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3それぞれの道

いつもありがとうございます。

昨日連載開始した「透夏」といずれリンクさせます。

どうぞお楽しみください!

 それからユウは、普通の高校生に戻った。さぼり気味だった部活にも真面目に行くようになり、学校での態度も少し変えた。今まではたくさんの女の子達がまるでアイドルでも見るみたいにユウに寄って来てくれるのに応えようと、いちいち愛想を振りまいたりしていたけれど、それを一切止めて、なるべくトオルと一緒にいるようにした。

トオルは入学以来の腐れ縁だけれど、お洒落に全く興味無いらしく、いつも髪も洗いっぱなしで、時々寝ぐせのついたまま学校へ来る。しかも、部活で汗まみれになっても、持って来たタオルでざざっと拭うだけで、制汗スプレーとか、汗拭きシートすら使う気が無いようだった。

こいつ、顔も性格もそこそこいいのに勿体ないな、というのがユウに本音だった。でも、勉強も運動もできて学級委員を務める誠実なトオルは、生徒からも先生からも好かれていた。そして、そんな無頓着なトオルに、なんと夏休みの初めに可愛らしい彼女ができた。

何でこいつに彼女が?!と思ったやつは、絶対に多いに違いない。

お洒落の欠片もなく、私服だってかなり微妙な感じなのに、何故?!と最初は目を疑った。しかも彼女は高校にしては珍しい転校生で、夏休みの少し前に他県からやって来て、すぐにトオルと付き合い始めた。

くりくりした目の、華奢で可憐な彼女は、ミサキちゃんという子だった。まるで小さい子みたいに無垢な表情をするミサキちゃんと、トオルは確かにお似合いのカップルだ。

そんな二人と一緒にいると、次第に女の子達はユウに寄って来なくなった。

もう一人、入学からの腐れ縁のごくごく常識的な友達と四人で、残りの高校生活を楽しく過ごした。

 高校を卒業した初めてのゴールデンウイーク、久しぶりにトオルから連絡が来た。

どうやら、ミサキちゃんの故郷の海へ、皆で遊びに行かないかというお誘いらしい。トオルは高校での勉強を頑張り、ついに念願の地元の国立大へ進学したばかりだ。ミサキちゃんはその近くの私立の女子大へ。ユウはどうしても勉強に集中できず、浪人していた。

「受験生だから、ムリ」と最初は断った。誰が楽しくて、受験勝組のラブラブカップルと、三人で海に行きたいかよ?と心から思った。でも、トオルの次の言葉が、そんなユウの気持ちを揺らした。

「リエさんも誘ってみたら、来てくれるって。ユウが来るなら是非にって言ってたけど、どうする?」

「行く!!」

リエの名を聞いて、即答した。

もう会えないかと思ったリエさんに、また会える。そう思うと、行く以外の答えは完全に消えた。


 当日、四人は待ち合わせした駅から海へと向かった。

新幹線と特急電車を乗り継いで行くその海は、日本海側にある有名な海岸だった。トオルとミサキちゃんは相変わらず仲良さそうで、ユウはそんな二人から目を逸らし、隣に座るリエをちらっと見る。学年が二つ上のリエは、女子大の三年生だ。高校生の時よりも更に綺麗になったけれど、どこか悲しげな表情を時々するのが妙に引っかかる。

 五時間かけて海に着くと、早速トオルとミサキちゃんは、きゃっきゃっと波と戯れながら浜で遊び始めた。リエと二人砂浜に並んで座り、ユウは離れていた時間に起きた他愛もない出来事を面白おかしく話して聞かせた。リエもそんなユウの話を時々笑い声を上げながら、目を輝かせて聞いてくれた。その日は予約していた海沿いの旅館に、四人で泊まることになっていた。流石にまだ学生なので、部屋は男女別だ。海の幸が贅沢に使われた夕食を食べ、お酒が少し入ったまま、気が付けばユウはリエと旅館の外で星を眺めていた。

