表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

女性


翌朝、少女が目を覚ますと、窓の外は朝のはずなのに真っ暗な様子でした。


「いったい、何があったの?」


「あ? 魔女には関係ないことだっ」


兵士が持っていた槍を投げつけると、彼女の腕をかすめました。


彼はいま、とってもイライラしていました。


国内で争いが起こって、たくさんの場所で大砲が放たれて、真っ黒な煙をあげていたのです。


彼女が腕に目をやると、かすった場所から血が出ていました。


「何でわたしにやりを向けたの?」


「魔女のくせに、うるさいぞ」


「わたし、なにもしてないのに」


だんだんと怒りが湧いてきました。


そのとき、どす黒い雲の割れ目から稲光がとどろきはじめ、雷が鳴りました。


「ぎゃー、助けてくれ」


牢屋のこの建物に雷が落ちたのです。


くずれた壁が兵士に降ってきて、石の下敷きになりました。


少女は少し悲しそうな目で兵士を見ると、


「大丈夫? もう、やりを投げたりしない?」


と聞きました。


「あ、ああ、約束する。だから助けてくれ」


少女はゆっくりと手を左右に振りました。


すると、兵士の上にあった石はすーっと舞い上がり遠くに飛んで行きました。


兵士は、その光景を驚いた目で見ていました。


そして、逃げるようにその場を去りました。



その夜、兵士は王様のところに言って話しました。


「王様、あの雷は魔女のしわざです。あと風も操ります。このままにしていては危険です」


「うむ、わかった。ならば、魔女は別の場所に閉じ込めてしまえ」


兵士は自分を助けてくれた彼女を地下室の前に連れて行き、彼女に言いました。


「助けてくれたことは感謝する。でも、お前は危険な存在だ。人間にはどうすることもできない」


少女は何も言いませんでした。


「悪いが、ここでおとなしくしておいてくれ」


彼女はうつむきながら、地下室に入っていきました。


窓もない真っ暗な地下室に閉じ込められて、少女は思いました。


わたしは人間じゃない。


だから、人間と仲良くなんてなれない。


人間たちはわたしを嫌ってるんだ。


お父さんお母さんを殺した人間たちがわたしも憎い。


いつか復讐してやる。



それから月日は過ぎ、少女にとって、15回目の誕生日がやって来ました。


この国では、15歳になると大人だと認められていました。


街の広場では、大人の女性になった彼女を殺すための準備がはじまっていました。


まるで、お祭りのようにたくさんの人が集まって、魔女がやって来るのを待っていました。


彼女は地下室から連れ出されて、馬車に乗せられました。


馬車が広場のすぐ近くにやってきました。


彼女は周りが見えないように目隠しをされて、身体を縛られました。


すると真っ暗い雲が空をおおいはじめました。


集まっていた人々は騒ぎはじめました。


「どうした、周りが見えないぞ」


「きっと、この悪魔のせいだ」


「早く、この世から消えてしまえ」


「それで、すべて終わるんだっ」


彼女は耳をふさぎながら、大きな声で「うるさいいー!」と叫びました。


同時に、ドスンッ、近くで雷の落ちる音がしました。


彼女は、縛られている縄をほどこうと両腕を回しはじめました。


すると突然、外では風が強く吹きはじめました。


彼女が乗っていた馬車を中心にして、竜巻のように暴風が街をつつみました。


「助けてくれ」


「ぎゃーっ」


「飛ばされるぞっ」


たくさんの悲鳴が聞こえました。


でも、彼女はもう誰も助けようとしませんでした。


風が止まるまで馬車の中でじっと待っていました。


周りが静かになったのを確認して、彼女は目隠しをはずすと、ゆっくりと外に出ました。


その景色を見て彼女は驚きました。


周りにあったもの、人間や建物、全てがなくなっていたのです。


目の前に広がるのは真っ平らな地面だけでした。


そこに彼女ひとり、ぽつんと立っていました。


悪口を言うひとがいなくなった。


憎い人間たち、彼らの住む家も全て消えさった。


彼女は願いが叶ったはずなのに、嬉しくありませんでした。


こんな力なんて持ってたら、みんな恐ろしいのも当たり前。


わたしはみんな殺してしまった。


わたしの感情で、こうなったんだ。


こんな力なんていらなかった。


なんで魔女なんかに生まれてきたの?


彼女は、疲れ果てた様子でとぼとぼと歩きだし、さっきまでいた地下室に戻っていきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