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檻に囚われし者たち

 さて、お仕置きの時間だ。

 私は火にかけた大きなフライパンをそのままに、大きなハンマーを手にし、鉄部をズリズリと引きずりながらデローグに近づく。


 「ま、ま、ま、まて! それで何をする気だ! 俺はスレイン公爵家の人間だぞ! どうなるかわかってるんだろうな!」


 公爵家? 私には全くもって関係ない。


 「フフフッ、喧嘩はさ相手を選ばないとお坊っちゃん、もしかして私に勝てるとでも思った? 思っちゃった? でもさ、私の家族に手を出した瞬間からキミたちは終わってるんだよ」


 「まて! アレは俺じゃない! アデルだ、アデルがやったんだ! それにあれはただの兄弟喧嘩じゃないか!」

 

 「わかってないなぁ〜、そんなの理由にならないし、理由なんて関係ないよ? その為にこの状況を作ったんだから、模擬戦くらいを考えてたけど、まさか決闘とはね、嬉しい誤算だったよ、ペチャっと行く? それともスパッと? でもオススメはやっぱりアレ、ちょっと待ってね、火属性の付与が終わったら脳天にジュッと出来るから」


 私は目をクリクリさせながら言う。


 「ま、まて! 話を聞け!」


 「フフフッ、脳天をジュッてするとさ、髪の毛はチリチリに……、いや、無くなるね、きっと

 皮膚は真っ赤に……、いや、ただれるよね、なんて言っても火属性付与だからね、フフフッ。

 それにメイド服でしょ? きっと可愛いよぉ〜」


 「と、取り敢えず落ち着け!」


 「フフフッ、やあ〜、決闘って面白いよね、何しても怒られないんだもん、ゾクゾクするよね〜」


 怯えた様子のデローグ、会場もそれと同じく幽霊を見る様な目を私に向ける、大はしゃぎしているのはティファだけであったが、それも異様な空気に拍車をかけ、ランスもルークもひいている。


 「し、審判! 早く止めろ、中止だ!」 


 ルールに制限は設けていない、当然、ジェイクは止める事など無い。


 「負けを認めると言う事か?」


 「み、認める訳ないだろ! こんなのは決闘じゃない! そ、そう、反則だ!

 無才がこんな事出来る訳がない、誰か、会場の誰かの協力があったんだ! そうに違いない!」


 更に訴えかけるがジェイクは呆れた様子を見せる。


 「決闘開始と同時に外部との間に結界をはってある、何か有ればすぐにわかんだよ、闘技場外からの干渉はねぇー、残念だが続行だ」

 

 「ふざけんな! そ、そうだ! 魔導具か何か使ったんだ! 早く! 早くアイツを調べろ!」


 「いや、調べろって言われてもよぉ……、制限ねぇーから持ってても問題はねぇーぞ?

 それにお前が持ってた剣だって魔導具じゃねぇーか。

 それにしてもヴァンのヤツ、娘を溺愛してるのは知ってたが、こんな恐ろしい事の出来る魔導具待たせてるとはな……。

 悪い事は言わねぇー、そこから抜け出せねぇーなら、さっさと負けを認めた方がいいぜ?」


 絶望するデローグ、そして程なくフライパンが十分熱せられ、それを見たデローグは負けを認めた。

 こうして私には途方もないお金を約束され、デローグはメイド服で生活する事となったのだが……。


 「リラ、頼む! 流石にそれは俺も見てられない、どうか許してやってくれ!」


 ギルドの控室、ランスが手を合わせ私に頼み込む。

 その傍にはメイド服を着たデローグが泣きそうな顔をして震えていた。

 少し短めのスカートからチラ見する純白のガーターベルト、胸のあたりには大きなハートのアップリケ、それらに見劣りしないヘッドドレス。


 他に類を見ない完璧なメイド姿。


 ランスはそれを見ていられないらしい。


 「でもなぁ〜、私勝ったし」


 「さ、流石にこれは……、それにデローグは腐っても公爵家の人間だ、この国が他国から笑いものにされてしまう。

 頼む! 金はどんな事をしてでも払わせる! この国の為と思ってこれだけは許してやってほしい!」

 

 「でもなぁ〜、それってランスだけの意見でしょ?」




◆◇◆◇




 この結果を誰が予想したでしょう……。

 蓋を開けてみればデローグ殿は何も出来ず、リラお嬢様の圧勝。

 会場はどよめき、皆の表情は死んでいました。


 いえ、唯一、ティファ様はこの結果が当然の如く振る舞っております。

 リラお嬢様にティファ様、そしてメアリーさん、最近この御三方で集まり特訓していると申しておりましたが誰もが遊びと思っておりました。


 ローレンス陛下やランス様、それに私も……。


 しかし、それは間違いだったのかも知れません、メアリーさんのあの一撃、それにデローグ殿が埋められたあの現象、皆は魔導具を使用したと思っておいでですが、そもそもあの様な現象を起こす魔導具など聞いた事がありません。

 

 ——あれはリラお嬢様の魔法……?


