囚人か捕虜のような生活だった。


「おいっ!」

足元に伸びているジョルジュを、俺は胸倉を掴んで引き起こした。

「あああ……麗しいお顔が眼前に」

錯乱状態に陥っている彼に、一発張り手を噛ます。

「お前の国では、火薬はどの船に積んでいる!?」

「ああ、もっと……」

「もっとじゃない! 火薬だ! インゲルの火薬積載船はどれだ?」

「ぶって」

「は?」

「もっとぶってくれたら、教えてあげる」

「……」


やむを得ない。暴力は嫌いだが、相手を正気に返らせる時と、祖国を守る場合は、話が別だ。俺はもう一発、ジョルジュに食らわせた。ただし気絶されたら困るから、手加減はした。


「もっと……もっと!」

「うるさい! 速く言え!」

「言ったら、もっとしてくれる?」

「ええい、気色が悪い! いくらでも殴り倒してやるわ!」

「ヴィクトリー」


くっ、ヴィットーリアのやつ、自分の船に火薬を満載にしていたとは!


「ヴィクトリー号を探せ!」


立ち上がって俺は叫んだ。急に胸倉を離したものだから、ジョルジュは勢いよく船板に頭をぶつけ、再び気絶した。








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