5月7日 機械少女とお買い物
何処までも黒い、星も、月も雲に隠された夜に、
人影が一つあった。女だ。
おぼつかない足取りにふらふらと揺れる身体。
酒の匂いを撒き散らしながら、
女は一歩一歩移動していく。
周りは静まりかえった住宅街だ。
街灯の光が道を照らす。
そして、道の反対から歩いてくる
もう1つの人影があった。
背が高く、黒いパーカーに身を包み、
ジーンズのポケットに手を突っ込んでいる男だ。
顔には皺があり、少し老いて見える。
女は向かってくる人影の事など
気にもとめずに歩き続けた。
段々と近づいていく。
2つの影が、すれ違った。
刹那、女の喉にナイフが突き刺さる。
女は驚き叫ぼうとするが、声は出ず激痛が走る。
既に声帯は切り裂かれていた。
女は倒れ込む。
男はカメラを取り出し、苦痛に藻掻く女を撮った。
炊かれたフラッシュの眩しい光が、
女の首に刺さる1本のナイフに反射して輝いていた。
男はその場を後にし、ある居酒屋へ向かった。
居酒屋「花園」
そこで人と約束があったのだった。
店に入ると、「いらっしゃい!」
と威勢のいい声に出迎えられた。
中々に賑わっていて、人が溢れんばかりにいた。
辺りを見渡し、カウンター席に座る
丸眼鏡の女を発見した男は
彼女の隣に腰を下ろし、話しかけた。
「よぉ、朝顔ちゃん」
朝顔、と呼ばれた女は男に微笑んでみせた。
「こんばんは、弟切さん」
彼女は柔らかな雰囲気を纏う女性で、
背が高く、ボブの髪型が似合っていた。
年齢は20代くらいのように見える。
「じゃあこれ、今回もよろしく」
男は1枚の写真を彼女に手渡した。
彼女は写真を一瞥し、言った。
「相変わらず、凄いですね」
「そうでもねえよ?俺にかかれば簡単だ」
写真には、首にナイフの刺さった女の
苦しむ姿が映されていた。
「期限までに、届けておきますね」
「よろしくな」
男は酒を注文し、話し始めた。
「幼稚園はどうよ、上手くやってるか?」
「なんとかやってます。大変ですけどね」
「そいつは良かった」と男は笑った。
「もしどうしても困ったら、戻ってこいよ。
お前の銃の腕はピカイチだからな」
「ありがとうございます。頑張ってみますね」
女は嬉しそうな表情をした。
「そう言えば、知ってます?殺し屋殺しの話」
「ああ、知ってる。
優秀な殺し屋に賞金がかけられるやつだろ」
「それです。で、ですね。もしですよ、
弟切さんに賞金がついて、私に依頼が来たら」
女は口角を上げ、笑みを浮かべ言った。
「有給取って、殺しにいきますから」
男も同じく笑みを浮かべた。
「まあ、殺し屋なんてそんなもんだよな。
いいぜ、かかってこいよ。負ける気がしねえからな」
第一部、第四部を少し修正しました。