国が認めた決闘
私の目的は只々、復讐すれば良いと言う事ではない。
勝ったら無礼を許す? 負けたらメアリーを自分のメイドにする?
勝てるとしてもそんな条件……。
——受ける訳ねぇーだろ!
私はルークの投げた手袋を拾う。
「何を呆けているのです? 受ける理由がありませんし、そんな条件受ける訳ないでしょう」
ルークたちは不安を抱えながらも、少し安堵の表情をみせる……、だがしかし、その表情は一気に凍りつく。
——テメーは許さんよ?
私は拾った手袋をデローグに投げつけた。
当然、決闘の申込み。
——私の家族を傷つけた事、メアリーを物みたいに扱った事。
そして、何より私に上等こえた事、後悔させてやんよ!
「貴方が勝ったら今までの無礼を許してやるよ、負けたなら、その瞬間から一生メイドの姿で出歩きなさい!
ほら、拾いなさい、戦闘不能、もしくは負けを認めたら終了、それ以外は何でもありよ、何でも……。
私は優しいでしょ? 所有物にせず服装だけで許してあげるのですから。
ま、まさか! 断りはしないよね?!
あんなドヤ顔決めといて、自分が不平等の条件叩きつけられたら逃げるなんて恥ずかしい事しないよね?!
ほ〜ら……、拾え」
デローグの怒りのボルテージは限界を超え、今にも爆発するのではないかと言うほど、顔を真っ赤に染めた。
「ま、待ちなさい!」
今まで空気だったミーシアが割って入るが、デローグは静かに手袋を拾う。
「受けてやろうクソガキ、だが内容を少し変更だ。
お前が負けたら、お前とそこのメイドは俺の奴隷にする」
——は?! この国に奴隷制度はねぇーだろ! 馬鹿なの?コイツ。
「デ、デローグ! それは犯罪だ!」
「ランスロット、それくらい知ってんだよ、だが例外があるだろ?」
「……」
「そうだ、借金、でっち上げは論外だが正規の手順で交わされた借金、それを返せる見込みが無ければ準奴隷、借金をした当人のみを借金奴隷として奴隷の所有を許される。
まあ、借り逃げを抑止する為の制度で、そんなヤツはほとんどいないが、ゼロではないだろ?」
「……」
デローグの言葉にランスロットは沈黙する。
デローグの言った事は本当らしい。
——って事は……。
「この決闘に金をかける、お前が5億、そして、そのメイドが5億だ。
当然、お前は納得出来ないだろう、だから俺が負けたら10倍、50億払おう、これで文句ないだろ?」
庶民の収入は生涯通しても平均2億ほど、女性だけで見れば更に少ない。
庶民にとって5億の借金とは絶望する金額である。
それを聞いたランスロットは安堵の表情みせる。
それは、少々私のお財布事情に詳しいからだ。
——私、多分払えちゃう!
「2人で10億? 払えちゃうから奴隷にはならないけど良いの?」
「バ、バカ、リラ!」
ランスもルークも声を荒げるが私は気にしない。
「ま、まて! 1人10億だ!」
「んー、さっき返せる見込みがなかったらって言ったよね? ローンなら行けちゃうかなぁ〜」
「じゃ、じゃあ、ひ、1人50億!」
「んー、どうだろう、行けるんじゃないかなぁ〜」
「ひ、1人100億だ!」
100億だろうが、この世界には錬成出来るの少ないらしいし……。
——余裕な気がするが、まあ、この辺で手を打つか。
「んー、行けるとは思うんだけど、まあ、この辺が妥当かな、って事は貴方が負けたら1000億って事になるけど大丈夫?
私、貴方なんか奴隷にいらないよ?」
デローグは焦りながらも払えると断言し、それをランスに訪ねると、微妙である事が判明した。
そして、ランスがある提案をしてくる。
間に王家、つまりランスが負けた方からお金を回収し、当人に受け渡すと言うもの。
私が負けた場合、王家が支払う事が出来、デローグが負けた場合、私を暗殺し支払いを免れようとしない為、私たちの事を配慮しての事だった。
こうして決闘は双方了承のもと、行われる事が決まり、急遽、契約の為に必要な書面を誰かが取りに行った。
「何考えてるんだ!」
そして……、私はランスとルークに呼ばれ、こっぴどく怒られたのだった。
◆◇◆◇
書面が届く頃にはアデルもある程度回復し、事の次第聞いたアデルは終始ニヤついていた。
「まさかデローグ様に決闘を挑むなんて、才が無いと脳みそも無いんですかねぇ。
しかも、アイツ土属性らしいですよ、ほとんど攻撃に使えないクズ属性、ちょっと不憫で可哀想になってきましたよ」
「不憫だろうが、俺には関係ない。
アイツら王家とも少なからず繋がりがある様だし、我らが貴族派の交渉材料にもなってくれるだろう。
どう転んでも我らにとって有益なのは間違えない」
私を軽んじるアデルに、結果を待たずしてその先を見据えるデローグ。
土属性がクズ属性? 何を言っているのか訳がわからない、全ての属性は一長一短、しかし……。
——私の土属性に弱点はない。
「では、署名式を始める! 見届け人は双方の派閥に組していない、レダ・スコルピィ殿とイズール・レイナード殿にお願いする事になった。
審判はギルドマスター、ジェイク殿、異論ある者は挙手にて答えろ」
ランスが場を仕切り決闘の儀式を始める。
「「「……」」」
「挙手がないので、異論無しと認める。
次に決闘の内容に関してだが、武器、魔法、その他制限を設けない。
勝敗は戦闘不能、もしくは当人が負けを認めた時のみ、戦闘不能の判断は意識がない時のみ、ジェイク殿の判断で決する事とする。
勝者がリラ・トゥカーナ殿の場合、デローグ殿は今後メイド服の着用が義務付けられ、更にリラ・トゥカーナ殿に1000億Gの支払い義務を課す。
勝者がデローグ殿の場合、リラ・トゥカーナ殿はデローグ殿に200億Gの支払い義務を課す。
この決闘後、両家に一切の衝突を禁止とする。
以上、異論ある者は挙手にて答えろ」
「「「……」」」
「挙手が無いので異論無しと認める。
では、この決闘は正規の手続きをもって行われる。
双方の前にある契約書は我がロンフェロー公国のシンボルが刻まれた魔法紙である。
内容を確認し双方署名を。
それに署名し、守らなかった場合は、国家反逆罪となる、心せよ。
……。
よし、両名の署名をもって、決闘は確約された。
これはロンフェロー公国が認めた決闘である!
覚悟ある者のみここに残れ、これより30分後を決闘の開始とする。以上だ」
国が認めた決闘は神聖なもの、誇りや国の矜持をかけ決闘する事もある。安直な流言は不敬罪にあたり罰せられるのだ。
飲みの場や少し口を滑らせた者が罰せられた事もある。
気がつくと会場の人数は減っていた。
「リラお嬢様、もう、我々では決闘を止める事は出来ません。
本当に……、何を考えているんですか」
さっきひたすら怒られたのにルークはまだご立腹でした。
「アランとミランを傷つけた代償は払ってもらう、これは絶対」
これだけは曲げられない、私は不貞腐れた演技を完璧にこなす。
ルークもそれをわかってか、渋々理解した。
「金の事は心配するな、危険だと思ったら直ぐに負けを認めるんだ、いいな」
「ありがとうランス、でも大丈夫、今回私は手加減しない」
——私には幾らでも隠し球がある! いざとなったらアレにだってなってやる!
そして、30分後……、遂に決闘が始まる。
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は12月13日(月)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
応援宜しくお願いします。




