14バンジー
「君、早く顔を見せなさい。僕が見てあげるから。安心して、僕は君の顔を見て笑ったりなんて絶対にしないって約束するからさ」
お兄さんがメリアを説得する構えに入っている。
このままではメリアは絶対に顔を上げない、お兄さんは顔を見るまで納得はしない。平行線がどこまでも続いて行くだろう。俺が何とか一手を打ち込んで対局を動かさなければならないようだな。
「すいません。お兄さん、さっき病気って言ったのは嘘なんですよ。実は、こいつはとんでもない不細工でそれでいつも顔を隠してるんです。大体の人がそうやってこいつの顔を確認しようとするんで誤魔化すためにしょうがなく嘘をついてしまいました。ごめんなさい。イタッ」
足を誰かに踏まれた。
横目にメリアの方を確認すると、メリアの足が俺の足を踏んづけている。それに、追い打ちをかけるかのようにぐりぐりと追加攻撃までしてきている。
「そ、そうだったんだね。でも、一応確認しておかないと僕も不審者を通すわけにはいかないんだよ。ここは我慢してもらえないかな?」
そりゃこうなるよな。不細工だからって顔を隠してハイそうですかって通れたらそれもおかしいし。このお兄さんには正直に見せておくのが無難だろう。
「そこまで言うならわかりました。お兄さんならこいつの顔を見ても馬鹿にしないと信じることにします。メリア、顔を上げて見せてやってくれ」
俺は観念してメリアに顔を上げるよう促す。
が一向にメリアは顔を上げる気配がない。
うん? おかしいな、この距離で俺の声が聞こえてないとかありえないよな。なんでこいつは動かないんだ?
「おい、聞こえてるだろ。なんで顔を上げないんだよ。すいません、お兄さんこいつもちょっと恥ずかしがってるみたいです。少し待ってください」
「そうだね、普段から隠しているものを見せるのはとても勇気がいることんだろうね。僕のことは気にせず、心の準備を整えてくれて構わないよ」
「ありがとうございます。ほら、メリア。お兄さんもいい人だからきっと顔を見ても笑わないだろうし、馬鹿にもしないはずだ。だから、顔を上げてくれないか?」
無駄に時間をかけてくるのはどういう意図があるんだ? この状況だったらもう顔を見せたところでお兄さんは何も言わないだろうし、何をためらってるんだよ。
メリアが顔を下に向けたまま、俺の服を掴み、自分のほうへ引っ張った。
「うん? どうしたんだ?」
「私に絶対顔を上げるなって言ったわよね。どうするのよ、私はどうしたらいいの。せっかくここまで顔を上げずに粘っていたのに、無駄になっちゃうじゃない」
そう言えば絶対に顔を上げないって宣言してたんだっけ。それで顔を上げずに黙っていたわけか。こういうことは臨機応変に対応してもらいたいもんだな。俺の頑張りでお兄さんからは俺が殴って顔を腫れあがらせている何て思わないだろうし、もしかしたらこいつがお兄さんに笑われるくらいのリスクしかもう残っていないんだ。身分証すらも町の中で発行できるようになってるしな。
「もういいんだよ。後はメリアがお兄さんに顔を見せれば、俺たちは町の中へ入れるんだ。お前だってここで顔を見せずに、町の中に入れなくなるのは嫌だろう? だから、早く顔を上げろって」
「はあ、この私が一度言ったことを曲げないといけないなんてね。仕方ないわ、これ以上足止めを食らうのは私も望むところじゃないしね」
そう言うと、メリアは下に向けていた顔をゆっくりと上げ、フードを降ろした。
「これでいいかしら。門番さんも満足?」
「え!? なんでそんな顔になっているんだ? 本当にこれは生まれつきだって言うのかい? まるで誰かに殴られたような腫れ方だけど……」
「お兄さん、こいつはこの顔で今まで生きてきたんですよ。それをまるで嘘をついてるかのような言い方はないんじゃないですか? こいつの顔の腫れあがりは今に始まったことじゃないんですよ。こいつはずっと不細工なんです。イタッ」
またメリアに足を踏まれた。
おい、何回も俺の足を踏むんじゃないっての。俺は本気で不細工と思って言ってるわけじゃないんだから大目に見ろって言うんだよな。
「そうだったね。僕は絶対に馬鹿にしないって約束をしてたんだった。でも違うんだ、僕は馬鹿にしてる訳じゃなくて、本当に生まれつきその顔なのか疑問に思っただけなんだよ。決してそういうつもりじゃなかったんだ。許してくれ」
「いいんですよわかってもらえたら。こいつも気にしてませんから。なあ、メリア」
「ええ、そうね。私もまったく気にしてないわ。だから門番さんも安心して」
内心は怒っているんだろうな。また棒読みをかましている。
「すまないね。これで二人の顔を確認できたことだし、中へ入ることを許可しよう。でも、身分証を発行したら忘れずに僕のところまで来てもらうようにね。特例で通してるからそこはよろしくね」
「ありがとうございます。すぐに身分証を発行して戻ってきますからゆっくり待っててください。それじゃ、いくかメリア」
再度フードを被り、下を向いたメリアは俺の服を掴んで準備完了だ。
俺たちは長い激闘を制し、町の中へ入っていくのだった。




