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袋詰めておじさん

幸先悪いバイト初日を経験した香山成(かやまなる)


レジは通常、商品のバーコードを通すチェッカーと会計をするキャッシャーを一人でやるが最初は一つの役割だけを学んでいく。それぞれ一ヶ月ほど経験すると一人でレジに入ることになった。


学校生活も慣れてきた頃の新しい刺激だった。

成は夕方から閉店までの時間をシフトに入っていた。当然大変なことも一人でどうにかしなければいけなくなった。


ほとんどのことは「サービスカウンターでお願いします」と言えば解決する。ポイントの後付けやスーパーが請け負っている宅配や注文について聞かれてもアルバイトの成にはわからないのだから。

しかし中にはそれで解決しないことがある。




ある日年老いた男性がレジにかごを二つ置いた。片方は250mlの通常よりも小さめな缶が所狭しと入っていた。もう一方にはパンやお弁当が数点入っているだけだった。

缶は全て同じだったため一つだけバーコードを通して×(かける)個数を入力すればいいのだが、ここからが問題だった。


缶が入ったかごをお客さんが取りやすいように前にずらし二つ目のかごに取りかかろうとするとおじさんがレジ袋を成に差し出してきた。


「はい、これに詰めてね」

(・・・・・・は?)


成は少しだけ固まってしまった。二人制で練習してた頃は袋に詰めてと言ってくる客はいなかったし、おじさんの後ろには列が出来ている。

成が二つ目のかごに取りかかってる間に自分で詰めれば良いのにと思いながらも、ここでグチグチ文句を言われて居座られても迷惑だと思い言うとおりにする。


おじいさんは缶を全て立てた状態で入れてほしかったらしく成が向きを気にせず詰めていると「向きをそろえろ、雑だな」とクレームを入れてきた。


(じゃあ、自分でやれよ)


もちろん口には出さずしかし取り繕ったような表情や言葉を返すこともせず缶を全て袋に入れ終わったため前に押し出し二つ目のかごに取りかかる。


合計金額を伝えると指を舌で舐めお札を財布から抜き出した。


(うわ最悪、最低、不衛生、信じられない、気持ち悪い)


心の中で言いたい放題言っているとトレーにお金を出す手が止まったためお金をレジに通そうとする。ここのレジはお金を通す前にポイントカードがあれば通さなければいけない。ポイントカードを持っているか聞くとカードを探し始めた。


言われてからポイントカードを探すのはよくあることだがおじさんは少し違った。ポケットというポケットから次々と財布が出てきた。そしてその全てにカードがびっしり入っている。


(逆にどうやったらこんなにカードを集められるんだろう)


おじさんは全てのカードを順に見ていくが見つからない。ポイントの後付けができるためポイントカードは飛ばして早くお会計を済ませてしまおうと考えた成。


ベテランのパートが入っている他のレジはどんどん進んでいるのに成のれるだけ一向に進む気配がなかった。



「あのお客様、ポイント後付けしておきますよ」

「ああ、大丈夫大丈夫、たぶんあるからちょっと待って」

(親切で言ってんじゃねえよ、早く会計を終わらせたいんだよ)


これは私が何を言っても駄目かもしれないと諦め、各レジにおいてある店内放送用のマイクを手に取る。


「相川さん、4レジまでお願いします。相川さん4レジまでお願いします」


相川は従業員以外立ち入り禁止の場所からすぐに飛んできた。


「どうしたの」


成はポイントカードを探してから先に進めていないことを説明した。


「あの、お客様申し訳ありませんがポイントカードは後付けさせていただきますのでお会計を先に済ませていただいてもよろしいですか」


相川の言葉にもおじさんは同じ言葉を返すだけだった。


「申し訳ありません、他のお客様がお待ちなのでこれ以上は」


そこでおじさんは初めて後ろを見た。すぐ後ろにいた男性のお客さんは大柄で目つきが悪いためかおじさんは小さい声だが悲鳴が上がっていた。その後ろの親子は退屈で騒ぎ出した子供を母親がなだめていた。更にその後ろの男性一人のお客は携帯をいじるのに飽きてしまったのか少し苛ついた様子で戦闘、おじさんを見ていた。


「後付けでお願いします」


おじさんは会計を終えおつりを受けとるとそそくさと逃げるように、荷物を袋に詰めるための台に逃げていった。


(助かった)


相川はさっさと作業場に戻っていった。


「お願いします」

「いらっしゃいませ」



それから1時間ほど経ち客足が減り落ち着いてくると相川が成のところに来た。


「たまにああいう周りを気にしない人とかいるから、また何かあったら呼んでね」

「ありがとうございます、あの、袋に商品を詰めるのもやらないと駄目ですか」


接客業は基本的に「無理です」「いやです」「できません」など否定的なことを言ってはいけない。


「あんまりいないと思うけどね、もしいたら商品が少なかったらお願いします。多かったり後ろに列が出来ちゃったときはサービスカウンター呼んでくれれば行きます」


バイトを始めてから成の中では「困った=サービスカウンタ-」「困った=相川さん」というルールができた。

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