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3バンジー

「う、ううぅぅ……あれ? ここは?」


 目を開けると俺は、だだっ広い空間に倒れていた。


 ここに来る直前の記憶がぽっかりと抜けている。軽い記憶の混濁が見られる。


「俺はなんでこんなところに倒れてるんだ……名前は大五郎、大学1年だ。うん、このあたりのことは覚えてるな」


 自分の名前や生年月日などの基本的なことはしっかり覚えている。しかし、ここ一日の記憶がない。えーと、確か大学で次の土日にどこに行くかって、健五郎と新五郎と話してたな。それで、たまには遠くまで行こうって話になって、免許を持ってる俺が車を出すことになったんだ。そうだ、ここまでは覚えてる。でも、どこへ行くことになったんだ? くそっ、思い出せない。


 試しに自分の頭を殴りつける。


「いってぇ、ダメだ。一発くらいじゃ足りない。もう一発だ」


 戻らない記憶にやきもきしながらもう一度試す。


「いてっ、これでもダメか。こうなったら地面と俺の頭でガチンコ勝負だ!!」


 ゴンッ!!


 おでこを地面に向かって振り下ろした。


 かなりの衝撃に頭がボーっとする。


「……いてぇ、でも、これで……」


 バタンッ!!


 俺は頭を強打したことで気を失ってしまった。




「さっきからずっと見てたけどこの子頭のネジが2,3個飛んでるんじゃない? 死に方を普通じゃないし、こんな子選んで大丈夫なのかしら? でも私が選んだわけじゃないから、責任を負うこともないわね。さっさと案内しましょうか」


 なんだ? 女の人の声が聞こえる? 


「起きなさい。気を失ってる場合じゃないわよ。ほらほら」


 倒れている俺のほっぺたがツンツンされている。

 もしやこれは指でほっぺをツンツンするあれか!? よくわからんが起きねば。女の人が俺を待っている!!


「何事だ!!」


「きゃあ!! ちょっといきなり何叫んでるのよ。ビックリするじゃない」


 がばっと起き上がり、周囲の状況を確認する。すると、横に金髪の美人なお姉さんが驚いた表情を浮かべて立っていた。


 うん? 指でツンツンしてたなら立ってるのはおかしくないか? 俺にビックリして立つにしても姿勢が自然すぎる。あの驚き方だったら尻もちをついてもおかしくないはずだが……。


「今、俺のほっぺたをツンツンしていたのはお姉さんですか?」


「そうよ、貴方がなかなか起きないから足で起こそうとしてたのよ。普通頭を地面にぶつけて気絶なんてする? 変人じゃないの?」


 足だと……。


 俺はゆっくりと視線を下げ、お姉さんの足元を確認する。すると、先の尖ったヒールを履いているじゃないか。俺はこれを指と勘違いしてぬか喜びしてたってことか? 何て奴なんだ。ヒールで人の顔を……いくら美人だってやっていいことと悪いことがあるんだよ。かあ、これの正義の心が今にも爆発してしまいそうだ。


「このくそ女が!!」


 思わず叫んでしまった。俺の正義の心という奴は思っていたよりも口が悪いようだ。


「きゅあ!! なんでいきなり叫ぶのよ。それに、くそ女ってもしかして私のこと言ってる!? この美貌が目に入らないのかしら?」


「関係ねぇよ。ヒールで人の顔を当たるなんてどんな教育受けて育ってきたんだ。もう一回小学校からやり直せあほが!!」


「言ったわね。貴方だって奇行ばかりする変人じゃない。私は知ってるのよ。今も自分の頭を殴りつけたり、地面にぶつけてたこと。それに、死因だって紐なしバンジーなんてどっちがあほなのよ!!」


 死因? いやいやちょっと待て、さらっとなんか悪口にまぎれて重要なことを言ってないか? 俺は死んでるのか? それで、最近の記憶が思い出せない……そんなことありえない。だって、俺は普通に生活していただけなんだから。


「紐なしバンジーってなんのことだよ。そんな危険なマネする奴がどこの世界にいるんだよ。子供だってそれくらい理解できるってもんだ」


「そのありえないあほが貴方なのよ。死んだばっかりで思い出せないんでしょうけどじきに思い出すわよ。自分がどれほど愚かで命知らずなことをやらかしたのかね。貴方の友達も困惑してたわよ。友人がなくなった悲しみと訳の分からない行為への戸惑いでね」


「俺が……紐なしバンジーをしたって言うのか? 嘘だ!! 俺だって危険なことの理解くらいはできる。しちゃダメだってわかっているような行為を自分からするなんてありえない。誰かにはめられたんだ!! それに、俺はまだ自分が死んだって信じたわけじゃないぞ!!」


 そうだ、このくそ女が適当なことをぬかしてるだけに違いない。だって、俺はもう大学生、そこら辺の分別も当然付けられる年齢だ。


「貴方は友達三人とバンジージャンプをしに行ったの。ここら辺までならそろそろ思い出したんじゃない?」


 うん? そうだ、確かに俺はバンジージャンプの有名な橋にあいつらと三人で向かったんだ。


「そこで、一番に飛ぶことになった貴方が興奮していたのか知らないけど、器具の取付途中で終わったと勘違いしたの。そして、そのまま紐なしバンジーってわけ。どう? 理解できたかしら?」


「そんな馬鹿なことが起きるのか? そこまで俺はあほだったのか……」


「すぐ思い出すでしょうから覚悟しておきなさい。自分の行動で命を落としたのにこうして転生の機会を貰えたことに感謝こそすれ、くそ女なんてもってのほかよ。私の機嫌がもう少し悪かったら今頃地獄へ直行させてたところね」


 今度は転生? もう勘弁してくれよ。俺の脳はキャパオーバーだって。

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