意外な訪問客
私が会場に戻ると、お爺様の姿はもうそこには無かった、家庭教師の件は無理だと判断したのだろう、なんとも淡白な事だ。
授業試験は閉会する事なく終わりを迎えた。
今回の目的は、しつこいお爺様を黙らせる事、結果としては上々なのだが私は納得していなかった。
帰りの馬車の中、私の妄想が炸裂する。
——ど、どうしてこうなった……。
計画ではミーシアを煽りに煽りまくって暴走させ。
「無才の分際で生意気ですわ! 模擬戦で白黒つけましてよ!」
そして、私がそれに対して言い放つ! ドヤ顔で。
「お前だけでは話にならん、まとめてかかってくるがいい!」
ああ言う輩はすぐ図に乗る、徹底的にやっておかなければ、再度挑んで来やがるトコトンやるつもりでいたが蓋を開けてみれば、あの偉そうな貴族1匹だけ……。
——次があったらボッコボコにしてやる!
フフフフッ……。
「何笑ってるんですか! 帰って来たらミラ様に報告しますからね!」
「え?!」
「え?! じゃ、ないでしょう! 結果はどうあれ問題だけは起こさない様、言われていたでしょう!
まさか、あんな事になるとは思ってもいませんでしたよ!
まあ、私が言わずも、ミラ様はもうご存知とは思いますけどね」
「え?! ちょっと待って! 全然問題無かったじゃん!」
私とルークの見解は驚くべき差があった。
父様はジル兄様によくこんな事を言っていた「やられたらやり返せ」と、ルークはウチの家訓を知らない、今回の私の行動で母様に怒られる事などあり得ないのだ。
……。
……。
「どう言う事なの、リラ! ミーシア様に授業をさせずに、公子様やオースナー家の者と決闘?!
それに1000億とは何の事ですか?!」
冬の夜は早い、日が落ちてから1時間、仕事を終え帰宅した母様は予想に反して、生まれて初めて私に大声を上げた。
誰か内容をはぶき説明した様だ、情報とは正確に伝わってこそ意味をなす。
——まったく、どこの誰だよめんどくさい……。
「母様、ミーシア様に授業をさせなかったのではありません、そもそもあの方に教師たる器が無かったのです。
それにオースナーの方とは模擬戦と理解しています、その方は私ではなく、メアリーがお相手致しました、あっ、メアリーは当然無傷ですよ、あの様な者がメアリーに傷一つ付けられる訳ございません。
公子様との決闘ですが、安心して下さい一切お怪我をさせておりません、ちゃんと手加減致しました、本当ですよ? 私も公爵様の御子息に怪我をさせてしまう程バカではありません。
会場でご覧になった方ならご理解して頂けたと思います。
1000億Gに関しては公子様自ら提示なされた金額、頂いてもよろしいかと思います」
ちゃんと説明すれば、怒られる事なんて何もないのに、どこの誰だよ! 話を湾曲させ母様に伝えたのは!!
……。
……。
「私の聞き間違いとも思いましたが……、本当の事だったのね……」
母様は表現を一切変えず、怒りのボルテージだけが上がって行く様に見えた。
——ん? も、問題ないでしょ?! 全然!
「ミーシア様の事はまあいいでしょう、事実、仕方が無いと言う声も多くありましたし、でずかその後の事が全く理解出来ません!
聞く所によるとオースナー家次男のアデル、スレイン公爵の御子息デローグ様共に何も出来ず貴女方に負けたそうじゃないですか!」
——あっ、そう言う事か……。
怒りが止まない母様を見て私は気がつく、母様の一番嫌いな事……。
「母様は前々から弱き者を助けられる大人になりなさいと申しておりました。
母様が弱い者イジメはお嫌いだと言う事は私もわかっております!
しかし、あれは弱い者イジメではありません! 強いて言うならグスイジメでしょうか。
そもそもあの程度の実力で喧嘩を打ってくるとは思いもしませんでした」
「「……」」
初めから弱いのはわかっていたけど、知らなかった事を強調、これで不可抗力だった事を植え付ける。
母様とルークは沈黙し、私は同意とみなし話を続ける。
「あの2人はアランとミランを傷付けたグスども、しかも相手方からの申し出です。
通常であれば遊んで差し上げても良かったでしょう、私も少し大人気無かったと、思う所はあります、しかし! 家族を傷付けられ、そこまでの恩恵を与える必要があるでしょうか?
私はそう思いません! 必要なのは教育と考え、今回の様な行動をとりました。
それに母様はグスには容赦しないと父様もおっしゃってました!」
「「……」」
大人気なかったと反省を口にする事で好印象を与えて、止めに親の背中を忖度したと責任の全てをぶん投げフィニッシュ!
——か、完璧だ!
「そ、そうね、よくよく考えてみたら……、城で色々とリラの事で質問されて、気が動転していた見たい……、で、でも、弱いとかクズとか相手方の矜持を汚す様な言葉は控えなくては、い、いけませんよ?」
「はい! 肝に銘じます!」
「ミ、ミラ様! リラお嬢様の言動は行き過ぎています! ここで甘やかしては……」
「ルークが言っている事もわかるわ、でもリラが悪い事をした訳ではないでしょ?
魔物大進行の時も今回も……、ちょっと無茶が過ぎるけど……」
——ほほう、ルークが元凶か!
私はルークに冷たい目線を送ると、それに気が付いたルークは目を合わそうとしなかった。
「母様、私ももっと考えて行動する様にするね」
「ええ、そうして頂戴ね」
母様は私の頭をポンポンと2回すると優しい笑顔を見せる。
さて……。
「ルーク、今回の反省も含めお話しましょう。(ルーク、テメーちょっとツラかせや!)」
ルークは私の意図を理解したのか、目が泳ぎまくり何かを口にしようとした瞬間。
チーン……。
訪問客を知らせるベルが鳴った。
「わ、私が!」
ルークは食い気味に名乗りを上げ、足早に玄関へと消えていった。
「こんな時間にどなたかしら……」
騎士爵家と言えど貴族である事は間違いない、貴族の屋敷に夜、突然の訪問客。
それは重要な案件であったり、緊急を有する案件の場合が多い。
しかし、今回トゥカーナ家にやって来たのは意外な人物だった。
「レ、レイナード様?! な、なぜ貴方様がこちらに……」
訪問して来たのはイズール・レイナード伯爵、歳は20代後半、サラッとした白銀の髪を背中まで伸ばし、高貴な白いローブを身に纏っている。
魔法に関する著書を幾つも書き上げ、国よりグランドキャスター称号を得ている、親の爵位を継ぐ事なく若くして爵位を賜った。
現在は公国図書館に在籍し、館長の肩書きを持つ。
しかし、その席の責務を放棄し、魔法研究に没頭する魔法オタクである。
それは国も認めていた。
上級貴族の突然の訪問、母様はすぐにイズールを迎え、応接の間に通された。
程なく私とメアリーが呼ばれる。
——嫌な予感しかしない……。
コンコン……。
「失礼致します、お呼びによりリラ・トゥカーナ参りました」
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は12月24日(金)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
応援宜しくお願いします。




