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謎の美女と世界の意志

 招待状。

 拝啓、師走の候、リラ・トゥカーナ様におかれましては、ますますのご壮健のことと存じます……。

 

 さすが良いところの坊ちゃん、こう言う所は教育が行き届いているらしい。


 招待状の内容を要約すると、「虚栄ではなく結果見せてやるからツラかせや!」って事らしい、しかも明日……。


 招待状と称するなら期間に余裕を見るだろ、普通……、まあ、正規な手順を踏まれている以上、さすがの私も蔑ろには出来ない。


 ——行くしかないか……、でも何故、場所が訓練所?


 チーン……。


 ……。


 「リラお嬢様、お客様で御座います」


 「えー! またぁー?」


 例の一件以来、イズールは毎日の様に、他にも色々な人が私を訪ねて来る様になった。

 理由は、ランスのせいだ!


 「ランスロット殿下と仲良くされている姿を晒してしまったのです、仕方ありません。

 上級貴族の方であるなら兎も角、下級貴族の方は王家とのパイプを作るのは難しいのです、そこに自身よりも下位であるリラお嬢様と言うお手頃な存在を知ったのですから、当然の反応かと……」


 「お、お手頃って……」


 いつもの幼い令嬢に言い聞かせる様な口調で話すルーク、しかし、その顔は真剣な顔へと変貌する。


 「今回のお客様は少し毛色が違い……、聖クリッド教会のレダ・スコルピィ様です。

 リラお嬢様とデローグ殿の決闘に見届け人に名乗りを上げてくれた方なんですが、英雄の名を受け継ぐ謎多き御仁、気を付けて下さい、聖教が何か企んでいるのかも知れません」


 「……、聖教か、わかった」


 私とルークは応接の間に足を向けた。


 部屋に入るとそこには、神が作ったのではないかと思う美術品の様な女性が椅子に腰を下ろしていた。


 光沢のある紫色の長いサラサラの髪、それよりも濃い紫色の瞳を持つ彼女は、容姿端麗で、怪しいまでの妖艶さを持つ美女。


 私はその女性に悍ましさを感じた。


 着ている修道着は適度にはだけ……、胸の谷間が顔を出し!


 太もものあたりから、通常ではあり得ないスリットが入り……、そこからあらわになる組んでいる足は(まご)うことなき、素足!


 ルークも目のやり場に困っている様子。


 ——て、てめー! 本当に教会人(きょうかいじん)かよ!!


 気を付けて……、何かを企んでいるかも……。


 ——それ以前の問題だろ!


 「お待たせしました、はじめましてリラ・トゥカーナと申します」


 思う所は少し……、いや、いっぱいあるが、普通に挨拶を交わし、席に着く。

 しかし、私の挨拶を聞いたレダの様子は少しおかしかった。


 「はじめまして? 本当に?」


 「あっ、失礼しました、こうして話すのはと言う意味で、お会いした事は覚えています」


 ……。


 ……。


 変な沈黙が流れる、多少の沈黙には耐性のある私だったが、この時の沈黙は何故か耐えきれず、話を続ける。


 「今日は、どの様なご用でじょうか? 駆け引きは嫌なので初めに言っておきますが、王家の方に私がご紹介する事はありません」


 「ああ、そう言うお客様が多かったのね、想像は出来ます。

 でも安心して下さい、私はリラ様にお会いする為に来ました」


 ——はあ?! 私に会いにきた? それにしちゃあ露出が多すぎだろうが!! ウソがバレバレなんだよ!!


 「ウソではありませんよ?」


 「え?!」


 この人……、私の心を読んだ?!


 「貴女の表情を読み取っただけです、心の内が読める訳ではありません。

 長い事生きていると、そう言う特技も身についてしまいまして、あっ、服装の事ですが、私の趣味、気になさらないで下さい」


 ——長い事生きている……? それに趣味?! 教会の人間が?!


 「そうですよね、気になりますよね〜」


 レダはそう言いながら修道着の背中あたりに手を入れ、モゾモゾされると剣の柄ほどの黒い棒状の物を取り出す。


 シャオーン! パチン!!


 黒い棒状の何かから突然ニョロニョロとした物が伸びるとレダはそれをパチンと鳴らす。


 ……ムチが現れた。


 思考が止まる私とルーク、そんな私たちを尻目にレダの顔は笑みを浮かべている。


 「この格好でこのムチを振り回す、私にとって最高のひと時、これでわかって頂けたかしら?」


 ——え? わかって頂けた……、何が? いや、わかった事はある……、コイツはヤ、ヤバい奴だ!


