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メアリー出撃

 ミーシアやアデルやミーシアの弟子たちは、闘技場の隅で身を寄せ合っている。

 断熱結界が解除され、寒さに耐えきれず会場を後にした者もいた。


 「ほら、お時間ですよミーシア様」


 私が再度、時間である事知らせると厚着したミーシアが鬼の形相でやって来る。


 「こ、こんな状況で授業なんて出来ますか!」


 「こんな状況とは? メアリー、この状況は問題あるのですか?」


 「すいません、私にも分かりかねます」


 目の前には厚着したミーシア、風の当たらなぬ所には、これまた厚着したアデルやミーシアの弟子たちが身を寄せ合う。

 寒さの事、そんな事は私もメアリーもわかっている。

 しかし、それを知らない様に装う。


 「なっ、見ればわかるでしょ! この寒空の中、授業など!」


 「メアリー、寒いですか?」


 「そうですね、部屋の中よりは少々寒いのかも知れません」  


 私たちはワンピース1枚、寒そうな素振りは全く見せない。


 「まあ、それはそうでしょうけど、年始は今以上に寒いと思うのですけど」


 「あっ、そうですね、そう考えればまだ暖かい方ですね」


 私はニヤリと、メアリーは鋭い眼差しで、ミーシア見つめる。


 出会って間もないが、メアリーにとって弟や妹の様な存在になったアランとミラン。

 私が怒りをあらわにした、心情を押し殺しメアリーは必死になって私を止めが、メアリーの怒りは想像を超えていた。


 「ミーシア! 早く始めんか!」


 ミーシアの父、トーレスが痺れを切らせ声を荒げる。

 お爺様やトーレスの周りには人が集まっていた、よく見るとイズールと言う魔法士が断熱結界を展開させている。


 「ですってよ、ミーシア様」


 「この無才が……、アデル!」


 アデルは震えながらも進行させる。

 

 期間は3年、週4日、1日2時間を目安。

 初年度は基礎授業を中心に行い、初級魔法を、2年目以降は上達を考慮し進めて行く、と授業計画を話す。


 ——そろそろかな? 


 私はメアリーに目線を送ると静かに頷く、ついでにそれをティファに向けると、期待の眼差しが返って来た。


 「貴方、頭大丈夫ですか? 人の話を聞いていました?」


 「な、何だと?!」

 

 「ですから、初等部では魔法の基礎に初級魔法、中等部では、実技の授業も始まり、後半には下級魔法の授業。

 高等部からは魔法の授業は選択制になり、中級以上の魔法や高速術式など授業がある基本魔法学、魔導具などを作る魔導工学、新たな魔法を研究する、術式設計学、これらは全て学び場で学べる事。


 聞いてました?


 私は学び場では学べない授業と言ったのですよ?

 本当に貴方方は何がしたいのですか、醜態を晒すのが目的ですか?

 勘弁して下さい、私は貴方方の様に暇じゃ無いんですよ」 

 

 アデルに詰め寄ると、真っ赤な顔をし激怒する。


 「ひ、暇だと! こんな場だからと言って調子に乗るなよ! 魔法の魔の字も知らない分際で、学び場で学べる事は学び場でだと?!

 才ある優秀な者でさえ優秀な家庭教師を迎え学んでいるんだ、貴様如きが偉そうな口を聞くな!!」


 遂に公の場でキレるアデル。


 ——ミーシアにキレたもらいたかったけど……、まあ、コイツでいっか!


 「それは貴方たちがって事でしょ? 私は学び場の授業で十分、貴方方と出来が違うのですから、それともこの場にいる者たちが私よりも優秀であるとでも?」


 「な、なにを……、何を言い出すかと思えば、我々が優秀なのかだと?

 す、凄いな、無知とはここまで無知になれるのか。

 ミーシア様、このお嬢様には口で言ってもわからない様です」


 やっと()()()が思っていた方向に事が進み始める。


 「そうね、身の程を分からす事も教師として必要なスキルかも知れません」


 ——良い流れだ! 


 私はこの流れを確固たるモノにすべく、更に煽る。


 「はぁ、貴女も人の話を理解出来ない人ですか、教師として必要なスキルかも知れません?

 今、お気づきなったのですか? 生徒の実力を知り、それを理解させ、生徒に合った指導を行う、ごく当たり前の事ですよ?

