第13話「爆弾魔」
一章最終話です。
私は自分のクラスの委員長であり、校舎を襲う爆発系の能力者でもある長嶋美月と対峙していた。
委員長の足下には湊くんが倒れている。大した傷はなさそうだけど、委員長が何を仕出かすか分からないから助けないといけない。
「ふぅ……委員長、悪いけどあんまり時間をかけていられないから、ちょっと手荒になるよっ……!」
そう言って私は拳銃を構える。狙うのは足。まず敵の機動力を奪うのは戦いの基本だ。機動力さえ奪ってしまったら後はどうとでもなる。
そう思って撃とうとした瞬間、こっちに委員長が何かを投げてくる。反射的に目がそれを追う。
――石?なんでそんなものを?
一瞬引き金を引くか回避行動を取るか躊躇い、でもなんとなく嫌な予感がして、地面を蹴って右に転がることで避ける。
刹那、爆風が発生し、私は柵まで吹っ飛ばされる。
「くっ! あの石が爆発するのかっ!」
委員長が昼休みの時に石を持っていたのはさしずめ異能の力によって爆発物となった石を校舎中に配置していたと言ったところだろう。そりゃ爆発物なんて見つからないわけだ。でも、この石はあまり威力は高くないようで、床が壊れて落ちるなんてことはないようだ。
とはいえ、爆風は健在だ。そこまで広いスペースのない屋上でこれは分が悪い。
でも残念ながら校舎にはまだ少し人が残っているかもしれないからここで決着をつけるしかなさそうだ。
委員長を拳銃で牽制しながら(全て爆風で起動を逸らされるけど)、爆風を吸い込んでむせている湊くんを校舎の影に避難させる。
「ゲホッゲホッ! な、なんで美月が爆弾を? それに志乃さん、拳銃……!」
「いいから早く逃げてっ!」
食い下がる湊くんを異能で無理矢理避難するように仕向ける。湊くんが起こすであろう行動に少しでも逃げるという選択肢があるのなら、私はそれをさせることができる。でも、湊くんは動かない。
「……なんでっ!」
「僕はもう、逃げたくないんだっ……!」
昔湊くんと委員長の間に何があったのかは分からない。でも、今の状況でこれは洒落にならない。
もし茉莉がここにいたら、簡単に無力化できるのに、と愚痴るが、残念ながら茉莉は『暴食』と戦っているだろう。
冷静に無数に投擲されてくる石を、異能と拳銃を組み合わせて正確に撃ち抜いていく。
でもこのままじゃ埒があかない。残り少なくなってきた銃弾の数を数えながら、考える。
銃弾がなくなったら、私には遠距離攻撃の手段がなくなる。そうなったら負けは確実だろう。
……過去を変えるしかないのか?と考えること数秒。すぐに甘えた考えを振り払う。それは最終手段だ。
(仕方ない。アレをするか)
少し危険だけど、勿論死ぬつもりはない。だって復讐対象が他の奴に殺されたなんて、茉莉が可哀想だ。私は茉莉以外に、殺されるつもりはない。
影から飛び出して、委員長の方に突っ込む。
すると、予想通りに委員長は数個の石を投擲してくる。
突っ込んで引き金を引くだけじゃ爆発で先にやられて委員長には届かない。だから、こうする。
私は、石に向かって引き金を引いた。拳銃から放たれた弾丸は、浅い角度で石に向い、石で跳ね返って、他の石も経由して委員長の左肩を撃ち抜く。
「なっ!」
わざわざ石を投げてきてくれるのなら、それを使えばいい。
私が今やったのは跳弾だ。跳弾が起こる条件は三つ。命中角度が浅いこと、弾頭が変形しないこと、そして軽く速い銃弾である事。
私の銃弾は楓さんに頼んでオーダーメイドで作ってもらった、跳弾の起こりやすい弾。
何回も跳弾すると徐々に跳弾の確率は下がってくるが、そこは問題ない。私の能力でカバーできる。
肩を押さえ、うめき声をあげながら必死に逃げようとしている委員長に更なる追撃を加えるべく、銃口を向ける。
「ダメだっ!」
でも、それは背後から銃身を掴まれることによって止められる。
「美月をそれ以上、痛めつけないでくれ! もう戦意はないだろ!」
湊くんは何も分かってない。復讐者は、この程度で止まるはずがないのだ。情けをかけてはいけない。
無言で湊くんを振り払い、引き金に手を添える。でも、遅かった。
「捕まるくらいなら、ここで……道連れにしてやるっ……!」
次の瞬間、爆音が鳴り響き、床が全て崩れ落ちる。いや、床だけじゃない。校舎全体が、崩壊した。
*
あの事件からはや一ヶ月。私たちは、平和な日常を送っていた。
「はぁ……なんか起こらないかなぁー。志乃もそう思うでしょ?」
茉莉が机に突っ伏しながら愚痴る。
ぱくり。
「ねぇー、しーのー? 聞いてるー? ……こりゃダメだわ」
ぱくり。
その隣には、そんな茉莉の問いかけに答える気力もなく、最早アイスを一心不乱に食べる機械と化した私がいた。
夏の暑さも本格的になってきて、金欠な私は電気代を節約するため、SA探偵事務所に来ていた。実はもう一つ理由があるのだけど。ちなみに、アイスは必要経費である。
ぱくり。
校舎が崩壊したのになぜ生きているかって?それはすぐに分かるはずだ。
「もうすぐ客が来るからシャキッとしろお前ら!」
そんな私たちの様子を見た楓さんの声が響く。
「それにしても、玲旺のやつはいつになったら帰って来るんだ!」
「まーまー、楓さんもアイスいる? 暑いのにそうかっかとしてたら余計に水分消費しちゃうよ」
「喧しいわ!」
アイスは断られてしまった。美味しいのに……。それは兎も角として、私たちを纏めるのは非常に苦労が多そうである。胃を壊さなきゃいいけど。
私もこの生活に慣れてきた。まぁこれだけ接する時間が長くなれば、楓さんとも冗談を言えるような仲にもなる。
チリンと音が鳴ってドアが開く。
「帰ってくる途中で会ったからそのまま連れてきたぞー」
「ひっさしぶりデスネー! カエデ!」
「ふん、ガキばっかだな」
「うわぁ……あんた第一声がそれはないだろ」
「……」
「いや、君は黙ってないで何か反応示そ?」
そこにいたのは玲旺と、私たちを校舎の崩壊から助けてくれた特殊警察、異能対策班の人達だった。
初っ端からなんか個性的な人が多くて頭が痛くなりそうだ。