女性
翌朝、少女が目を覚ますと、窓の外は朝のはずなのに真っ暗な様子でした。
「いったい、何があったの?」
「あ? 魔女には関係ないことだっ」
兵士が持っていた槍を投げつけると、彼女の腕をかすめました。
彼はいま、とってもイライラしていました。
国内で争いが起こって、たくさんの場所で大砲が放たれて、真っ黒な煙をあげていたのです。
彼女が腕に目をやると、かすった場所から血が出ていました。
「何でわたしにやりを向けたの?」
「魔女のくせに、うるさいぞ」
「わたし、なにもしてないのに」
だんだんと怒りが湧いてきました。
そのとき、どす黒い雲の割れ目から稲光がとどろきはじめ、雷が鳴りました。
「ぎゃー、助けてくれ」
牢屋のこの建物に雷が落ちたのです。
くずれた壁が兵士に降ってきて、石の下敷きになりました。
少女は少し悲しそうな目で兵士を見ると、
「大丈夫? もう、やりを投げたりしない?」
と聞きました。
「あ、ああ、約束する。だから助けてくれ」
少女はゆっくりと手を左右に振りました。
すると、兵士の上にあった石はすーっと舞い上がり遠くに飛んで行きました。
兵士は、その光景を驚いた目で見ていました。
そして、逃げるようにその場を去りました。
その夜、兵士は王様のところに言って話しました。
「王様、あの雷は魔女のしわざです。あと風も操ります。このままにしていては危険です」
「うむ、わかった。ならば、魔女は別の場所に閉じ込めてしまえ」
兵士は自分を助けてくれた彼女を地下室の前に連れて行き、彼女に言いました。
「助けてくれたことは感謝する。でも、お前は危険な存在だ。人間にはどうすることもできない」
少女は何も言いませんでした。
「悪いが、ここでおとなしくしておいてくれ」
彼女はうつむきながら、地下室に入っていきました。
窓もない真っ暗な地下室に閉じ込められて、少女は思いました。
わたしは人間じゃない。
だから、人間と仲良くなんてなれない。
人間たちはわたしを嫌ってるんだ。
お父さんお母さんを殺した人間たちがわたしも憎い。
いつか復讐してやる。
それから月日は過ぎ、少女にとって、15回目の誕生日がやって来ました。
この国では、15歳になると大人だと認められていました。
街の広場では、大人の女性になった彼女を殺すための準備がはじまっていました。
まるで、お祭りのようにたくさんの人が集まって、魔女がやって来るのを待っていました。
彼女は地下室から連れ出されて、馬車に乗せられました。
馬車が広場のすぐ近くにやってきました。
彼女は周りが見えないように目隠しをされて、身体を縛られました。
すると真っ暗い雲が空をおおいはじめました。
集まっていた人々は騒ぎはじめました。
「どうした、周りが見えないぞ」
「きっと、この悪魔のせいだ」
「早く、この世から消えてしまえ」
「それで、すべて終わるんだっ」
彼女は耳をふさぎながら、大きな声で「うるさいいー!」と叫びました。
同時に、ドスンッ、近くで雷の落ちる音がしました。
彼女は、縛られている縄をほどこうと両腕を回しはじめました。
すると突然、外では風が強く吹きはじめました。
彼女が乗っていた馬車を中心にして、竜巻のように暴風が街をつつみました。
「助けてくれ」
「ぎゃーっ」
「飛ばされるぞっ」
たくさんの悲鳴が聞こえました。
でも、彼女はもう誰も助けようとしませんでした。
風が止まるまで馬車の中でじっと待っていました。
周りが静かになったのを確認して、彼女は目隠しをはずすと、ゆっくりと外に出ました。
その景色を見て彼女は驚きました。
周りにあったもの、人間や建物、全てがなくなっていたのです。
目の前に広がるのは真っ平らな地面だけでした。
そこに彼女ひとり、ぽつんと立っていました。
悪口を言うひとがいなくなった。
憎い人間たち、彼らの住む家も全て消えさった。
彼女は願いが叶ったはずなのに、嬉しくありませんでした。
こんな力なんて持ってたら、みんな恐ろしいのも当たり前。
わたしはみんな殺してしまった。
わたしの感情で、こうなったんだ。
こんな力なんていらなかった。
なんで魔女なんかに生まれてきたの?
彼女は、疲れ果てた様子でとぼとぼと歩きだし、さっきまでいた地下室に戻っていきました。