6奇跡
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病院へ戻ると、ユウはそのままリエの個室へ行った。
本当は見つかったら看護師さんにこっぴどく叱られるけれど、そんなことはもうどうでも良かった。ただ、お互いの心が通じ合った今を、一秒でも無駄にしたくないという、気持ちだけが逸る。
僅かな飲み物だけが置かれた、殺風景なリエの個室で、初めて二人きりになった。
「良かった、リエさんに出会えて」
「私も、ずっと覚えていてくれて、ありがとう」
二人は見つめ合うと、そっと抱きしめ合う。リエの体は驚く程細く、まるで少しでも力を入れたら粉々に砕け散ってしまうんじゃないかというくらい、脆く感じた。
それから小一時間一緒に過ごすと、ユウは何事も無かったかのように、自分の病室へと戻った。
リエと思いが通じた!それが嬉しくて、その日は眠れぬ夜を過ごした。
十日後、再び二人はカフェテリアで待ち合わせした。
しばらくの間、ユウの抗がん治療の後遺症や、リエの体調の関係で、大人しく病院内でデートを重ねていたが、昨日からお互いの体調が落ち着いたので、今日は徒歩で病院の近くにあるカフェに行こうと約束していたからだ。そのカフェは先日タクシーで出かけた時、偶然見つけたお店で、何と病院から一本駅よりに入った路地の真ん中に、ぽつんとあった。
まるでログハウスみたいな素朴な雰囲気で、とても可愛らしくて、二人の中ですぐに次のデート先として決まった。
「ここなら、すぐに戻れるし、病院の人に見つかる心配もないね」
そう言うと、リエはほっとしたように微笑む。
綺麗だな、とそんな笑顔を見て、ユウも自然と幸せの笑みがこぼれた。
アイスカフェオレを二つ頼み、ゆっくり飲みながら小一時間話をした後、店内に売っている手作り雑貨を物色する。黒と白のお洒落な水玉柄のハンドタオルを見つけると、初めてのお揃いとしてユウは迷わず二枚買った。本当はラッピングしてもらいたかったけれど、握力が殆どないリエのことを考えて、すぐ使えるようにタグだけ外してもらう。
「リエさん。ペアリングの代わりね」そう言って手渡すと、リエは心底嬉しそうにハンドタオルを抱きしめて、ユウを見た。
「ありがとう。大切にするね!お棺に入れてもらうように、親に頼んどかなくちゃ」そんな笑えないことを照れ隠しに言うリエに苦笑しながら、二人は手を繋いで病院へ戻ることにした。
リエのペースに合わせて、ゆっくりゆっくり来た道を歩く。病院の目の前の横断歩道が見えると、そっと繋いでいた手を名残惜しそうに離した。
が、その時、リエの手からふわっと、握っていたハンドタオルが落ちた。
奇しくも風が強かったことから、ハンドタオルはふわりと空を舞い、横断歩道を渡って行く。
「あ、待って!」
思わずユウは横断歩道に出た。幸い信号は無いので、いつでもハンドタオルを拾うことができる。左右から車が来ないことをさっと確認すると、素早くハンドタオルの落ちた場所へと向かい、しゃがみ込んだ。
しかし次の瞬間、リエの悲鳴が上がる。
ハンドタオルを拾い、リエの元へ戻ろうとしたユウも、驚いて目を見開く。
何と、もの凄いスピードで一台の軽自動車が、突如横断歩道に侵入して来たのだ。
嘘だろう?!
さっきまで、何もいなかったのに…。
そう思うが早いか、ユウの体ははねられ、アスファルトに激しく叩きつけられた。
「森さん、気が付きましたか?」
医師に声をかけられて、ゆっくり目を開ける。
どうやら車にはねられたけれど、一命を取り留めたらしい。
全身に感じるありえないくらい強い痛みと、包帯でぐるぐる巻きの両腕に気が付いて、はっとする。
そう言えば、リエさんは?
一緒に病院の近くのカフェに出かけて、内緒で戻って来る時に轢かれたから、きっとリエが病院に連絡してくれたのだろう。
「あのぅ、木下さんは?木下リエさんは…無事ですか?」
勇気を出して聞いてみると、近くにいた看護師さんが慌てた様子を見せた。
もしかして…!
ユウの心に、嫌な予感が走る。
すると看護師さんは、ユウの思惑通りの最悪の答えを返して来た。
「木下リエさんなら、昨日亡くなりましたよ」
嘘…!!
ユウはとてつもなく悲し過ぎて、しばらく目を見開いたまま、真っ白な天井を見上げ続けた。
お話を読んでくださり、本当にありがとうございます。
次話で完結になります。
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