賢者様再び
「はあ……」
夕食後の席、私は無意識にため息を吐く。
「リラ今日どうしたの? 食事前から変よ?」
「今日ちょっとお城で……」
私は激反省していた、デローグと対峙した時、確実に勝てる相手に余裕があった。
相手を煽るのも言葉を選び、そして最後の結果、決闘に持ち込む事が出来た。
しかし、今回は私が逆立ちしても勝てない相手、それでも初めは冷静だった。
——どこで間違えたかなぁ〜。
「あっ、身分証の事ね、聞いた時は私も驚いたけどそんなに気にしなくても良いんじゃない?」
母様が心配してくれているが、当然、そんな事ではない。
「それに関しては、有り難く受け取ったのですが……、その後、ランスタッチ団長さん? と少し……」
「え? 第四公国騎士団の?」
「ランスタッチ騎士団長と言えば、この国で5本の指に入るほどの猛者ではありませんか。
私が手合わせをお願いしたい1人でもある方ですね」
——へぇ〜、あのオッサン、やっぱり強いんだ。
「で、その団長さんがどうしたのですか? はい、お茶です」
お茶を用意してきたメアリーが不思議そうに言う。
「ありがとうメアリー、私、その団長さんと……、3日後、模擬戦をする事になりました」
「「「え?」」」
「あっ、模擬戦と言っても名ばかりな物で、団長さんは一切手を出しません、私が一方的に打ち込む……? 訓練方式なのですが、勝敗を設定認め模擬戦と言う事になりました。
10分以内に団長さんに負けを認めさせれば私の勝ちって事みたいです」
当然、一同はどう言う経緯でそうなったのか気になる様で……、説明する事に。
「まあ、なんと言いますか……、売り言葉に買い言葉で、カァーッとなっちゃったのかなぁ〜、小僧がぁ!!!ってね」
「え? ランスタッチ騎士団長がそうおっしゃられたのですか?」
「ううん、私が?」
「えっ、え? 誰にですか?」
「団長さんに?」
「「「……」」」
一同、言葉を失う、私は変な空気に耐えられず、続きを話す。
「でも、ここまでは問題なかったの、団長さんも反省している様だったし、許してやろっかなぁ〜って」
「え? ちょ、ちょっと、反省? だ、誰がですか?」
「団長さん?」
「じ、じゃあ、許してやろうと思ったのは?」
「私?」
「「「……」」」
所々、変な沈黙が流れる……、が、気にせず続けた。
「ほら、私と団長さんが言い合いになった時、他の団員もたくさんいたじゃん?」
「は、初耳ですが……」
「まあ、いたのよ、そしたらもうカンカンよ! でもさ、そんなのさ、外野は黙ってろ! ってなるじゃん?」
「ま、まさか……」
「あっ、言ってないよ? 心の中で叫んだの、私ももう子供じゃないんだから」
「「「……」」」
先程とは違う、一同、ホッとした様な沈黙。
そして、そんな空気に私は行けると判断した私は、騒動のクライマックスを語る。
「でも、その外野が全然収まらなかったの、私にも我慢の限界はあるよ。
その他大勢が舐めた口聞いてんじゃねぇーぞ! テメーらまとめて相手してやるよ!! って」
「……お、思っただけですよね?」
「ううん、言った」
「じょ、冗談ですよね?」
「いや、マジ」
「「「……」」」
母様は一点を見つめ、ルークもメアリーも言葉失う。
無茶苦茶なのは自分でもわかっている、しかしあの場のあの時の私は止まらなかったのだ。
今までにも腑に落ちない事が何度かあった、ティファが生死を彷徨っている時、メアリーたちが誘拐された時……、確かに感情は揺さぶられたが爆発する事はなかった。
しかし、最近……、ミランが怪我をした時や、今回……。
なにか根本的に私自身が変わって来ている気がする……。
まあ、そんなこんなで、隊長さんが落とし所として、今回の模擬戦となったのだ。
母様には散々お灸をすえられ、ルークに呆れられ、私は現在、寝室で猛烈に反省している事になっている。
——んー、どうシュミレーションしても……。
私の魔法はほとんど回避されるが破壊されるだろう、物理……、マナを乗せたとしてもあの人には通用しない。
指輪の力を使えばどうとでもなるのだが、変身なんてしたらそれこそ大事だ……。
私はふと一冊の書が目に入る。
魔導門の書……、あのレダと言う人にもらった書、実はこの書が何なのか、私は知っている。