 貴女こそ身の程知った方がよろしいと思いますよ、まずは私が指導して差し上げましょう」


 騒めく会場、呆気に取られていたミーシアが我に帰り怒りをあらわにする。


 「わ、わたくしを指導ですって?!」


 「そうです、まずは指導者としての身の程を教えて差し上げましょう、アラン様はミーシア様のお弟子さんなんですってね、メアリー、私の弟子として()()()わね?」


 「はい! お任せください」



◆◇◆◇



 「遂に始まりました! お仕置きのお時間です!」


 会場全体が呆気に取られている中、ティファ様が嬉しそうにはしゃぎ始めます。

 

 ——メ、メアリーさんが、た、戦う?!


 あり得ません! メアリーさんはごくごく普通のメイドさん、戦うなどあり得ません。

 しかもお相手は、オースナー家次男のアデル、アデルもミーシア嬢同様、ローランド流の門下生とお聞きします。

 ローランド流はアルカーナ七門流派(しちもんりゅうは)、デゼルト十指流派(じっしりゅうは)にも引けを取らない名門道場。

 アデルの実力の程は知りませんが、間違いなくそこら辺の剣術自慢では相手にならないでしょう。

 そんなアデルとメアリーさんが戦う?


 「リラお嬢様! 何を言い出すんですか!!」


 気がつくと私は大声を上げていました。

 それに答えたのはリラお嬢様ではなく、メアリーさんでした。


 「ルーク様、心配ご無用です」


 そう言ったメアリーさんは今までに見た事が無い、冷たい表情をしていました。


 「ルーク様、メアリーお姉様がおっしゃった通り、心配は無用です。

 何と言っても逆天・無双流の筆頭、あっ、私は次席ですよ!」


 「ちょ、ティファ、何言ってるんだ?!」


 ランス様も困惑しているご様子。


 ——メアリー……、お姉様? 逆天・無双流? ティファ様は何をおっしゃられて……、いるのでしょう?


 「メイドが俺の相手をするだと?!」


 「怖いのですか?」


 リラお嬢様はここに来てもブレる事なく相手を煽ります。

 リラお嬢様を相手にした者はことごとく完膚なきまでにやられてきました、私を含め……、今回もそうなる? いえ、それはリラお嬢様だったからに他ありません。


 「ルーク様もランス兄様も心配し過ぎです、あのアデルとか言う知れ者、事もあろうかトゥカーナ家の使用人に手を上げたそうじゃないですか。

 しかも、メアリーお姉様の大事な後輩、今回はお姉様にお譲りする事にしたのです。

 本当であれば私が一番槍を賜りたかったのです!

 見ていて下さい、メアリーお姉様は絶対に負けません!」


 どう言う訳でしょう……、元気になられたのは誠に喜ばしい事ですが、ティファ様の物言い……。


 ——リラお嬢様の影響でしょう……、間違いなく……。


 「そこまでおっしゃるなら、良いでしょう、貴女の弟子と言うのは(はなは)だ疑問ですが、認めましょう。

 アデル、お相手して差し上げなさい」


 「わかりました、しかし、私は剣士、模擬剣を使用し、手加減もしませんよ?」


 ——確かに3人は鍛錬と称して王城裏にて何やらやっていたそうですが、これは遊びではありません。


 「どうぞ、ご自由に、メアリー、魔法と武器の使用を禁じます。

 手加減して差し上げなさい」


 「はい、お任せ下さいリラ様、()()()手加減は致します」


 ——やはり止めた方良いのでは……? メアリーさんが怪我をしてしまうかも……。


 「無能の取り巻きはやはり無能か、ローランド流を知らないと見える」


 「リラ様が無能? 無知とは何と愚かな」


 ——で、でも止められる様な空気では……。


 「本当によろしいのですか? 可哀想に貴女の可愛いメイドさん、明日から外を歩けなくなるわよ?」


 「貴女の弟子程度に、私のメアリーが? 冗談がお上手です事」


 「ちっ、後で吠え面かくなよ!」


 ——いや、これは止めるべき!


 「吠え面かいて見たいですね、では、開始の合図は私が、よろしいですか? ……、始め!!」


 ドゴーーン!!


 ——え?


 「「「「……」」」」


 ……。


 ……。


 私が気が付いた時には……、アデルは西側の塀まで吹き飛び……。

 拳を前に突き出した、天使がそれはそれは恐ろしい形相をし、立っていました。


 

 

 


 

 

 

 読んで頂きありがとうございます。


 次回投稿は12月3日(金)の予定です。

 

 多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。


 応援宜しくお願いします。

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