5月6日 機械少女と影
霧が街を覆って、
煌めく月光が闇を切り裂く夜に、
人影が1つあった。
着ている黒いロングコートが夜と同化している。
背はそれほど高くないが、
異様な緊張感を放っていた。
1歩進む度に辺り一体の気温が急激に下がり、
凍てつくようだった。
人影は住宅街を歩いている。
街頭が道を明るく照らしていた。
そのうち、ありふれた一軒家の前で影が止まった。
表札には「初芽」と書かれている。
人影は口元を歪ませた。
愉快そうに家を眺める。
目の前に胸の高さ程の塀があり、
二階建てで、電気はどこもついていない。
大小様々な窓があり、登れそうな突起はない。
辺りを見回し人に見られていないか確認した後、
人影は勢いをつけ塀によじ登り、その上に立った。
腰に隠していた2本のナイフを抜き、壁に飛びつく。
両手のナイフを壁に深く刺しこみ、
柄の部分を足場にして跳んだ。
二階の窓のサッシを掴む。
3本目のナイフを抜き、
窓に打ち付けガラスを突き破り部屋に侵入した。
ここは丁度寝室だったらしい。
寝ていた老年の男が物音に驚いている。
次の瞬間、人影は男を蹴り飛ばした。
身体を打ち付け、鈍い音がする。
人影はナイフを男の首へ押し当て、笑う。
「死ぬ前に、言い残す事はありますか?」
男は身体を震わせ、表情は恐怖に満ちていた。
声すら出ないようだった。
「特に、無いみたいですね。じゃあ、さようならです」
部屋の壁に血潮が広がった。