魔術の境地を上げる、魔族に伝わる秘伝書だ。
そして、私にこれが向かない事も知っている。
私の得意なのは魔法、魔術じゃない。
——あれ? そう言えば、魔術って……、あれ? 何だったかなぁ。
ダメだ、何か思い出しそうで、思い出せない、いつもなら何かしら思い出すのに……。
靄がかかっている様な……、いや、靄というより凄く遠くにある様な……。
私は諦め布団の中で思考を放棄した。
そんな中、屋敷を見守るトトから不審人物の知らせが届く。
駆けつけてみると、そこにいたのは偉大な賢者、イズール・レイナード。
モジモジとしながら門前を行ったり来たりしている姿は、賢者の面影は一切なく、可愛らしくも見えた。
「どうしたんですか、こんな時間に」
「い、や、どうしてもあの時の魔法が気になりまして……」
よく見ると数日前、会った時よりも肌艶が悪く、睡眠不足なの隈がひどい。
——しゃーない。
「どうぞ」
少しならと母様に言われ、私はイズールを応接の間に案内する、あの場にいたメアリーも一緒だ。
「時間を作って頂き……」
「時間がないし、そう言うのいいから」
「そ、そうか、先程も申したが以前見た魔法の事だ、ア、アレは古代魔法なのか?!」
噂通り魔法オタクの様だ、それが気になりここ数日寝ていない様な顔をしている。
「古代魔法が何なのか私たちには分かりかねます、けど見る限りそうかも知れませんね」
「み、見る?! い、いつ!」
「まあ、取り敢えずその古代魔法を見せて下さい」
イズールはまだ何か言いたそうにしていたが、それを了承し魔法を披露する。
「フレイム、実は私のマナ属性は……」
弱々しい炎がイズールの手のひらから現れる、その炎の火力は安定せず、大小と大きさを変えていた。
「もう、良いです、弱いとは言え万が一家が燃えたらかないません、メアリー、貴女の見解を、何でも良いから気が付いた事を全部話してみて」
「は、はい」
丁度いい、私がファストーロに旅立った後に任せようと思っていた事、この賢者さんにも手伝ってもらおう。
「リラ様から教わった魔法と同じに思いました」
「や、やはり!」
「しかし……、間違えていたらすいません、イズール様の魔法素人同然」
「し、素人?! こ、この私が?! キミは勘違いしている様だ、私の名誉の為に言わせて頂く、私のマナ属性は……」
「待って」
私はイズールの言葉を遮り、メアリーに目を向ける。
「メアリー、イズール様のマナ属性が何だか見える?」
「み、見る?!」
「はい、初めて見るマナ色です、おそらく無属性、少量ですが水属性もお持ちの二属性持ちではないでしょうか」
「なっ、キ、キミは何を言っているだ……」
メアリーの見解は正しい、無属性マナに、ごく少量だが水属性マナを感じ取れる。
当のイズールは水属性のマナ持ちである事には気が付いていない。
「メアリー、良く水属性を見逃さなかったわね、続けて」
「はい」
「ま、待て! 説明してくれ! 私は水属性のマナなど持ってはいない!
ん? ちょ、ちょっと待て、な、なぜ、私のマナが、む、無属性であると……」
何度も驚きの表情を浮かべ会話を遮るイズール、話が先に進まない。
——メアリーの見解を先に聞けよ! ……、まあ魔法オタクには無理か……。
私は決断する。
「メアリー、魔法の使用を許可します、見せてあげて」
「し、しかし!」
メアリーには人前で魔法を使う事を禁じていた、大事なるとわかっているから、それはメアリーも理解していた。
「大丈夫、もし、空気を読めない人だったらそれまで、この人との関わりは一切拒絶するから」
「は、はい」
メアリーは返事をすると魔法を発動させる、それはイズールのものと違い、小さく、一切ブレない魔法。
火属性……、風属性……、光属性……。
「なっ、ダブル?! ト、トリプルだと?! き、キミは……」
「私などリラ様に比べればまだまだ、ですが私のマナは火属性、風属性のマナも光属性のマナも持ってはいません」
「こ、古代魔法……、そうだ! 古代魔法には古代の遺産、アーティファクトが必要なはず、ど、どこに!」
メアリーは私に目を向け、私はそれに頷く。
「こちらですが、コレは私がリラ様の弟子になった証、触らせる事は出来ません」
メアリーは婚約指輪を見せる様に手の甲をそっと突き出した。




