少女
街の外れにある、小さな小屋に親子がひっそりと暮らしていました。
少女はひとりで外を出歩かないように、と強く両親に言われていました。
でも、両親が出かけたある日、こっそり家を抜け出して街の方に行ってみることにしました。
街には広場があって、たくさんの人たちが集まっていました。
はじめて見た景色に興味しんしんで、キョロキョロと目を動かしていると、
(おい、あれって)
(あー、間違いない)
(早く、だれか)
ざわざわとした中で、誰かが話していました。
女の子は周りの人たちに見られている感じがしました。
急に恐ろしくなって帰ろうとしたとき、後ろから誰かに腕をつかまれました。
なんとか必死に抵抗しましたが、お腹を殴られて少女は気を失ってしまいました。
しばらくして少女は目を覚ましました。
彼女はとてもきれいな真っ赤な瞳をしていました。
少女は自分がどこにいるのかわかりませんでした。
目の前には、柵があって、その向こうに兵士がひとり立っていました。
少女は牢屋の中にいたのです。
「え、どうして?」
小さな声でつぶやきました。
兵士はその声に気づきました。
「やっと目を覚ましたか、魔女の子よ」
「魔女?」
「ああ、その赤い目が何よりの証拠さ」
彼女はまだ自分が魔女だと知りませんでした。
両親は知っていましたが、それを秘密にしていたのです。
『真っ赤な眼は魔女だけが持っているもの』
人間たちはそう信じていました。
「ねえ、お父さん、お母さんはどこ?」
「今ごろは、街の広場だろうな」
「あの広場に? なんで」
「なんでって、魔女の親だからさ。お前のせいだな」
少女はもう何も話しませんでした。
こっちを見てニヤニヤと笑っている兵士の顔が、とても恐ろしく、
お父さんお母さんに何か良くないことが起こってると感じたのです。
その夜、彼女は不思議な夢を見ました。
街の広場に両親が立っていました。
そして、大きな木に縛りつけられていました。
その周りを囲むように、たくさんの人たちが群がっていました。
「あれが、悪魔の親か」
「早く、この世から消えてしまえ」
「あたしらをだましてた罰だよ」
汚い言葉が次々と飛んでいました。
言葉と一緒にたくさんの人たちが、両親に石を投げつけました。
最後には縛りつけられている木に、火をつけました。
「これで、一安心だな」
「やったぞー!」
どこからか歓声が上がっていました。
両親は声を上げることなく、炎に包まれていきました。
とても悲しい夢でした。
少女ははっとして目を覚ましました。
今のは本当に夢?
でも、あれはわたしが行った広場だった。
街の人たちの顔も見たことがあった。
あの人たちがお父さん、お母さんを殺したの?
あれは悪いことをした人が受ける罰。
ふたりは何も悪いことしてないのに。
わたしが魔女に生まれてきたから、二人は殺されたんだ。
「なんでわたしを殺さなかったの!」
少女は思わず叫んでしまいました。
兵士は、うるさい、と怒鳴ったあと、
「この国の決まりで、魔女の子どもは大人になるまで殺してはいかん」
「決まり?」
「子どものときに殺したら、また誰かが魔女の子どもを産んでしまうんだ、わかったら早く寝ろ」
兵士の言葉で、さっきのが夢でないとわかって涙があふれてきました。
「これが魔女の力? こんな悲しい力なんていらない」
少女は泣きながらつぶやきました。
すると小さな窓から、光が見えました。
夜中なのに、昼間より明るい光が差し込んでいます。
「あれって、もしかして天使さま?」
(この心を、あんなに明るくできたらどんなに幸せだろう。いつかそんな日が来ますように)
彼女は光に向かって、そう願いながら再び眠りにつきました。