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閑話 side 朝比奈玲旺

序章中の玲旺視点です。

 一番最初に会った時から、鳴月志乃という少女は異質だった。


 銀行強盗の現場に人質として居合わせているのにも関わらず、悲観的な様子は見られず、常に冷静で、どこか自分に関心がないようにも見えた。


 俺と茉莉は姉さんの下、SA探偵事務所で二年前、十五歳の夏から姉さんの仕事を手伝っているから荒事にも多少は慣れているけど、彼女はそうじゃないだろう。


 俺と茉莉が強盗犯をどう対処するかで揉めていた時、それを強盗犯に聞かれていて、茉莉のことまで殺す、と言われたから、つい頭に血が上って言い返してしまった。


 強盗犯に目をつけられ、もう異能を使うしかないか、と思った時に警察の介入によって強盗犯の注目が他に向いて、助かったと思った。


 でもそうしたら、今度は鳴月がスマホを落として、強盗犯に目をつけられてしまった。助けなきゃ、と思ったけど、当の本人に睨めつけられて静止させられてしまう。


 今思えば、あの時に異能を使ってでも助けておけば彼女は入院しなくて済んだかもしれない。彼女に向かって銃が撃たれたときは、心臓が止まりそうだった。あとから不発弾だったと聞いて、安堵した。不発弾だったからよかったものの、無茶をする。


 そのあとは、銃声が聞こえたことによって、警察が突入して来て事態は収拾されたという次第だ。軽傷者二名で死者はいなく、深刻な怪我を負った人もいなかったらしい。


 異能を持っていたのにも関わらず、俺たちは何もできなかった。姉さんは俺たちの無事を喜んでくれたけど、俺たちは少し落ち込んでいた。





 鳴月が目を覚ましたと聞いて、彼女が入院したという病院にお見舞いに行った。家族なのか、中学生くらいの子供三人と優しい雰囲気の女性が先にお見舞いに来ていたから、少し時間をつぶしてから入れ替わりでお見舞いをした。


 その時俺たちは、無暗に犯人を刺激してしまったことについて謝ったけど、鳴月はそれを気にするどころか、


 「そんなことで謝らせて申し訳ないです。元はと言えば私がスマホを落としたのが原因ですから」


 と、逆に謝ってきた。一歩間違えれば死んでいたかもしれないのに、そういう彼女の本心が見えなかった。






 少し時間がたって、俺たちは姉さんから任務について聞かされていた。


 『港南区児童連続失踪事件』。異能力者が関わっている可能性が高い事件だという。


 俺と茉莉は、ペアで行動することになってーーこれはいつものことだが、茉莉が文句を言っているのを見て、少し自重しようと思った、のも……いつものことか。


 事件の詳細を調べるために、つい先ほど新たに誘拐事件が起こったという椿孤児院へ向かう途中に彼女とすれ違った。


 彼女は焦っていて、少し会話をするとすぐに走って行ってしまった。あんなに焦っている彼女は見たことがない。と言っても、まだ会って数回なのだが。でも、何か嫌な予感がした。茉莉も殺気を感じた、とか意味不明なことを言っていて、違和感は覚えたようだ。とはいえ、殺気は冗談だと思う。


 孤児院で話を聞くと、彼女は虎児だったらしい。七年前に急に孤児院の前に現れて、それ以来孤児院で暮らしていたとか。孤児院の院長である椿さんーーよく見たら、この前お見舞いに来ていた人だーーも過去の話はあまり聞かせてもらえてないそうだ。


 過去に何があったのか気になるが、仲が良くないのにあまり詮索するのもよくないと思うし、本題は誘拐事件だ。その事については一旦考えないようにする。


 椿さんから事件について詳しく聞いていると、突然茉莉が何も言わずに孤児院から走り出していった。椿さんにお礼を言った後、慌てて追いかけるもどうやら風を操って加速しているみたいで、とても追いつけそうになかった。


 ただ、捜査の時の為に持たされている発信機付きのスマホがあるから、どこに居るか分からないなんて事はない。




 位置情報を頼りに、茉莉を追いかけると、古びたアパートに到着した。でも、そこにあったのは、アパートに向かって手を伸ばす茉莉と、黒い靄に呑み込まれていく鳴月の姿だった。


