第14話「新たな出会いと理由」
時は追い詰められた委員長が自爆覚悟で校舎に仕掛けてあった残りの石を爆破させたところまで遡る。
流石の私も委員長が自爆するとは思わなかった。復讐者は復讐さえできれば自分がどうなろうと構わないと思うであろうことは予想はつく。
けど復讐対象が複数いるようなことを言っていたのに、頭の良い委員長がここで終わってしまう可能性があるようなことをするとは思えなかったのだ。
そのため反応が少し遅れ、気づいた頃には宙に放り出されていた。
(あちゃー、失敗したなぁ)
そもそも湊くんに邪魔されることは分かりきっていたじゃないか。茉莉たちの元へ急ぎたくて少し勝負を急いでしまった。悪い癖だ。私は昔からどこか詰めが甘いところがある。これじゃあ茉莉たちにも迷惑をかけてしまうに違いない。本末転倒だ。
仕方ない、異能を使うか。と自由落下しながら考えることコンマ数秒。暴走は怖いけど使わないわけには行くまい。
そう思っていざ異能を使おうとすると、突然浮遊感が消えた。不思議に思って周りを見てみると瓦礫や湊くん、そして爆発を起こした委員長までもが宙に浮いていた。
(これは……茉莉の能力?)
そう思ったのも束の間、茉莉は繊細な操作を苦手としていた筈だと思い直す。私たちのことは兎も角、こんな瓦礫の欠片一つ一つまで浮かすことは出来ないだろう。これは洗練された異能の力によるものだと確信する。
だがもしそうなら、ここに新しい能力者が現れたことになる。『暴食』は名前からしてこんな効果があるような能力には見えないし……まさか他の幹部が?
そんなことを考えていたら、ゆっくりと浮遊感が消えていき、地面へと降ろされる。
そこにいたのは、警察手帳をこちらに見せつけるように立っている金髪のヨーロッパ系の女性とその隣で腕を組んでいる大柄で筋肉質な男だった。
*
「カエデはやっぱり全然変わってないデスネ!」
「そういうお前も五月蝿いのは相変わらずだな、シェリー」
その金髪の女性というのが、今楓さんにちょっかいをかけまくっているハイテンションな女性――シェリー・カーターさん。楓さんと何回か仕事をしたことがある、仕事仲間なのだそうだ。
彼女が私たちを校舎の崩壊から助け出してくれた張本人。【念力】の異能を持つ能力者だ。
シェリーさんを筆頭に、
「轟だ。よろしく頼む」
険しい顔で腕を組んでいる五十代くらいのムキムキの男性――轟剛さん。【怪力】の能力者。
「……雪菜」
無言で何を考えているのか全く分からない顔をしている、私たちよりも幼いであろう黒髪の少女――霙雪菜。【氷結】の能力者。
「おいおい、あんたら雑過ぎないか?あ、どうも、錦木晶です」
そしてさっきからあちこちにツッコミを入れている少しチャラそうな男性――錦木晶さん。【結界】の能力者。
この間の学校の事件で、瓦礫が浮遊するなどの怪現象が起こったのにも関わらず世間に異能の存在が知れ渡っていないのは晶さんの異能の力のお陰だと言う。守るだけじゃなくてそういう使い方も出来るのかと驚いた。
この四人、実は警察だ。いや、私も最初は違うでしょと思ったけど本当らしい。一人明らかに場違いな子供が混じっている気がするんだけど……私たちも大概だろう。
彼女らは表向きは刑事部機動捜査隊第二課という名前の部署に所属しているが、その正体は特殊警察異能対策班。異能事件に関する捜査・取り締まりを行う特殊部隊らしい。
ヴァイス教とも何度も戦ったことがあるという。簡単に言えば、異能捜査の先輩だ。湘洋高校に来たのも、捜査の途中で膨大な出力の放出が感じられたからだという。
私たちを助けてくれたあの精密な異能の使い方を見るに、彼女らが強い事は一目瞭然だった。
だから彼女たちでもまだ捕まえられていなかった幹部を茉莉たちが倒した時いた時は驚いた。多少運の要素はあったにしてもね。
そんな彼女らがなぜSA探偵事務所に来たのかはまだ知らされていない。
自己紹介が終わると、騒いでいたシェリーさんの口を物理的に抑えた楓さんが口を開く。
「ごほん、今回シェリーたちに来てもらったのはお前らの修行のためだ。ヴァイス教幹部と戦うのに今のお前らじゃ心許ない」
確かにそうだ。茉莉と玲旺は実際に『暴食』と戦い、勝利はしたもののその実力差について実感したと言う。もし次戦うことになったらきっと勝てないだろう。