「来年大学に合格できなかったら、地元で就職しようかと思ってる。正直勉強はあまり好きじゃないから、その方がいいかな、って。そしたら、リエさんより一年早く、社会人一年生になれるね」

「そうだね」

返事をしながら、リエは悲しみに満ちた目で空を見上げる。

次にユウが言う言葉が、何となく分かり、どうしようもなく辛い。今回の旅行は、今度こそすっかりユウを吹っ切ることができると思い参加したのに、やっぱり顔を見るとそんなことはとてもできないことを、何度も思い知らされる。しかも、ユウも高校の時から気持ちが全く変わっていないらしく、まるで何事も無かったかのようにリエに優しい。どうしたらいいの?リエはやり場の無い悲しみを抱えたまま、目を伏せた。

「リエさん、俺ちゃんと働くから、俺と付き合ってくれない?俺、やっぱりリエさんが好きなんだ」

三度目の告白。本当は頷いてその手を二度と離したくない。でも、今のリエには、ユウの手を取ることなど、とてもできなかった。

「ごめんね」

初めて心から謝った。ユウが一瞬目を見開くも、必死で平静を装っていることが痛い程分かる。

「ごめんね。実は私色々あってね、男の人が怖いの。だから、ユウくんでも男の人と付き合うのは、もう無理なの」

「えっ…?リエさん、どうしたんだよ?!」

それから、泣きながらリエが話してくれた内容は、衝撃だった。

どうやらリエは、あれから付き合っていたアルバイト先のマネージャーからストーカーされ、すぐに分かれたらしい。そして、それを偶然再会した幼馴染の男に相談し、優しくしてくれたその男と付き合うことになるも、そいつは何とDV男だった。

「中学の時にね、学校で酷いイジメにあった時、庇ってくれた子だったの。家も近くで、バイト先に時々買いに来てくれていてね。色々相談しているうちに付き合ったんだけど、だんだん殴られるようになってね」

どうやら、ファーストフードのマネージャーにストーカーされた時、マネージャーを恫喝して助けてくれたんだとか。が、いざ彼として付き合うことになると、デート中に気に入らないことがあると、殴ったり蹴ったりすることが日常茶飯事になっていったらしい。

「あまりに怖いから、もう別れてくださいって頭を下げたの。そしたらね、酷い暴力されて、前歯が折れちゃった。これ、差し歯なの。分からないでしょう?」

そう言って力無く微笑む綺麗な口元には、本物と分からない真っ白い歯がちゃんとある。

「私、ユウくんを忘れようと思って二回男性とお付き合いしたけれど、皆モラハラやDVばかりでね。ユウくんはそんな人じゃないって、よく分かってる。でももう無理なの。男の人が怖くて、怖くて堪らないの。だから、卒業後は女性の多い職場を探して、働こうと思ってる。ごめんね。本当にごめんね」

そうか…。とユウは優しい笑みを浮かべたまま頷く。

もう、リエさんに近寄ってはだめだ。男性が怖いリエさんに、これ以上怖い思いをさせてはいけない。今はリエさんの心の傷が少しでも癒えるよう、そっとしておいてあげるより、いい方法なんてない。

「分かったよ。リエさん、こっちこそ無理言ってごめんね。ここ空気もいいし、ご飯も凄く美味いから、ゆっくり旅行楽しもうよ」

「うん、ありがとうユウくん」

そう言ってほっとしたように涙ぐむリエを見て、ユウは決心した。

遠くへ行こう。ちゃんと受験勉強して、なるべく遠くの学校へ進学しよう。そうすれば、リエさんをそっとしておいてあげることができるから。

お酒を買ってくると言って、笑顔のままリエの隣を離れる。一人になるとユウは声を殺して泣いた。誰にも聞こえない旅館の看板の裏で、しゃがみ込み、誰にも見つからないように、夜が更けるまで嗚咽し続けた。















いつも読んでくださり、ありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

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