 「レダ様、今日はもう遅いので、日を改めて……」


 私の思いを知ってか、知らぬか、ルークは早々に話をまとめ始めるが、次のレダの言葉で場の空気が激変する。


 「ルーク様、まだ良いじゃないですか〜」


 突如、甘える様な声を出すレダ。


 ルークには効果がない……。


 「そうですね〜」


 「え?!」


 ルークの方に目をやると焦点が合っていなかった。

 私がそれに気がつくとレダは不敵な笑みを浮かべる。


 「ルークに何をしたの」


 「あら、やっぱり貴女には効かないのね」


 レダから冷たいオーラが放たれ、私もそのオーラに抵抗、2人の間に目に見えない攻防が始まる。


 「サッサとルークを元に戻せよ……殺すよ?」


 「殺すだなんて、やはり貴女が……、危害を加えるつもりはないわ、人に聞かれたくない質問が2、3あるだけ、答えてくれなくても良いわよ? 聞いてくれるだけで、まあ、拒否されても何もするつもりはないから安心して」


 レダに殺気はない、只々、不気味な気配を放っている。


 「私の返答が今後どのんな影響を?」


 レダはきっと恐ろしく強い、今まで会った事のあるどんな奴よりも上、それは間違いない。


 「私のちょっとした興味ですので、神に誓って何もないわ」


 私が持てる力を全て使っても、勝てる保証が無い相手、本性を表したレダを前に私の鳥肌が止まらない。


 「じゃあ、答える保証は出来ないけど、質問は聞くよ、それに対して私も幾つが質問するけど?」


 「ええ、私の答えられる事なら、では1つ目ね。

 貴女、ウェズリットに会った事ある?」


 ——え?! ウェズリット?! 


 「ああ、答えなくても良いわ、やはり、偽物には会った事があるのね」


 ——に、偽物?! どう言う事?


 「じゃあ2つ目……、って言っても、今の反応でおおよその事は理解したから良いわ。

 どうする? ルークさんの魅了解除してしまって良いかしら?」


 レダに主導権が握られていた。

 聞きたい事はたくさんある、しかもルークに聞かれたくない事だ。


 「まだ呆けさせたいて良いよ、ウェズリットって、英雄ウェズリット・バーンの事?」


 一番はアイツが何者かと言う事だ。


 「ええ、でも私が聞いたのはリズの姿をした偽物の事、あっ、リズって言うのは彼女の事よ」


 「そう! その偽物ってどう言う意味?! アイツは何者なの?!」


 「世界を創り、世界の(ことわり)を創った、世界の意志……、姿も形も本当はない、ただの意志。

 アレを彼女と言って良いのかわからないけど、彼女はリズの姿をコピーして形どっている……、私が知っているのはそれだけ、貴女の質問の答えになったかしら?」


 ——世界の意志?! 神とは違うの? あっ! そう言えばこの指輪……、意志の指輪って。

 

 色々聞きたい事があったはずなのに、突然こんな機会が来ても……、でもアイツと違ってレダには会おうと思えば会える。

 なら、今、私が聞くべき事は……。


 「貴女は何者なの? 何でそんな事を知っているの?」 


 「そうね、それは大事よね、私は正真正銘、レダ・スコルピィ。

 英雄ウェズリット・バーンや他の英雄と共に魔王カルディナと戦った1人」


 ——え?! 本人?! レダ・スコルピィの名は受け継がれているんじゃ?

 ちょ、ちょっと待って、って事はこの人、何歳?! ん? そもそも魔王との戦いで死んだんじゃ?! そうだ! レダ・スコルピィって……、魔族って歴史書に……。


 「歴史書を読んだ事がある様ですね、この話、今は忘れて下さい、魅了の効果もそろそろ切れてしまいますし、今日はここまでにしましょう」


 混乱しているとレダは話を切り上げた。


 聞きたい事はあるがレダからは嘘を感じ取れない。

 私はそれに頷いた。

 

 程なくルークが我にかえり、レダは会話の辻褄を合わせるかの様に口を開く。


 「そうですよね、もう遅いですし日を改めましょう。

 そうだ、リラ様は読書が趣味とお聴きしました、こちら特別な魔導書です、リラ様であればきっと読む事が出来るでしょう。

 では、失礼致しますね」


 レダは私に一冊の書を手渡すと、ルークの案内で玄関へと向かい、帰って行った。


 戻ってきたルークは……。


 「リ、リラ様……、あ、あの方は危険です! ム、ムチを振り回すのが趣味なんて……、き、危険人物です」


 当然、レダをヤバい人認定していた。


 

 


 

 

 

 

 

 


 

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