 動揺を押し殺して、茉莉に何があったのか聞いても、状況は依然としてよく分からないままだ。そこで直ぐに追跡をしろ、と言われたもんだから動揺を隠すためにも軽口を叩く。


「わ、分かったよ! ったく、人使いが荒いなぁ」


 けど内心は鳴月の事が心配で、もっと言うと、これから鳴月に起きるかもしれない事によって、茉莉がまた壊れてしまうんじゃないかと気が気でなかった。


 まだ会って間もないとは言え、同年代の少女。それに茉莉はどうやら鳴月のことを気にしているみたいだ。綾目さんを失ってからの茉莉は、それまでの明るい茉莉とは打って変わって内気で、暗くなってしまっていた。


 でも最近になって少しずつ前の明るさを取り戻してきているんだ。強がっているのかもしれないけど、それでもいつかはきっと茉莉が心の底から前を向ける日が来ると俺は信じている。


 (だから、ここで茉莉を壊させるわけにはいかない!)


 幸い、敵の異能の残滓は捉えやすく、何処に隠れているのか割と簡単に見つけ出すことができた。流石に下水道の中までは追跡できなかったが。


 マンホールで、姉さんと合流して、そのまま下水道まで降りて鳴月さんを探し始める。犯人は、この通路を頻繁に使用していたみたいで、異能の残滓を追うのは容易かった。


 痕跡を辿って、走り続けること二十分。大きな異能の出力が奥の方から発せられたのを感じ取る。姉さんと茉莉も同じ様に感じたみたいで、緊張感が走る。


 出力の発生元に辿り着くと、驚くことに鳴月が人質の子供たちを背に、影山美津子に対して大立ち回りを演じていた。


 鳴月が奴の放ったナイフの形をした影を全て紙一重で避け、終いにはカウンターまで加えて見せた。


 俺たちは、姉さんまでもが固まっていたが、姉さんが奴に飛び掛かり、俺たちの名前を呼んだ事でやっと俺たちは行動を再開した。


 俺と茉莉はまず、鳴月を含めた人質の安全を確保するのが最優先。だから影山美津子の事は姉さんに任せて、鳴月たちの下に急ぐ。


 だが、次の瞬間、横から影のナイフが俺たち目掛けて飛んでくる。俺が糸で、茉莉が風で咄嗟に影の軌道を逸らした事で何とか無傷で姉さんたちの間を抜けることに成功する。


 でも、さっきの攻撃は俺たちだけに向けたものじゃなかった。影のナイフを脇腹に受けて、苦悶の表情を浮かべながら崩れ落ちる鳴月。避けきれなかったのか、いや、子供たちが後ろにいたから避けられなかったんだ!


 俺は慌てて倒れた鳴月の下に向かい、容態を確認した。大きな傷は脇腹だけで、他はそこまで深刻な傷ではない。でも出血死の可能性もあるし、このままだときっと命が危ない。医学知識のない俺でも、そんな事は分かっていた。


 「鳴月さん!! しっかりして! お願い!」


 隣で茉莉と子供達が必死に呼びかけるけど、彼女は弱々しく微笑むだけで、その後ちらっと姉さんの方を見て、安心したように目を閉じた。


 幸い、まだ息はあるようだった。茉莉たちはずっと鳴月に泣き付いていたけど、影山美津子を捕縛した姉さんに宥められて、地上に戻ることができた。




 それからはとてつもなく忙しかった。鳴月を病院に連れて行ったり、監禁されていた子供たちを家に返したり、異能について口止めをしたり身体が何個有っても足りないぐらいだった。


 猫の手も借りたいとはこう言うことなのか、と初めて慣用句に共感した。それを姉さんに話したら、そんなこと考える暇があるなら手を動かせと殴られてしまったが。


 俺たちが忙しく働いていた間、茉莉はずっと鳴月の側で待機していた。会って間もないのに、何故そこまで入れ込むのか、詳しくは分からないけど、きっと綾目さんに似ているからなんだと思う。


 もしかしたら茉莉は鳴月のあの自分を顧みない自己犠牲の精神に綾目さんとの共通点を見出したのかもしれない。


ーーやはり茉莉はまだ、綾目さんの死から立ち直れていないのだろう。

次からは第一章に入ります。

序章の茉莉の一人称が統一されていなかったのであたしに統一しました。

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