 私がそんな事を考えていた最中、1人の若い男が私に耳打ちをして来ました。


 「ルーク様、ランス殿下がお呼びです、至急、控室まで来る様にと」


 それはランス様の従者、耳打ちをして来たと言う事は極秘にと言う事でしょう。


 控室……、現在デローグ殿が例の服に着替える為に使っている部屋。

 

 何かあったのかも知れません……、まさか! リラお嬢様に何か?!


 「わかりました」


 私は足早に控室へと向かいました。


 ——え? 


 控室に入ると……、何と言いますか、悍ましい光景を目にします。

 デローグ殿はメアリーさんを景品とし、6歳の少女に決闘を申し込んだ救いようの無いゲス野郎、同情などする余地もない。


 「ま、待てリラ、頼む! そ、それは余りにも……」


 ——ん? ランス様が何故リラお嬢様に……?


 「あっ、良い所に来たルーク! リラを説得してくれ!」


 ——え? リラお嬢様を私が……?


 「どう言う事でしょう?」


 これはデローグ殿の自業自得、同情の余地など……。


 ランス様はここまでの経緯を語り始めます。


 ……。


 ……。


 ——こ、これは惨過ぎる!


 色々な事があり忘れておりました、リラお嬢様の……、恐ろしさを。

 一度弱みを見せたら最後、じわじわとドン底まで引き摺り込まれ、逃げ出す事など皆無。

 

 デローグ殿はやってはならぬ事をした、しかし、それでもこれは……。


 

 ※いつ何時であろうともメイド服を着なくてはならない、一切の例外を認めない。

 


 リラお嬢様の主張に妥協はありません。


 寝る時であっても、公の場であろうとも、それが戦場であっても同じ事……。

 

 地獄……、いや、地獄の方がまだ希望がある。

 

 私はランス様と共にリラお嬢様を説得しました。


 「ほら、ルークだって言っているじゃないか、私だけの意見ではなかっただろ?」


 ——しかし、本当に恐ろしい条件だ、リラお嬢様はいつかの様な条件を……。


 「でも、決闘の条件だったでしょ?」


 「ああ、確かにそうだが1000億ガルドで十分だろ」


 ——ん? このメイド服はいつ用意した? 少なくとも私はこんなメイド服を見た事が無い……特注?!


 「わかった、じゃあ、今後コイツが私に逆らったら今度こそメイド服だからね、その時までは猶予期間って事で」


 「逆らったら……か、どうするんだデローグ、そうそうリラに合う事はないだろう。

 俺だってお前のした事は許せない、この辺りが妥協案だろう、お前だってそんな格好で生きて行きたくはないだろう?」


 「わ、わかった……、それに従おう……」


 ——じゃあ、数日前からこの状況を予見して……。


 「それと、もしコイツがまた何かやったら連帯責任、ランスも()()()も1日メイド服だから」


 ——……はい?!


 「ちょ、ちょっと……、まあ1日か……、我々がリスクを負わないと言うのも……、わかった、それでいい」


 ——よくない、よくない! そもそも私は関係ないだろ!!


 「ちょっと待って下さい! 私は……」


 「10回やったら10日だからね〜、じゃ、私はこれで〜」


 ……。


 ……。


 「なんて約束してるんですか! するならランス様お1人でして下さいよ!」


 「い、いや、1人はちょっと……」


 「リラお嬢様は恐ろしいと言ったでしょう! 貴方も十分わかっているはずです!」


 「い、いや、だから1人はちょっと」


 「ギャグではすみませんよ! 例え国際的な席であろうともリラお嬢様、あの方は容赦と言う言葉を知りません! 

 ……、デローグ殿……、今すぐ死んでいただきます……」


 「ま、待てルーク!!」


 「いえ、待ちません……、コイツが生きている限り、生きている限り私の平安はありません!!」


 この時の私は……、恐怖のあまり我を無くしていました。

 その後、私とランス様、そして私たちのやり取りでリラお嬢様の恐ろしさを感じたデローグ殿、3人は何ともいけぬ絆で結ばれる事となり、この数日後、()()1人と信者が1人が我々の仲間となるのです。

 

 

 

 読んで頂きありがとうございます。


 次回投稿は12月20日(月)の予定です。

 

 多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。


 応援宜しくお願いします。

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