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瞬殺のレシピ

 「お、お願い致します!!」


 そっと床に手を添え、頭下げるお手本の様な土下座。


 「何卒、何卒、その指輪を私めに!」


 そう懇願するの偉大な賢者イズール・レイナード、その目的はミスリル指輪、メアリーやティファにあげた、劣化版である。

 イズールの話を聞く限り、古代魔法とは私の知る魔法で間違いなさそうだ、と、言う事は魔法が衰退し、あの欠点だらけの魔術が広まったと言う事。

 そして、魔法の媒体は、古代の遺産(アーティファクト)と呼ばれ多くは聖教が管理し、それは表に出る事がないと言う……。


 ——あやしい、あやしすぎすぞ、聖クリッド教!!


 「コレはそう安易(やすやす)とお譲りする事は出来ません」


 存在していたとは言え、古代の産物、それを知ってホイホイと譲る事など出来ない。

 出所を調べる者が現れるかも知れないし、もっと言うなら、ヤバイ組織に目を付けられる事も考えられる。


 「高価な物である事は承知している! か、金ならいくらでも払う!

 頼む、頼みます! お願い致します! 何卒、何卒〜!!」


 床に頭をガシガシと叩きつけ懇願するイズール、それは大人がダダをこねて物を欲しがる究極の形に見えた。



 ——んー、どうしたものか……。


 

 イズールが諦めるとは思えない、この勢いだと毎日の様に訪問してくるだろう、それは非常にウザい。

 かと言って、簡単に上げるのも……。


 ——よし!


 「わかりました、では3つ条件を出します、まず……」


 「ほ、本当ですか! 私の出来る事であれば何でも!」


 私の話を遮り、立ち上がるとテーブルの上に置いてある指輪に手を伸ばす。

 待てを耐えきれなかった子犬の様に……。


 「この戯けが!」


 私はそれを手で叩き阻止する。


 「メアリーがその指輪を手にするまでにどれ程の努力したとお思いですか! 

 しかも、努力の先にこの指輪の存在はありませんでした。

 私がその努力、結果を認め、そして弟子として認めた証、そう簡単に手に出来る物ではありませんよ!」


 「で、では私も貴女の弟子に……」


 「あぁん?! 寝言は寝て言えよ? 聞いてなかったのか? 努力と結果を認め弟子にしたと言っただろ!

 メアリー、コイツを貴女の弟子候補に推薦します」


 「え、え?!」


 突然の事に目を丸くし、硬直するメアリー。


 「マナ吸収、マナ循環を指導し、ある一定のレベルに達したら弟子にして、その証としてその指輪を渡して上げなさい。

 あくまでも候補の推薦、メアリーがそれを拒否すればそれまで、指輪は諦めないさい! これが1つ目の条件」


 「ちょ、ちょっと待ってくださいリラ様! で、弟子って私のですか?!」


 ——当然その通り! めんどくさいのは丸投げじゃ!


 「そうだよ? あっ、そう言えばさ、私がファストーロに行っている間、メアリーに任せたい事があるって言ったじゃん?

 アレなんだけど、ランスとアルフレッド王子、それとルークかな、その3人もメアリーの弟子候補に推薦しておくからよろしく」


 「え、え?」


 メアリーの思考が止まったが想定内、私は話を進める。


 「誰がメアリーの一番弟子になるか楽しみだよね、じゃあ2つ目、この指輪の事は一切の他言、詮索はしない事、したらわかってるよね?

 そして、3つ目……、キミさぁ〜クラークの親友なんだってね、キミのせいでさ、大変な事になったんだよね〜、第四公国騎士団、団長ボーバールと副団長クラークの弱点、秘密何でも、知っている事全て話してもらおうかぁ〜」


 さすがは魔法オタク、指輪欲しさか何たのかペラペラと、2人の家族構成やら収入出費のお財布事情、遂には確実に息の根を止められる様な話まで……。


 使えるじゃないかイズール・レイナード!


 ——ひゃっひゃっひゃっひゃあぁぁー! 天は我に味方せり!! 瞬殺だ! これは瞬殺案件だぁ!!

 

 私は瞬殺のレシピを完成させるべく、2人を残し部屋へと向かう。


 「オホホホッ、では後の事はお若いお二人に任せて、お邪魔な年寄りは退室するとしますかねぇ、オホホホッ」


 「「……」」



 後日談だが、メアリーは強い押しに負け、イズールはメアリーの弟子候補となる。



 私は部屋に戻り、得た情報を精査すべく、トトたちを王都全土に放つ。


 ——フッフッフー、待っていろ、お前は何も出来ずに敗北する。



◆◇



 私は次の日から全ての用事をキャンセルし、得た情報を元に書き込み。

 当然、私は1人で出歩く事はまだ許されず、イズールを出しに使い、メアリーと3人で捜査開始する。


 一件、また一件と書き込みするにつれ、出てくる2人の秘密……。


 ——こりゃ、決まりだな……。


 西区にあるとある店先、準備は完全に整った! 後は仕込むだけだ。


 「よぉし! 次は団長さんの家と副団長さんの家に突撃だぁぁ!」


 「ちょ、ちょっと待って下さい! 話した私が言うのも何なのですが……、な、何か可哀想な気が……。

 それに、親友を裏切った様な罪悪感も……」


 「そ、そうですよ、突然、ご自宅に訪問なんて……」

 

 2人が乗り気で無くとも関係ない、私の策はこの一手で完成するのだ!


 「大丈夫、大丈夫、訪問するのはイズール君だけだし、この指輪を奥様方に渡して一言添えて貰うだけだから〜」


 「え?! そ、その指輪はもしや!」


 「普通の黒曜鉄を加工した安物だよ? だけどね、コレが上等な物になるのだよイズール君」


 魔法の媒体かと疑い穴が開くほど指輪を見つめるイズール、メアリーも不思議そうに首を傾げる。


 「ただこの指輪を渡すだけじゃ、何も起きないよ? イズール君、キミの魔法の呪文が必要なのだよ」


 「ま、魔法の呪文……ですか?」


 「そう!『コレ、安物だけど綺麗でしょ?』って旦那さんに見せて言うと旦那さんが高価なプレゼントと交換してくるよって渡してね」


 疑問符を頭の上に浮かべる2人。


 ——まあ、そうだよね〜、フフフッ模擬戦が楽しみだ。


 「ちょ、ちょっと待って下さい! どんな話の流れでそれを言うんですか?!」


 「それはイズール君にお任せ〜」


 私たちは楽しい楽しい雑談をしながら中央区、団長邸と副団長邸へと向かう。


 

 読んで頂きありがとうございます。


 次回投稿は1月10(月)の予定です。

 

 多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。


 応援宜しくお願いします。

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