9話
見れば見るほど間抜けな面をしている。俺がやったとは言え、一応女の子であるこいつの顔面を二回も殴ったのはやりすぎだったか? でもさぁ、やりすぎだったかもしれないけどこいつだって悪かったよな。
「あんまり痛そうに見えないけど、ほんとに痛いんだよな?」
「当たり前でしょ。私だから平然としているように見えてるかもしれないけどね、普通の女の子だったら泣きっぱなしだと思うわ。それくらいのことを貴方は私にしてるのよ? 少しくらいは罪悪感は湧かないのかしら?」
「そこまで言われると流石に申し訳なくなってくるな。まあ、俺は謝ったから許してくれるよな?」
「簡単に許されると思わないでよ。私のことを助けてくれるって言うなら許して上げなくもないわ」
「そうですか。それじゃあ、別に許されなくてもいいや。よく考えたらお前に許してもらわなくても何も問題なかったわ。強く生きてくれ」
こいつの許しを請う必要なんてまったくなかったんだ。既に力も失っていて殺される心配もない。ただの女の子でしかないからな……それを俺は見殺しにしようとしているのか? それは男として少し問題があるような……。
「だから待ちなさいよ。私を置いて行くなんてありえないんだから!!」
「その無駄に強気な態度は何なんだよ。せめて、お願いするって言うんならそれなりの態度ってものがあるだろうが。お前はこんな態度のやつを助けてやろうと思うのか? 絶対ならないだろ」
「……だって、私は悪く無いし……。なんでよ、なんでそんなに怒るのよ……」
また泣きそうになってるじゃないか。いつも高圧的な分こう言うことには弱いんだろうな。何て言うか怒られ慣れてないって言うか。
態度はどうにかしてほしいもんだが、確かにこいつをこのままおいて行くのもどうなのかと思い出してる俺もいる。つい今聞かされたこの世界にはモンスターって言う存在も出現するらしいしな。そんなところに普通の女の子を置いて行くなんて言うのも……。せめて頼まれたりしたら話を聞いてやる気にもなるんだがな。
「私はきっとこのまま死んじゃうんだわ……」
「悲観的になるなよ。お前だって女神なんだろ。力は失ってるとしてもこれまで培ってきた経験があるだろ。それで何とか乗り切ればいいじゃないか」
「無理よ。私は今まで女神としての力に頼りきっていたもの。突然力を失って危険な世界に放り出されるなんて誰がどう考えても生き残れないじゃない。お願いだから私も一緒に連れて行って……もう、傲慢な態度はしないって約束するから」
心に余裕がなくなってきているのだろう。ついに、しおらしくなってきた。俺も鬼じゃないからな。こんな風にお願いされてとなれば話は聞いてやろう。ここで、本当に反省しているのか試しておかないといけないからな。
「そうか、どうしようかなぁ……でもなぁ、どうせすぐに暴言を吐くんだろうなぁ」
「そんなことないわ。もう二度と暴言も言わないし、暴力だって振るわない。もしかしたら癖で少しは出ちゃうかもしれないけど……それもなくすように努力するから」
絶対に言わないってのは信じられないが、こう言う風に言われると妙に本当っぽいよな。
「本当なんだろうな。これで自分が助かるってなったら態度を変えたりしないだろうな」
「もちろんわかってるわ。ほかの神から助けが来ても貴方には危害は加えない」
これ以上疑うのもくどいか。もしこいつが改心してなくてぼろが出だしたりしたときは斬り捨てておいて行けばいいもんな。その時はなんの後腐れもなくスパっと行こう。俺は一度ここで義理は果たすから、その後のことは俺の責任ではない。
「俺も少しやりすぎてしまったところはあるからな。わかったよ。一緒に行こう。その代わりこの世界のことを教えてくれよ。ガイドってことで一緒に連れて行ってやる」
「ぐす、ありがとう。私もこの世界にはモンスターがいるってこと以外はそんなに詳しくないけど頑張るわ」
「え? お前この世界のこと知らないのか?」
「私はあくまでも能力を与えてこの世界へ転生させることが仕事だったから。それ以上のことはしてないのよ」
こいつがこの世界のことをよく知らないって言うのは誤算だな。そうなると俺たちはこれから無の状態でこの世界を生きていかなくちゃいけないってことだよな。俺もこいつから貰った防御無視の攻撃ができるっていう能力しか持ってないんだよな。強いモンスターなんかに出くわしたりしたらまとめてお陀仏だな。
「しょうがないか。それじゃあ、とりあえずこの森から抜けて、町でも目指すか。どっちに町があるかとかもわからないよな?」
「ごめんなさい。本当に何もわからないの。でも、最初は町の近くに転生するように設定されてあるって聞いたことがあるから、そんなに遠くじゃないと思うわ」
「それじゃあ、俺の勘でこっちに行ってみるか」
何も情報がないのからな、本当に俺の勘で行動するしかないんだよな。まあ、なるようになるか。