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時間と重力の講演会

 そこで『新しい時計によるナントカ』の講演のため、久しぶりに外出する。


 マンションの階段で、子どもを二人連れた女性に出会い、頭を下げた。

 二階の家族だ。


「いつもうるさくして、すみませんね」


「そんなことないですよ。みんないい子だし」


 私たちも下の家族も、十年前このマンションに引っ越した。

 それほど付き合いはないが、顔を合わせばあいさつぐらいはする。

 と、小さい男の子が、しびれを切らしたのか、一人で階段を走り出した。


「コータ! 待ちなさい!」


 そうか、あの男の子はコータというのか。

 あわてて女の人も追いかける。そのあと上の子が、だるそうにトントンと階段を下っていった。

 子育てって大変そう。



 講演会は地区センターのホールで開かれた。

 収容二百人ぐらいの会場に集まったのは半分ぐらいか。この手の講演にしては、まずまず人が入っている方だ。

 高校生の集団もいる。学校で勧められたんだな。大変だね、学校の授業だけでも大変なのに、こういう難しい話を聴かなきゃならないんだ。


「こちらの映像をご覧ください。宇宙ステーションで宇宙飛行士のみなさんが、ふわふわ泳いでいますよね?」


 会場のスクリーンには、髪を逆立ててクルクル回転する宇宙飛行士が映し出された。

 気持ちよさそうだ。でも、家に引きこもってる私には、宇宙なんて関係ないか。


「地上ではこんな風に動けませんね。これは地球から離れ、重力が弱くなってるからです。地面から離れれば離れるほど、重力は弱くなります」


 次に、スクリーンには、カーナビの地図が映し出された。


「みなさんが使うナビの地図では、GPS衛星が使われています。この衛星も宇宙ステーションと同じように、地上より受ける重力が弱いわけです」


 ドヤ顔で先生が語る。


「さて、一般相対性理論によると、重力が強いと時間も遅くなります」


 ああ、私が五分のつもりが二時間経ってるって言ったら、同居人が「ソウタイセイリロン」なんて言ってたなあ。


 そしてスライドに、ベロを出してるボサボサ頭のおじいさんが登場する。この手の講演で必ず見る偉い先生の写真だ。他にもっといい写真があるだろうに、なぜかこのベロ出し写真をよく見るのだ。


「一般相対性理論なんて、どこで役に立つの? と思われるかもしれませんが、GPSでは相対性理論を利用しています。というのもGPS衛星は受ける重力が弱いため、地上より時間が速く進むわけですね」


 ん? 今、さりげなく重要な話を聞いた気がするぞ。



「そのままだと衛星と地上で時間がずれてしまいます。このためGPSの時計を補正するんです。このように一般相対性理論は、私たちの生活に役立っているわけですね」


 GPSと相対性理論の関係は初耳だった。うん、これぐらいならなんとか感想レポートが書けそうだ。


「宇宙空間と地上だけではなく、たとえば頭の上と足元は1~2メートルの差ですが、重力が違うんです」


 相変わらず先生はドヤ顔だ。


「つまり、頭の上の方が足元よりも、ごくごくわずかですが、時間が速く流れます」


 え!?

 先生、今、何を言った?

 私の頭のてっぺんとつま先で、時間の流れが違うのか!?



 講演はその後、すごい正確な時計の話になった。その時計を使うと、頭のてっぺんとつま先の時間の違いもわかり、高度の測定など、いろいろ応用ができるらしい。


 後半の時計の話はよくわからなかったが、自分の体内でも時間の流れが違う、というのは衝撃的な事実だ。変化のない毎日の中では、なかなか刺激的な日となった。

 なので珍しくも私はスーパーで買い物し、サバの味噌煮にほうれん草の炒め物まで作ってしまった。



『夕飯、あるよ』


 何日ぶりだろうか? スマホでこんなメッセージを同居人に送ったのは。

 が、返信は素っ気ないものだった。


『飲み会あるから、いらない』


『わかった。朝ご飯で食べて』


 既読のマークは着いたが、返事はなし。

 まあ、そんなもんだ。

 私は久しぶりに、自分で作った食事を一人で噛み締めた。


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