「だから修行だ。シェリーたちは一応これでも異能のエキスパートだから色々教えてもらえ」
「一応は余計な一言デス!」
……シェリーさんはいつの間にか楓さんの拘束を抜け出していた。
今日は顔見せが目的のようなもので、実際に修行を始めるのは来週かららしい。割り当ては私に轟さんと雪菜ちゃんの二人、茉莉にはシェリーさん、玲旺くんには晶さんが付いてくれることになった。
基準は能力の性質の近い人だという。でも私の能力は珍しいから二人がついてくれているというわけだ。
*
因みに委員長だが、まだ入院をしている。実はあの時、爆発源に一番近かったのは委員長で、その衝撃で今も意識は戻っていない。
この前お見舞いに行った時には湊くんが付いていて、あまり歓迎されなかった。それもそうだ。委員長を自爆するまで追い詰めたのは私だから。事情があるにせよ、実の姉を意識不明にしたんだ。湊くんが私を嫌うのも分からないことではない。
湊くんも委員長が悪いのが分かっているから、直接は言ってこない。
でも、復讐の理由くらいは聞いておかないと気が済まないのも確かだ。修行を始めるまで数日あるので、入院している委員長のお見舞いに茉莉と玲旺くんと一緒に行くことにした。
病室に着いたら、湊くんがいた。少し、気まずい。
「……なんだ、お前らか」
「湊くん……私たちも良い?」
「ああ。冷静になって考えてみたら、ただの八つ当たりだった。この前はごめん」
「いや、実の姉がこんななっちまったら俺もそうなる自信あるから、大丈夫だよ。な? 茉莉、志乃」
「うん」
「そうよ。気にしないで」
湊くんなりに考えて、許してくれたみたいだ。委員長を追い込んだ張本人である私は少し警戒されているけど。殺そうとしていたし仕方ない。安心してもらうためにもさりげなく一番遠い場所を位置取る。
「ずっとここにいるみたいだけど、湊は大丈夫なわけ?」
「僕は大丈夫だ。このくらい」
いつもよりテンションの低い湊くんに釣られて微妙な雰囲気になる。あまり長居してもどう接していいのか困るだろうから早々に本題に入る。
「湊くんは、委員長が何であんなことしたか知ってる?」
「……ああ、多分な」
湊くんは少しずつ委員長の過去を話し始めた。
「僕らの両親は仲が悪かったんだ。二人はよく喧嘩をしていて、その皺寄せはいつも美月に行っていた。お姉ちゃんだからって、僕をいつも守ろうとして、庇ってくれた」
「特に母の方は癇癪持ちで、よく暴行をされたよ。父は子供に手を出すことはしなくて、それが原因でもっと大きな喧嘩に発展することもあった。小さい頃は普通に仲の良い家族だったんだけど、いつの間にかそうなっていた」
「十歳の時、両親が離婚することになって、男女で分かれることになったんだ。母と一緒になる美月のことが心配で、引越しの日、大きくなったら守ってやるって言ったんだ」
「……でも、その約束を僕は破ったんだ。高校で再会しても何もしなかった。水泳の授業の時に美月が毎回休んでいるのを、夏なのに毎日長袖を着ているのを、美月の助けてって言う声を全部、見てないふりをした」
「だから多分、美月は復讐したかったんだと思う。約束を破った僕と、何にも気づかなかった周りに。……結局、僕は美月を守れなかった」
沈黙が場を支配する。私は別として、茉莉と玲旺には衝撃的な告白だったみたいだ。玲旺なんかは親友のような立ち位置にいたから特に辛いんじゃないだろうか。
「なんで、言ってくれなかったんだよ、そんな大事なこと! 言ってくれたら俺たちだって……!」
「……言えるわけ、ないだろ」
泣きそうな顔の湊くんに玲旺は何も言えなり、歯を食いしばる。
正直なところ、私にも理解出来なくはない。でも、家からほとんど出れず、信頼できる人もいなかった私と比べれば、少し、甘いんじゃないかと思ってしまう。まだ何か方法はあったはずだと。
別に不幸自慢がしたいわけじゃない。けどそう思ってしまう。
異能の力に頼って実際に復讐をした挙句、優しく接してくれた綾目お姉ちゃんまで殺してしまった私がそんなことを思っていることに反吐が出る。
それに大事な友達のことなのに、どこか冷静に状況を俯瞰しているかのようで、
――そんな自分が、大嫌いだ。
片言キャラって簡単に個性出せて良いですよね(小並感)




